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カテゴリ:IT活用
皆さん、お待たせ致しました。5日振りのインターネットカフェからのエントリですが、佐々木俊尚著『グーグル Google 既存のビジネスを破壊する』の読後感の後編です。
前回、4月24日のエントリで、「Googleの登場はニッチを狙った中小企業のビジネスにとって大きなチャンスである」と書いたが、今日は実際商売をやっておられる方の目線で、もっとその点について突っ込んで書いてみたいと思う。 まず、「中小企業にとってのチャンス」は、現在も続いている、という見方もあろうが、正直、今から全く新しくネット販売に参入する、となると、ブランド力、知名度のない企業さんにとっては非常に厳しい、後々発もいいところ、というのが現実だと思った方がよい、と思う。 弱小企業が新規参入する場合は、人よりも先んじなければノウハウを早く蓄積したことを生かして先駆者利潤を取るのは難しいのだ。今や、「○○屋.com」というドメインを取ろうと思っても、キーワード広告を打とうと思ってもB2C関連の有力なほとんどのキーワードについてはライバルに抑えられてしまっている。 異業界より動きが遅かったファッション業界でも、私の感触では、ファクトリーブランドや無名の個人の仕入れ型やオリジナル販売については、2003年が先駆者になれる最後のチャンスだったかな、という気がする。 現在は、リアルで他店舗展開している有力なブランドが雪崩を打ってネットやモバイル通販に参入している状況だ。2000年から2003年くらいまでは、まだ、「ネットで売る」「ネットで買う」という行為そのものに珍しさがあり、話題になれた時代だった。しかし、今は、リアルの有力なブランドの商品がネット上に溢れている。 商売人は、本なんかにデカデカと成長ビジネスとして掲載されるようになってからそのビジネスを始めたのでは遅いんですよ。人が気づかないうちにピンときたことは始めなきゃ駄目だと私は思いますね。 但し、わが業界の特質として、商品が世代別にセグメント化されている、ということがある。年齢層の高いゾーンでは、これから団塊の世代がリタイアしてからが本当の勝負、というところもあるだろう。調べていて、思わぬキーワードが穴になっていることもあったりするので、そこで勝負をかければ商機は見えてくるかもしれない。 また、B2B、川上については、はっきり言って大穴だらけですよ。これ、国内の製造業事態が弱体化していて、既に限られたライバルしか存在しない、というのもあるのだと思うが、国内、そして海外のアパレルやデザイナーズブランドに向けたPR、あるいは、自社素材や技術を生かした2次製品のビジネスなど、仕掛けたら面白いように思います。 次は、「ネットが必ずしも中小企業にのみチャンスをもたらしている訳ではない。これからが優れたビジネスモデルを有する大企業の躍進の本番」なのではないか。 いい例が、ファーストリテイリングの「ユニクロ」。「ユニクロ」さんは、確か昨年度の日経MJの通販に関する調査を見ても衣料品分野におけるネット通販の最大手企業になっていた筈だ。わが業界で最大のネットでの成功者は、リアルでの最大の成功者と同一、なのである。 「ジーンズ」「フリース」「Tシャツ」など、一般名詞でのキーワード検索に強いシンプルな商品構成、サイズ設定があいまいでないこと、アパレルでありながら定番的でリピート性のあるアイテムが大半である「ユニクロ」は、「母の日」など、モチベーション需要に向けてのキーワード対策(検索連動型広告の仕掛け)も随分前からガッチリと行っている。大企業ながらトップダウンによる風通しのよい組織もネット時代に合致している。 ここに来て、他の大手企業さんの攻勢も強まってきた。今、iモードのメニューリストの「ファッション」のランキングを見ると、1月から3月の利用者順の統計でワールドさんの直営サイト「D-スタイル@WORLD」が4位につけている。このサイト、立ち上がったのは恐らく昨年末か今年始めだったように思うが、あっという間の急浮上ですよ。元々人気ブランドを揃えている上、ケータイサイトを見たら、ユーザビリティは良いは、ブログはきっちり書いているは、大手の実力の高さを見せ付けている。 先般、ルイ・ヴィトン・ジャパンさんもフランス本国、イギリスに続いて来年にも日本でネット通販に参入する意向を表明していたが、リアルで商品力、サービス等のレベルが全て高い企業は、ネットやケータイ通販に関するノウハウさえ習得すれば、一気に大きな売り上げを獲得していくでしょうね。通販の原価率の低さを生かして、ラッピングやお礼状などでも、サプライズのあるサービスを展開していくのではなかろうか。 ファッション業界では残念ながら、これからはこういう大手さんのネットやケータイがらみの話題の方がメディアを賑わせていくようになってくると思います。こういう大手企業さんは広報体制も元々しっかりしていて、マスコミサイドから見ると横着な記者(失礼!)でも取材しやすい企業さんなので。Googleが既存のビジネスを破壊するどころか、ネット上でコンテンツとして流通しえないファッション業界においては、大手は大手ショッピングモールに属する必要もなく検索エンジンに直接社名やブランド名を入力してもらって益々隆盛を強めるのである。 では、これからネット通販に参入したい、あるいは、今までやってきたけれど今一つ実績が上がっていない中小の繊維や雑貨などのファッション系企業さんはどうすべきか。小は小なりに、粘り強くやっていくしかないのだが、ここでもう1つ、『グーグル Google 既存のビジネスを破壊する』にも書いてあったことで重要なポイントについて考察してみたい。 それは、「ロングテールの法則」についてである。 前にもこのブログで少し書いたことがあるけれど、私は、「ロングテールの法則」という言葉がネット上で話題になり始めた頃からずっと、「この法則は、ファッション業界の商品の多くには適合しにくい」と思ってきた。理由は、次の通りである。 ・ファッション業界のキーワードの多くは、「一般名詞」ではなく、「固有名詞」。単品通販系の一部を除いて、アイテム名よりもブランド名がものをいう世界。 ・ファッション業界の多くの企業が、テキスト(言葉)による説明より画像によるイメージを重視したいと思っているが、最近まで画像検索は十分に発達していなかった。 ・インテリア業界などと対照的なのだが、スタイルよりトレンド重視、というブランドが多く、商品寿命は短命。そもそも、ロングセラーを生もうとはリアルの商売でも全く思っていない。 ・雑誌掲載がなかったり、イメージの良い立地や百貨店、ファッションビル内に店舗のないブランドが消費者から信頼されにくい。 それから、次のような業界独自の問題点もある。 ・非常に多忙なため、ある一定年齢以上(40歳前後以上)の業界人はネットやケータイにうとい。 ・産地企業から東京のアパレル、小さな企画会社等に至るまで、人間関係(仕事から遊びまで)が業界人中心になっているケースが多い。ネットビジネスで成功している中小企業は、地域内や全国の異業種の先駆者とのネットワークを持ち、ノウハウを教えあって切磋琢磨してきている。それが、日本のネット通販をここまで発達させた原動力の一つになっているのだが、そういう人達と一緒に勉強している人がわが業界出身者には極めて少ない。異業種のグループに入りたがらない。 「ロングテールの法則」に適合しにくい、という商品特性、そして上記のような業界特性もあって、これまでファッション業界のネット通販、ケータイ通販はファッション専門のショッピングモールへの出店、という形で発達してきた。それらのサイトは雑誌、あるいはリアルの大掛かりなイベントとの連動、という新しい形のビジネスモデルを形成し、それらがここ3年程の間大きなムーブメントになっていたのだが…。 そろそろ新しい風が吹いてきたように私は思っている。それは、先般書いたように、ケータイでもGoogleが検索連動型広告をネットと同様の仕組みで中小企業にも利用しやすい形で普及させようとしているからだ。 次世代のヤングに向けてのブランド立ち上げと同時に、ケータイでの勝手サイト(自前サイト)立ち上げ、というのは、これからは絶対にやられた方が良いように私は思います。 それと、画像検索、動画検索の普及、これは、イメージを重視するファッション業界にとっては大きな追い風となる筈だ。リアルの店舗により近い世界観が表現できるようになれば、価格の安さではなく、「かっこいいから」「好きだから」買う客層へのアピールが可能になってくるだろう。 本の感想とはかなり離れてしまっているように思われるかもしれないが、そもそも多分、ネット販売をやっておられるような方にとってはこの本は「今更やねぇ」といった内容だと思うのだ。商売のツボについては、もっともっと具体的に細かく掴んで即実行できるようにならないと駄目だという気がする。ネットやモバイル通販はとにかくすぐやる、やってみて駄目なら理由を考えてすぐ変更する、それの繰り返しをクイックに、そして根気良くやれないといけないと思います。 最後に、「ファッションでロングテールを掴むには」。私なりの意見をまとめてみると…。 ・インテリア業界のように、「スタイル」を追求したブランド、商品。 ・単品の深堀り(「カシミア」「セーター」など、2つもしくは3つ以上のキーワードで深い品揃え)。 ・ゴスロリなど、ニッチな趣味性の強い服。 ・「お受験の際にお母さんが持つかばん」などライフシーンと結びついた商品。 ・大きいサイズ、小さいサイズ、ユニバーサルファッション。 ・オーダーメイド、カスタムメイド。 ・40代のガンダム需要のような懐かし消費は、ファッションの場合はかなり難しい。何故なら、当事者は年をとって若い頃の服は着られなくなってしまうから。しかし、50年代、60年代など、過去のトレンドは周期的にリバイバルしてくるので、それと絡めた仕掛けは可能だろう。 以上、こうやって書いてみると、「何だリアルと変わらないじゃん」ということになるが、「だけど商品企画、難しいじゃん」となってしまうのである(笑)。そう、わが業界の無名ブランド、ファクトリーブランドさんや個人のクリエーターさんは、ネットだリアルだと騒ぐ以前に、作っておられる商品そのものにパワーがない場合が多かったりするのである。食品なんかのように、良質安価な地方の産直、なんてことはかなり難しい業界なのだ。こんなに成熟した社会で、身に着けるものでかっこ悪いものは全国どこでもだんだん年配の人にしか売れなくなってきている。しかも、ユニクロさんやしまむらさんより中小企業が安くするのも構造的に難しいんですよ、悲しいけど。 ということは、やはり、商品企画からきっちりやってくしかないんですよね。ということは、うちの会社でやっているような勉強会や展示会なんかは、やはり必要不可欠、ということになってこざるを得ないのだろう(笑)。皆さん、まずは商材から作りこみまひょ。苦しくても仕方ないですね、ファッション業界に身を置く以上(笑)。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006年05月01日 23時42分58秒
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