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西條剛央のブログ:構造構成主義

西條剛央のブログ:構造構成主義

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西條剛央

西條剛央

2005/08/24
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カテゴリ:論考
 「常識」という「物語」に縛られない人にしか,果たせないことがある。

 名著『スラムダンク』で,湘北が常勝山王に勝ったのは,桜木花道がいたからである。

 もちろん,彼はプレー内容という意味でも勝利に貢献した。

 しかし,もし同じ能力と技能を有していたとしても,彼が「常識」を備えた「玄人」だったら,山王に勝つことは出来なかったであろう。

 ならば,彼が本物のバカだったから勝てたのであろうか?

 否,そうではない。

 彼は,バカっぽいが愚かではない。

 むしろ,賢い。

 彼は,自分が「素人」であるがゆえの「メリット」を明確に自覚していた。
 
 それは,「常識を知らない」「知らなくても良い」というメリットである。

 ここでの「常識」とは,「常勝山王」「長年の間,誰も山王に勝ったことがない」「ゆえに勝ってはならない」ということに他ならない。

 こうした「物語」はときに「呪」と呼ばれるほど,人々の行動を束縛する。

 意識レベルでは,勝とうとしていても,知らぬ間に,その場にいる全ての人間が形成する「物語」に絡め取られてしまい,その物語を完成させるべくプレーヤーとして演じてしまう。

 そしてそのこと自覚することすらできないことも多い。

 自覚できれば,打ち破るチャンスはある。

 しかし,自覚すらできない「呪」を,打破することはできない。

 「呪」が「呪」足るゆえんである。


 事実,湘北のチームミーティングで,最初に山王のビデオテープをみたとき,彼らの頭には,「やはり桁外れに強い」「常勝山王に勝てるはずはない」「やはり勝てない」という思いがよぎったが,「素人」桜木だけは別であった。そして,安西先生はその物語を打破する必要性と方法を誰よりも自覚していた。



 翌日,試合が始まる。

 前半は前線し,湘北リードで後半を迎える。

 後半に入ると,圧倒的な自力の差をみせつけられる。

 チームメイトがあきらざるをえない状況になってきたとき,ベンチに下げられていた桜木がコートに入るやいなや,机の上に乗り,「ヤマオーはオレが倒す!」と観客に向かって叫ぶ。


 そのとき,桜木花道は,何をしたのだろうか?

 彼は,素人で暴れん坊というアイデンティティを最大限に活用して,「常勝山王」という「物語」を壊しにかかったのである。

 「ヤマオーはオレが倒す!」と叫ぶことで,そこにいるプレーヤー,観客といった全ての「物語」を構成するキャストに向かって,「物語」の変更を宣告したのである。

 それは「桜木花道という素人によって,常勝山王が破れる」という新たな「物語」に他ならない。

 そのとき,彼が「さんのう」というのではなく「ヤマオー」と言っているのは,偶然ではない。

 確かに最初は,その呼び名を知らなかったかもしれない。しかし,その後,周囲の人間がみな「さんのう」と呼んでいるのは何度も耳にしたはずであり,その時すでに,その「正式」な呼び名は知っていたはずだ。

 それでも,彼は「ヤマオー」と呼んだ。

 彼は,敢えて「ヤマオー」と呼ぶことによって,物語を構成する,同一性(呼び名)といった「根本」からその物語を破壊しにかかったのである。

 そんな彼がただのバカのわけはない。



 さて,それを起点として,湘北の猛追撃が始まる。

 新しい物語の始まりを宣告された観客も,もう一つの物語の可能性を感じ始める。プレーヤーも然りである。

 しかし,相手は常勝山王である。その「常勝」という物語は,「物語」というコトバではすまされないほどの「圧倒的な実力」という「リアリティ」によって支えられている。


 この「現実」をぶち破るためには,もう一つの要素が必要であった。 

 それが「ダンコたる決意」なのである。

 桜木花道は,あきらめずにボールにくらいつき,その際に背中を痛めてしまう。

 しかし,選手生命も危ぶまれるような怪我を押して桜木はコートに戻る。

 観客も,桜木の「執念」にも似た「ダンコたる決意」を感じ取り,圧倒的山王よりだった観客の応援は,五分五分になる。

 死闘が続く。

 徐々に湘北が追い上げ,試合は拮抗する。


 そして,ラスト数秒。

 湘北1点のビハインド。

 逆転のシュートを打とうとする流川に,河田と沢北という山王のベストが立ちはだかる。

 残り,1秒。

 流川は,ゴール下で構える桜木を視野に捉え,パスをする。

 桜木がシュート。

 逆転。

 音のないホイッスルが鳴る。

 二人は,黙って歩み寄り,はげしく手をあわせる。

 こうして,新たな物語を完成をみる。



 「ダンコたる決意」は,「常識」という「呪」を打破し,新たな物語を生み出す「鍵」となっているように思われる。



 さて,研究の世界にも,「常識」という名の「呪」が蔓延している。

 最初は(若手の頃は),批判的精神を持ち,既存のパラダイムを脱却し,新たな枠組みを生み出そうとする人は少なくない。

 しかし,「行儀良くした方がよい」といったセリフとともに,「常識」という名の「呪」はかけられる。

 その「呪」によって,「革命」を志した人が,いつの間にか「保守」に回ってしまう。ミイラ取りがミイラになってしまう。

 そして,自分がかけられた「呪」を若手にかけるようになる。

 かつて司馬遼太郎が,「志」を持つことは簡単だが,それを持ち続けるのはむずかしいと,登場人物にいわしめたのが思い出される。



 最近の時事問題でいえば,小泉純一郎総理が,思い浮かぶ。

 彼は自らを「変人」というカテゴリー付けことによって,非常識とされることにまで行動範囲を広げた。その点では,「素人」というカテゴリーを活用し,常識に縛られないようにした桜木と同じである。

 また,彼は強い気持ちで「志」を持ち続けた数少ない政治家といえよう。

 彼の演説を聞いてみて欲しい。
http://rainy.seesaa.net/article/6126037.html

 内容的には同じことの繰り返しであり,単調ともいえる。しかし,ここにきて,彼の演説が,胸を打つものがあるのはなぜか?

 それは改革への「ダンコたる決意」が感じられるからだとぼくは思う。

 森前首相が,衆議院解散はすべきではないと小泉氏に進言して断られた際には,小泉氏は「自分は改革のためになら殺されてもかまわない」といったことを言っていたらしい。彼の行動から判断するに,本当にそう思っていると思う。

 「ダンコたる決意」を固めた人間は強い。失うものの大きさを身を以て自覚した上で,行動しているからだ。そんじょそこらの脅しや政治的な圧力には屈しない。

 そして,「ダンコたる決意」は,見る者の心を動かす。

 特に日本人は,「ダンコたる決意」に弱い。

 「ダンコたる決意」をみると,敵味方関係なく,心を動かされる。

 敵対していた人でも,「敵ながらあっぱれ」という気持ちになる。

 「ダンコたる決意」を持っている人しか,「改革」という「物語」は成し遂げられないことを,国民はなんとなくだが理解しはじめているように思われる。

 
 「批判」をするのは簡単である。赤ちゃんだって泣くということによって「批判」をする。だから小泉氏が何をやっても「批判」ばかりするマスコミの精神年齢を,ぼくは疑っている。

 しかし,小泉氏に批判を続けていた人やマスコミも,この状況にいたって,次のように考えざるをえないだろう。

 「いろいろ批判はしてきたが,小泉氏以外に,様々な抵抗勢力に屈しない『ダンコたる決意』をもって改革を押し進めることのできる人がいるだろうか?」と。

 ぼくは今のところ小泉氏以外にいないと思う。

 郵政民営化に反対する人は,国民全体のことを考えて動いてはいない。

 宅急便が郵便局以上に機能しているという現実があるのに,郵便局が公務員でなければできないという理屈はなりたたないのは,中学生でもわかる。

 郵政民営化に反対している人は「政治的損得」「自分の利害関係」で動いている。そのような人に,必然的に抵抗を受ける他の改革を進められるわけがない。

 小泉氏は改革の推進を謳っている民主党までが対案ぐらい出してくれるかと思っていたら,それもせず郵政民営化に「反対」してきたことを嘆いていたが,郵政民営化ぐらいできずに,他の大改革ができるわけがないという小泉氏の主張は正しいといわざるをえない。

 これほど,国民の誰もが「改革派」か「保守派」か明確に認識できる形で,選挙が展開されたことがあるだろうか。

 今度ばかりは,いくら詭弁を弄しても焼け石に水であろう。ちょっと前に「郵政民営化に賛成したか反対したか」という「行動」に,その人の本質は現れている。

 「それ」が国民の判断材料になる。

 政治の世界でも,これから新たな物語が始まるだろう。


 
 さて,政治の話はこれぐらいにして,翻って我が身である。

 ぼくも学問の世界をよりよいものにしたいと思い,自分にできることを,ささやかながら実践してきたつもりである。
 
 「改革」という物語の構造には「ダンコたる決意」という要素が内包されているといえそうだ。

 しかるに,自分は「ダンコたる決意」ってやつができているだろうか。





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Last updated  2005/12/07 05:44:23 PM


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