カテゴリ:読書
雫井脩介の作品を初めて読んだ。
それがこの「虚貌」だ。(この記事、ネタばれあり) この物語は1980年に始まる。場所は岐阜県。 魚の輸送業者で勤務していた男、荒は仲間2人と会社を解雇される。 恨みを持った男たちはひとり加えて4人で社長宅を襲う。 社長夫妻は惨殺。 家は放火され娘が車椅子の生活、息子は大火傷を負う。 両親を失った姉弟は養護施設へ。 それから21年後、事件の加害者が次々と殺される。 アマゾンで調べてみると、この作品はすごく評価が高い。 確かにいろいろな分野についてよく調べてある。 計算された内容も濃く、多くの読者は満足しているようだ。 そうでなければ上下2段で380ページもの大作。 読む側が飽きてしまう。 (正直、私は終盤読むのに飽きた) 読んでいて気になったのが警察の間抜けな点。 過去の事件の加害者たちが殺されているのに、緊張感に欠ける。 「次に狙われるのは誰か」ということを、もっと真剣に考えるはず。 「犯行時少年だから犯人が行きつかない」というのは希望的観測。 また、朱音のカメラマンが誰であるか。 気がつく人がたくさんいてもおかしくはない。 人の噂というものは、いつの間にか広まる。 著者はそう考えなかったのだろうか? 警察も捜査員の娘が被写体になったことばかり目がいく。 カメラマンに注目しないのはなぜか。 私が最も理解に苦しむのは、21年前の事件で生き残りがいるということ。 殺された者たちに恨みを持つのは誰か。 小学生でも見当がつきそうなものを、警察は考えが行き着かない。 犯人であろうがあるまいが、通常は事情聴取するに決まっている。 所在不明ならまず疑ってかかるべきだ。 それを「切れ者」の今枝警部補は3兄弟まで視野を広げる。 捜査陣の大半がその線で捜査するのには笑ってしまった。 宮部みゆきの「火車」でも、主人公が最後まで出てこないということがあった。 実態の見えない謎めいた登場人物は、ミステリーにありがち。 アマゾンで高く評価した読者たち。 どうしてこれらの点を批判しないのだろう。 この手の作品といえば横山秀夫。 よくできているだけに、私には惜しい点が気になって仕方ない。 もう1点。 生き残った犯人は、これから何を目指すのだろうか? 彼が考える「生きる意味」が私にはわからない。 終盤、死ぬ人たちも意味がないように思える。 「俺はやってない」という犯人のセリフも意味不明。 この作品が単なるエンターテイメントであったとして。 読者は堪能しただろうか? 私には疑問が残るばかりだ。 途中までは「読ませる」という点でこの作品が成功したことは確か。 だが読み終わってみると、次に「どうしてもこの作家」とは思えない。 隣に横山秀夫の新作があれば、そちらを先に読む。 「火の粉」「栄光一途」「クローズド・ノート」 そして「犯人に告ぐ」。 この作家の作品はそのうち読むことになるだろう。 優先順位は低いかもしれないけれど。 追記 この作品では、「顔」にまつわる話が何回か出てくる。 そのためにこのタイトルになったとも言える。 捜査員の辻は顔に青痣がある。 痣については「金八先生」で出てきた。 作者も見ていたのだろうか? トリックについて、「これはないだろう」という批判があるようだ。 読者が疑いを持ったら小説としては問題あり。 だが、完璧なミステリーなどこの世には存在しない。 横山秀夫の「半落ち」でもそうだった。 人が別人になることは可能。 だが、ある特定の人物になるのはかなり困難。 背格好に加え、体臭や言葉などクリアする問題が多すぎる。 *********************** 関連記事 雫井脩介:「虚貌」 『虚貌』~笑顔の下に隠された殺意 「虚貌」上・下 雫井脩介 「虚貌」雫井脩介 幻冬舎文庫 虚貌〈上〉/〈下〉(雫井 脩介) 虚貌(雫井脩介) 虚貌 上下 雫井脩介著 「虚貌」雫井脩介 お奨めミステリー小説 (270) 『虚貌』 雫井脩介 *********************** ※トラックバックは管理人が承認した後に表示されます。 バナーにクリック願います。 ***トラックバックはテーマに関係するもののみどうぞ。 その場合リンクは必要とはしません。 意見があればメッセージでどうぞ。 ただし荒らしと挨拶できない人はお断りです。 今のところメッセージは全て読んでいます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.06.01 19:46:12
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