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未音亭日記

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未音亭@ Re[1]:セバスティアン・デ・アルベロ「30のソナタ」(01/15) tekutekuさんへ これまた情報ありがとうご…
tekuteku@ Re:セバスティアン・デ・アルベロ「30のソナタ」(01/15) ジョゼフ・ペインのライナーノーツに関し…
tekuteku@ Re:セバスティアン・デ・アルベロ「30のソナタ」(01/15) ジョゼフ・ペインのライナーノーツに関し…
未音亭@ Re[1]:セバスティアン・デ・アルベロ「30のソナタ」(01/15) Todorokiさんへ コメントありがとうござい…

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July 28, 2024
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カテゴリ:音楽
先週の朝古楽の前半で、2022年にスペイン、マドリードで行われた「バンジャマン・アラール チェンバロ・リサイタル」の録音が2日間にわたって放送されました。番組MCである安川智子さんによるこの演奏会や楽曲についての解説、実に簡にして要を得たものだったので、以下に亭主の筆耕で引用させていただきましょう。
 なお、その後ネットを検索したところ、このリサイタルの一部(スカルラッティの「猫のフーガ」とバッハのパルティータ第5番を除いたもの)を映像共々収録した動画がYouTubeに公開されていましたので、以下にリンクを置いておきます。朝古楽の放送を聞き逃した方も、番組の解説記事とともにこの動画を眺めると、アラールがプログラムに込めた意図を想像しながら何倍も楽しめると思います。

演奏プログラム:
 スカルラッティ ソナタ ト短調 K.8
 ヘンデル《組曲》 ト短調 HWV432
 スカルラッティ ソナタ ト短調 K4
 ラモー 《新しいクラブサン曲集》から「エジプトの女」
 スカルラッティ ソナタ ト短調 K.12
 ラモー 《新しいクラブサン曲集》から「雌鶏」
 スカルラッティ ソナタ ト長調 K.13
 同       ソナタ ト長調 K.14
 バッハ 《ゴルトベルク変奏曲》BWV988から第23変奏
 同                   第14変奏
 スカルラッティ ソナタ ト長調 K. 2
 バッハ 《協奏曲》BWV978(原曲:ヴィヴァルディ バイオリン協奏曲ト長調 RV.310)
 ラモー 《新しいクラブサン曲集》から「エンハーモニック」
 スカルラッティ ソナタ ト短調「ねこのフーガ」K.30
 バッハ 《パルティータ》第5番 ト長調 BWV829
 (2022年10月5日 フアン・マルク財団コンサートホール、スペイン・マドリード)




     *      *      *      *      *

[「古楽の楽しみ」、7月22−23日放送より]
今回お届けする演奏会は、ドメニコ・スカルラッティに焦点を当てた「スカルラッティの足跡」というテーマによる5つのリサイタルシリーズのひとつです。
 5人の鍵盤楽器奏者がそれぞれひとつのリサイタル を担当し、バンジャマン・アラールはそのトップバッターとして「スカルラッティ—マドリードからヨーロッパへ」というテーマを掲げました。ドメニコ・スカルラッティとその同世代の天才鍵盤楽器奏者たち、すなわちヘンデル、ラモー、バッハの作品をちりばめた贅沢なプログラムによるチェンバロリサイタルです。さらに、全ての曲がト短調またはト長調の楽曲から選ばれているため、あたかも一続きであるかのように聞こえます。
 なお、今回の解説ではチェンバロと同じ意味で英語のハープシコード、フランス語のクラブサンという言葉も用います。まずは最初の2曲、スカルラッティのソナタとヘンデルの組曲をお聴きいただきましょう。
 ドメニコ・スカルラッティは1685年にナポリに生まれました。同じ1685年にヘンデルとヨハン・セバスティアン・バッハがドイツに生まれており、フランスのラモーはスカルラッティより2歳年長となります。
 スカルラッティの鍵盤楽曲は550曲以上あると言われるソナタが中心で、これらのソナタは基本的に単一の楽章の形をとっています。今回は全て1739年にロンドンで出版された《練習曲集》の中から選曲されています。また、ヘンデルの組曲ト短調は1720年にロンドンで出版された《ハープシコード組曲第1集》の第7番で、ヘンデルの若きハンブルク時代に作曲された楽章も含まれています。フランス風の序曲に始まり、アンダンテ、アレグロ、サラバンド、ジーグと続いて、最後に有名な「パッサカリア」へと到達します。それではお送りします。
 スカルラッティ ソナタ ト短調 K.8
 ヘンデル 組曲 ト短調 HWV432

 バンジャマン・アラールは1985年にフランスに生まれ、2004年にブルージュ国際古楽コンクール・チェンバロ部門で第1位を受賞、現在チェンバロとオルガン、そして室内楽の演奏を中心に精力的な活動を展開しています。
 今回のプログラムはドメニコ・スカルラッティを中心に 組み立てられています。ピアノも登場し始める18世紀は、鍵盤楽器の変化が著しい時代ですが、スカルラッティはポルトガルとスペインの宮廷に勤め、当時最先端の鍵盤楽器にも触れることができました。1729年、ポルトガル国王ジョアン5世の娘であるマリア・マグダレーナ・バルバラがスペインの皇太子妃となり、彼女の音楽教育係であったスカルラッティも行動を共にしてスペインへ移住します。この頃、フランスもまたクラブサン音楽においてクープランやラモーを擁するヨーロッパで最先端の国でした。スカルラッティは1724年と25年にパリを訪れた際に、ラモーと会っていたのではないかと考えられています。
 スカルラッティとラモーに共通する特徴は、装飾法や運指法、手を交差させる奏法など、チェンバロの演奏技術における見栄えの良さや高度な技巧を追求しているところです。ではここでスカルラッティとラモーの楽曲を交互に続けて4曲お聞きいただきましょう 4曲ともト短調で統一されています。ラモーの2つの楽曲は1729年頃に出版された新しいクラブサン曲集に含まれているものです。
 スカルラッティ ソナタ ト短調 K4
 ラモー 《新しいクラブサン曲集》から「エジプトの女」
 スカルラッティ ソナタ ト短調 K.12
 ラモー 《新しいクラブサン曲集》から「雌鶏」

 演奏会後半では、スカルラッティとバッハの作品がたっぷりと演奏されました。演奏者のバンジャマン・アラールは、2017年からバッハの鍵盤楽器独奏作品全集の録音に取り組んでおり、現在も進行中です。この6月7月には日本でも《ゴルトベルク変奏曲》の全曲演奏など、バッハの作品を聞かせてくれました。今日は最初にスカルラッティのト長調のソナタを3曲お聞きいただきますが、2曲目と3曲目の間にバッハの《ゴルトベルク変奏曲》からの抜粋で第23変奏と第14変奏が挟み込まれています。これらはいずれもト長調であるため、切り替えがわからないほどに一続きに演奏されています。バッハの《ゴルトベルク変奏曲》は、アリアと呼ばれるテーマとその30の変奏からなる長大な変奏曲ですが、アリアと変奏のひとつひとつがスカルラッティのソナタと同じ構造でできています。すなわち、前半と後半をそれぞれ繰り返す二部分構造で、これは舞曲に由来する形式であるとともに、古典派のソナタ形式へと発展するものです。スカルラッティのソナタは1739年に出版された《練習曲集》から選曲されています。スカルラッティは当時マドリードでスペイン皇太子夫妻に音楽教師として仕えていました。そして1738年に、皇太子妃マリア・マグダレーナ・バルバラの父であり、かつてスカルラッティが宮廷楽長として仕えていたポルトガル国王ジョアン5世から爵位を与えられます。スカルラッティは感謝の気持ちを込めてこの《練習曲集》をジョアン 5世に献呈したのでした。それではお聞きください。
 スカルラッティ ソナタト長調 K.13
 同       ソナタ ト長調 K.14
 バッハ 《ゴルトベルク変奏曲》BWV988から第23変奏と第14変奏
 スカルラッティ ソナタト長調 K. 2

 では次にバッハとラモーの楽曲を続けてお聴きいただきます。バッハは1708年から17年までを過ごしたヴァイマールの時代にフランス風の組曲とイタリア風協奏曲を研究し、同様の様式でチェンバロ独奏曲を作曲しています。これからお聞きいただくのはアントニオ・ヴィヴァルディのバイオリン協奏曲を編曲した作品です。もともとト長調の協奏曲であったものをバッハはヘ長調の鍵盤作品に編曲していますが、これはバッハの鍵盤作品の標準的な音域である4オクターブに収まるよう、最高音を下げるための措置でした。アラールは今回の演奏会の調性の統一のためか、原曲のト長調で演奏しています。全体は3つの楽章からなりますが、とりわけ 中間のホ短調による緩徐楽章では、アラールによる即興的装飾の美しさに魅了されます。バッハの後にはラモーの《新しいクラブサン曲集》からト短調の「エンハーモニック」がしっとりと演奏されます。エンハーモニックとは、鍵盤上は同じ音とされる異名同音のことでもあり、古代ギリシャ時代の音階の一種でもあります。古代の音階では存在していた半音より狭い音程差を持つ、見かけ上の同音の効果をクラブサンで転調を連続させることによって感じ取ろうというものです。平均律に向かおうとしている当時の過渡的な調律法ならではの作品です。それではお聞きください。
 バッハ 《協奏曲》 BWV978(原曲:ヴィヴァルディ バイオリン協奏曲ト長調 RV.310)
 ラモー 《新しいクラブサン曲集》から「エンハーモニック」

 スカルラッティのソナタが含まれるチェンバロ練習曲集は1739年に出版され、バッハの《ゴルトベルク変奏曲》は1741年に2段階チェンバルのためのクラヴィーア練習曲集として出版されています。スカルラッティやラモーが得意であった手を交差させる華麗な演奏法が今お聞きいただいたバッハの2つの変装にも用いられていました。一方で、バッハが得意であったフーガの技法をスカルラッティはそれほど用いていません。現在 知られているスカルラッティの5つのフーガのうち最も有名なのが、これからお聞きいただく通称「猫のフーガ」です。1739年に出版された《練習曲集》の最後を飾る楽曲で、「猫のフーガ」とはもちろんスカルラッティが命名したのではなく、19世紀以降の呼び名です。最初に奏でられるフーガの主題、すなわちテーマがあたかも気まぐれな猫が鍵盤上を歩いて鳴らしたかのように不思議な音程の動きでできています。この曲でスカルラッティはこれまでのような二部分形式を用いていません。フーガはひとつの声部でフレーズが終わる前に別の声部で主題が始まるため、流れを止めることなくずっと音楽を続けることができます。前半後半の区切りなく、あちこちで繰り返される猫のテーマの動きをどうぞお楽しみください。

 スカルラッティを中心とするアラールのチェンバロリサイタルも最後の曲目となりました。締めくくりに選ばれたのは、バッハの《パルティータ》第5番ト長調です。組曲であるパルティータはバッハが初めて出版した鍵盤作品で、それぞれ調が異なる6つの組曲のうち第1番が1726年に、そして第5番は1730年に出版が予告されています。1731年には6 曲まとめて《グラヴィーア練習曲集》として再版されました。第5番ト長調は、最初に前奏曲を意味するプレアンブルームが置かれ、その後に6曲の舞曲、すなわちアルマンド、コレンテ、サラバンド、テンボ・ディ・メヌエット、パスピエ、ジーグが続きます。プレアンブルーム以外の舞曲は全て前半と後半をそれぞれ繰り返す二部分形式で書かれています。最後のジーグでは前半と後半がそれぞれ異なる主題によるフーガとなっています。バッハはジーグとフーガを時々組み合わせますが、このジークの後半では途中から前半のフーガ主題も重ねられ、二重フーガが展開していきます。音による精巧な幾何学模様を見ているようです。それでは お送りします。
 バッハ作曲《パルティータ》第5番ト長調BWV829、チェンバロの演奏はバンジャマン・アラールです。

     *      *      *      *      *

 さて、こうして改めてアラールのリサイタルを聴くと、彼の意図はともかく、スカルラッティの音楽が他の2人に比べても際立って個性的であることを再認識させられます。また、アラールのような腕達者ですら生演奏ではところどころでハラハラするような演奏になってしまう(?)のを見ると、《練習曲集》の曲がいずれもその音数が少ない譜面面とは裏腹に高度な演奏技術を要求する名人芸的な作品であることもよくわかるというもの。
 ところで、安川智子さんの解説によると、このリサイタルの他にもスカルラッティをテーマにした鍵盤音楽のリサイタルが4つもあったとのことで、亭主としては興味津々なのですが、残念ながら今のところこれらについては情報がなく、もどかしい思いをしているところです。









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Last updated  July 29, 2024 07:53:41 AM
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