ケアマネ物語(10回)
訪問調査再び月に9~10回も調査をすると、個々の人については忘れていきます。その中でも忘れられないケースはいくつかあります。ある都営住宅の1室に伺ったときのことです。まず、訪問のための電話をかけても出ない。何度かけても出ない。この調査の申請者はある福祉事務所の相談員名になっています。本人はいないようですが・・。と問い合わせると、いるはずだと言います。調査に立ち会って欲しいといいますと、忙しいので・・。と断られてしまいました。地図を見ながらやっと現地にたどりつき、玄関のベルをならします。でません。外から携帯で電話をしても出ません。ベランダ側にまわると、ベランダの塗り替え工事中でした。ベランダにむかって大きな声でよびかけました。やっと工事の人がこちらをみてくれたので、中に人がいるか、聞いてみると、いる。とのことです。「区役所から調査に来たので、玄関を開けてくれるように言ってください。」それで玄関に回ってあけてもらいました。区役所と言う言葉が効いたようです。中からおそるおそるあけてこちらの様子をうかがいます。用件を言い。押し問答を繰り返し、やっとわかってもらえて玄関が空きます。目が点・・状態。いわゆるゴミ屋敷とは違います。たいした荷物はなさそうですが、掃除はしたことがないようです。居室に向かう廊下は歩く道筋だけ埃がよけられています。その細い筋を頼りに、ベランダにむかった部屋に入りました。座る所はありません。出入りしている部分だけ埃がよけられているので、なんとか其処に座りました。福祉事務所から頼まれて介護保険の調査に来ていることを話します。そこから世間話のようにして調査を進めていきました。室内は入り口横になにやら物が積み上がった机らしいもの。奥にも小さな棚のような物が家具の全てです。本人はこれ以上薄くなれず、これ以上汚くなれないせんべい布団の万年床に座っています。本人が来ている物は元の色がわからないシャツとステテコのようなもの。ああ、男性です。蒸し暑い季節で肌にそれだけを直接着ています。ステテコの社会の窓はボタンが外れてというか、元々ないようであぐらをかくと正直危険です。目をできるだけそらして・・、泳がせて・・。勘弁して欲しいよ・・状態でも調査は続けなくてなりません。ですが、介護度はでないでしょうと思いました。寝たきりのように見えますが、すたすた歩いて玄関もあけてくれましたので歩行には問題なし、痴呆状態もほとんどみられません。問題点はやる気がない・・という所だけでしょう。多分今まで掃除はしたことがないと思います。部屋の片隅には埃がうずたかく積もり、すでに土、砂のようになっています。部屋の端から砂漠が押し寄せてくるようようです。電話をしても通じないというと、電話・・ああ、そこに・・と私の横のがらくたや食べかけのものが積んである所を指さし、なおかつ堀り出そうとしましたので、いいです・・。と断りました。話を先にして、私が帰ってから掘り出すように・・。とお願いしました。そこから何が出るか怖い物です。帰りに玄関の横の部屋を覗きますと、畳は既に腐って床に大きな穴があき、その上になぜか洗濯物のようなものが下がっていました。何か大きな災害が通り過ぎた後のようでした。見なければよかったと思いました。福祉事務所の担当の人に電話をします。介護度がおりるかどうかわからないこと。もし降りたらどうするつもりなのかを・・。福祉事務所の方は、家族がいないので施設に入れたい・・。措置の頃なら、入れたかもしれません。しかし今は福祉事務所といえど措置は使えません。施設の待ちが多いのをご存じですよね・・。と答えておきました。