「トランプ貿易戦争 ポピュリズムと安全保障」編集委員・原真人氏筆・16日・「波聞風問」欄
私:トランプ米大統領がケンカ腰で行う、中国との高関税の応酬、北米自由貿易協定を結んでいた隣国カナダ、メキシコとの一方的で強圧的な再交渉。 日本も来年、新たな日米通商交渉が始まれば、同じように厳しい要求を突きつけられるだろう。 米国の言い分は身勝手だし国際常識を逸脱している、とはいえ衝動的でハチャメチャな措置とばかりも言えなく、米国の行動の背後には、「二つの構造変化」があるからだと、原氏は指摘する。 「第一の構造変化」は、米国内の労働者の「我々は恩恵を受けていない」という不満の高まりで、米国は自由貿易の勝ち組筆頭だったが、製造業の労働者に限れば実質時給はこの40年間まったく上がっていない。 その負け組の支持で誕生したトランプ政権は、不満の声にこたえ続けなければ次の選挙に勝てないから国内雇用のため、と保護貿易に走る。 それは必ずしも効果的な政策とはいえず、本来なら国内の再分配政策のあり方を根本的に見直すべきなのだろうが、それが一朝一夕にいかないから、輸入品に責任を転嫁するポピュリズムに走る。 A氏:「第二の構造変化」は中国の経済的台頭。 数年前まで米国など先進国の経済専門家たちは「知的所有権も守られないモノマネ経済の中国では技術革新は進まない。結局、先進国並みの所得水準にはたどりつかず、いずれ中所得国のワナにはまる」とみていた。 しかし、国家資本主義のもとで資本、技術、情報を集中させた中国経済は予想以上に強く、アリババやファーウェイなど強大な企業も誕生していおり、プライバシーそっちのけで14億人のビッグデータを簡単に集め、簡単に自動運転の実験都市まで造ってしまう。 これは、ブログ「中国の夢と足元」で、中国はベンチャー企業の企業価値や投資額で米国に次ぐ、世界第2位とあり、ある領域では中国企業が世界でも先駆的な取り組みをする時代になったと言えるという。 ブログ「中国、AI育成に注力 ベンチャー支援・変わる生活」では、ある領域では中国企業が世界でも先駆的な取り組みをする時代になったとある。 ブログ「中国FCV、地方先行 環境問題考え、バス・貨物運行」では、中国政府が国家を挙げて電気自動車(EV)やその関連産業を育てようとしているなか、地方ではその先を見越して、水素燃料電池車(FCV)の普及に向けた態勢づくりが着々と進んでいるとある。 今のままだと2020年代末にも国内総生産(GDP)の米中逆転がありうる。 もし、最大市場が米国から中国に移ると、多くの国が中国との経済関係を優先し、企業は対中取引に力を注ぐようになり、「人民元が決済通貨」として広がれば、ドルは「基軸通貨の地位」さえ脅かされかねない。 手遅れになる前に中国の技術進歩の歩みを遅らせたく、覇権喪失の危機感を抱いた米政府が、必死になって中国への技術輸出の制限措置を導入しはじめたのも無理はないと原氏はいう。 自由貿易は走っている自転車のようなもので、こぎ続けないと転んでしまうと、かつて日米貿易摩擦を取材していたころ、自由化交渉が必要な理由のたとえとして、交渉官たちがよく口にしていたが、当時はなるほどと思ったものだという。 私:原氏は、貿易戦争の現代について「今は自転車のようなもので、こぎ続けないと転んでしまうと単純に言えなくなった。スピードを落とし、安全を確かめ、時には立ち止まる。そんな時代になったのかもしれない。ポピュリズムの広がりも、安全保障を背景にした米中対立も、どちらも近い将来の解消は望めない。息長く解決策を探る覚悟をしたほうがよさそうである」という。 たしかに米中の貿易戦争は規模が大きいだけに長期化しそうだね。 日本も来年、新たな日米通商交渉が始まれば,自動車で厳しい要求を突きつけられるだろう。