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投資の余白に。。。

投資の余白に。。。

June 23, 2016
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カテゴリ:クラシック音楽
ラヴェルの「スペイン狂詩曲」が始まった瞬間、「これほど美しい弦楽器の響きを聞いたことがあっただろうか」と、過去の音楽体験を参照させられるハメになった。

チューリヒ・トーンハレの弦も美しかった。しかしほんの少し力強さが混じっていた。いや、そういう言い方は間違っている。注意深く力を入れてピアニシモを演奏している、そんな要素が若干だがあった。

しかしこのオーケストラはどうだろう。まるで息を吸い、吐くように自然にピアニシモを美音で演奏している。

この瞬間に勝負は決まった。これがフランスのオーケストラをきく喜びであり、フランスのオーケストラをきく喜びのほぼすべてだと言っていい。

この音は、アメリカやイギリスやロシアのオーケストラは肉薄可能だが、日本のそれは千年かかっても不可能だ。美意識、美学、哲学その他がちがいすぎる。

あとは、指揮者がウケねらいの個性的な表現をせずにこのオーケストラの持ち味を引き出すだけでいいだろう。フランスのオーケストラにアメリカの指揮者はミスマッチかもと思っていたし、そう思う人が多かったのか客席も閑散としていたが、オーケストラビルダーとして知られるスラットキンは適任。

この人、大指揮者だとは思わないが、音楽をそこそこのエンタテイメントとして聞かせる才能を持っている。良し悪しは別にして、こういう人はいまの音楽界では重宝されることだろう。

オーケストラ全体として見たときには超一流とは言えない。フランスのオーケストラといえば管だが、とびぬけたスタープレーヤーはいないようだ。だが、全員が室内楽の精神で他のパートをよくきいて演奏しているのがわかる。落ちぶれたとはいえ、これがヨーロッパ、これがフランスだ。

指揮者のエゴを最小限に抑えてオーケストラの美点を最大限に引き出そうというスラットキンの姿勢は、この「スペイン狂詩曲」と追加発表された次の「感傷的で高雅なワルツ」で最も効果をあげていた。ただ前半のラスト「ダフニスとクロエ第2組曲」は、おかれた位置にもよるのか、こぢんまりとおとなしく演奏された。

スイス時計のようと評されたラヴェルの精密かつ緻密なオーケストレーションは堪能できたが、曲が曲なのだから大見得を切るようなところや一期一会の白熱もほしかった。ただ、随所の管楽器のソロはいずれも見事で、フォルテでも決して吼えないホルンなど金管楽器、どこまでも繊細なトランペットなど、音の万華鏡を見ているようではあった。

後半は「展覧会の絵」。通例よくきくバージョンとはずいぶん細部にちがいがあると思ったら、スラットキンがラヴェルの編曲に手を加えたもののよう。ただ、この改変、ムソルグスキーの原曲の土俗性を強調しようとしたのだろうが、それにしては中途半端。

冒頭のトランペットは指揮なしで始まった。しかも奏者はラッパを下に向けている。音は小さく細いが、こういう開始のこの曲の演奏をきくのははじめてだ。この開始、この音色からして、オーケストラはこの曲をフランス音楽ととらえているのではないだろうか。

寂寥感、邪悪さ、白熱、ドラマ・・・そうした、この曲に不可欠と思われるものをこのオーケストラからきくことはできない。そんなものは映画にでもまかせておけ、というところか。ひたすら美しい音が、音同士が会話し手を取り合って踊る。そんな演奏は「音をきく」楽しみ、音楽の原点を思い出させてくれるものだった。

音楽は音の楽しみと書く。音の美しさを味わうのが音楽の入口。食事もそう。栄養をとるためではなく、舌を楽しませるため。これが文化であり、生活とは次元を異にする。

世界屈指の美食の街リヨン。このオーケストラの音をきいてリヨン移住をちらっとでも考えない人間がいたら、なにか人生に対する根本的な態度が間違っている。

というわけで、ちょっとリヨン行ってくる。

アンコールにはオッフェンバック「ホフマン物語」から舟歌と、スラットキンの「ツイスト・カンカン」。

2年ぶりの日本ツァー初日(6月23日、札幌コンサートホール)





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最終更新日  July 12, 2016 11:48:56 AM
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