オレンジ色の旅路
「荷物はそれだけかい?」と聞かれた「そうだ」と僕は答えた「大事なものを忘れちゃいないかい?」「大事なもの?」「ある人と約束しただろう」「約束?憶えちゃいないな」「君はそうでも、約束した人は憶えてるもんさ」「どんな約束なんだ?」「君は言ったね、『世界で一番愛してる』って『ずっと一緒にいよう』って」「その時の気分で言ったんだろ」「その言葉を信じて今でも待ってるとしたら?」「ありえないな、彼女は死んだんだ」「死んだってその存在は消えるもんじゃないさ。時々現れ、そして揺らぐ。陽炎のようにね。」「所詮は生きている人間幻想だろ。死は冷酷無比にして絶対だ、俺はそう思う」「そう言いながら君は怯えてるのさ、君自身の中に確かに存在するカオスに。」「否定はしないよ。でも現実は現実だ、歪めることはできない。」「君は君自身が選んだ道の行く先を知ってるかい?」「だいたいね、はっきりとはわからないけど。」「それなら止めはしないよ。自分の目でしっかり確かめるんだね。」「ここを通ってもいいかい?」「ああ、問題ない」別れ際僕は彼に手を振った「よい旅を!」彼も僕に手を振り返した「いったいどれくらいの間その言葉を言い続けてるんだい?」「ふふっ」彼は小さく微笑んだ