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西條剛央のブログ:構造構成主義

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西條剛央

西條剛央

2011/03/19
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カテゴリ:東日本大震災
僕の地震体験は4歳のときの宮城県沖地震に遡ります。

幼稚園から帰ってきた兄と遊びはじめたとき,突如物凄い揺れが襲ってきました(直下型)。

これはまずいということで親に手を引かれて外に逃げる途中,兄はオモチャの電車を離さなかったのを覚えています。

そして僕は玄関で律儀に靴を履こうとして,母にそんなのいいからとひっぱりだされました。

震度5(今の基準なら震度5強~6弱ぐらいかな)。家の中はメチャメチャ,少し離れたところにあった店にはあちこちにひびが入り,塀が各所で倒れて下敷きになった犠牲者が多数出ました。

僕は元来記憶容量が多くないようで,その頃の記憶はほとんどないのですが,この地震だけは32年経った今でもはっきり覚えています。

だから今そのぐらいの年齢の子どもも今回の地震を生涯忘れないと思います。そう思って適切なケアをした方がよいです。

被災地の子どもは十分怖い思いはしています。

悲惨な映像は見せない方がよいでしょう。





あれから30年以上が経ち,未曾有の激震災が起きました。

第二次宮城県沖地震は99.9%起こると予測されていたのです(もっとも今回その警戒されていたポイントはまだ動いていないそうです)。

兄が仙台市消防局の第二次宮城県沖地震の対策プロジェクトにかかわっていたためそのあたりのことはよく聞いていました。

兄は予防はレスキューのように華々しくないため軽視されがちだが,本質的に重要なのだ,災害予防と救援活動は車の両輪なのだということを繰り返し繰り返しいっていました。

そしてちょうど震災の1ヶ月前に兄が東京に研修できていたときに一緒に飲む機会がありました。そのとき,ぜひ本を書いた方がよいと勧め,兄もそれはよいと話が進みつつあったところだったのです。

今回のことで日本の災害対応力は世界から高く評価され,災害予防の重要性は誰の目にも明らかになりました。

しかし今回の地震は最も準備され最も訓練された国の中でも,最も巨大地震の多くしたがって「世界で最も準備訓練されていた地域」における想定を遥かに超えるものでした。

知っての通り,世界で5つしか観測されていないマグニチュード9以上の超巨大地震に襲われ,それは想像を遥かに超える津波を引き起こし,海岸近辺は壊滅しました。





言われてみれば当たり前なのですが,データとは原理上必ず「過去」のものなのです。ですからどんなに厳密に計算して対策を立てても,「過去」に観測されたデータを遥かに上回る「未来」に対しては機能しないのです。

ですから,データとそれに基づく想定と対策を遥かに上回る災害的事象に見舞われたとき,壊滅的な打撃を受けることになります。

それにもかかわらず,仙台市内では「地震」そのものによる被害は,マグニチュード9.0という「超巨大地震」のわりに軽微だったのは,地域の災害予防力の高さに起因できると思います。

海外のメディアは「最も準備され訓練された日本じゃなければ何倍もの被害が出ただろう」と報道していましたが,僕はおそらく何十倍もの被害が出たと思います。なぜなら震度6に耐えられる建物じゃなければすべて潰れたためです。それこそ東北の太平洋側一帯に壊滅的な被害が出ていたことでしょう。

ですから,データやそれに基づく対策は非常に重要になると同時に,想定外のことは常に起こる可能性があるのです。これが科学の有用性であり限界なのです。

慢心することは論外ですが,諦める必要もなく,持てる資源の中で工夫と努力を重ねていく他ないでしょう。





話を戻します。

4歳の時に宮城県沖地震を体験したため地震の怖さが身体に染みついてしまいました。

そのため,小学校の中学年時には,地震対策の古本などを集めてすでに独自の大地震対策ノートを作っていたのです。そこには泥水を濾過して飲料水を作る方法といったマニアックなものも含め,もしものときの大地震にどうすればよいかサバイバル法がまとめられていました。

それから地震対策キットというのも作っていました。プラモデルの箱に,万能ナイフやペンライト,マッチが濡れても使えるようにマッチの頭にろうそくを垂らして作成した防水マッチなどが一式入ってました。

いつかとてつもない大震災がくると思っていたのです。しかしそれ皮肉なことに常に忘れた頃にやってきます。津波も人々の記憶が薄れ,世代が入れ替わったときにくるため,毎回甚大な被害が出るのでしょう。


ともあれ,大地震を経験してからは少し揺れるだけで,「またあのときのようにもっと強くなるのではないか」という思いがよぎるようになりました。

今思えばこれは心理学的にいえば「予期不安」というものです。

何度も何度も何度も何度も,そういう経験をしているうちにふと思ったのです。

これだけ繰り返し,「もしあのときのように・・・」「このまま強くなったら・・・」と思ったが,結局それほど強くならないではないかと。

だから心配するだけ損だから,もうそんな風に不安になるのはやめようと割り切りました。

それは小学校高学年か中学生に入ったときぐらいだったと思います。

でも逆にいえばそのぐらいまでは怖がっていたということです。身体に染みついた恐怖というのはなかなかぬぐい去れるものではありません。

しかし「もしあのときのように・・・」「このまま強くなったら・・・」が「予期不安」の一種であることを知っていたならば,知らないよりは過剰に怖がらなくて済むと思います。





それからというもの,地震が起きたときは,自分がいる場所の安全(建物の強度)だけを確認するようになりました。

ポイントは以下です(以下はあくまでも個人的な経験知なのでその有効性は各人が判断してください)。

・周囲に倒れてくる物や火などの危険なものはないか

・最悪このまま強くなったとしても生き延びれる場所かどうか

・ここが潰れたらもう仕方がないと思えるかどうか


もちろん,倒れてくるものがあるところは危険です。すみやかに対処しなければなりません。

火もすぐに消す。子どもや高齢者がいる場合には安全確保をしなければなりません。

耐震強度に不安のある民家だと1階は潰れる可能性があるから1階にいたらとっとと逃げた方がよいでしょう。

二階建ての二階なら,机の下か何かに入れば最悪倒壊しても助かる可能性は高い(と思っています)。

いずれにしても,安心のためにも安全のためにも,ここに飛び込めばなんとかなるという頑丈な机やテーブルなどは確保しておいた方がよいでしょう。


中学生の頃になると,家は二階建てで二階で寝ていたため,中学以降は地震が起きて「ああ,揺れているなあ」と思っても無視して寝続けることにしました(笑)。

ときには「どうした,そんなもんかよ,そんなんで起きると思っているのか,もっと揺れてみろ」と心の中で地震を挑発していたこともありました(←バカな中学生の見本)。

しかし今は大きな地震が頻発している状況ですから無論そんな余裕はありませんが。





今住んでいる建物や大学は相当頑健なので,ここが潰れたら仕方がないと思っています。

頑健な建物が潰れるような地震が起きたら,どこにいたって同じです。その辺一帯壊滅していることでしょう。地震のたびに慌てて外に飛び出す方がよほど危険なので,それは運命と思って受け入れるしかないと思っています。

それを怖れるにはコストが大きいわりに,パフォーマンスがほぼないどころか,よい人生を生きる妨げにしかなりません。

そんな僅かな可能性想定して不安になってもしょうがありません。突然巨大な隕石が落ちてきたらどうしようと心配しても意味がないと同じです。

努力してどうにかなることは「努力で結果は変わる」仮説が有効ですがが,どうしようもない場合には「運命」というコトバを持ち出してきた方が,生きやすくなります。

とはいえ子どもがいたらそう簡単にはわりきれなくなるのも確かですが,それでも過剰に怖れるのは良い結果をもたらさないでしょう。ある程度わりきっていた方が子どもを守ることにつながることもあると思います。





「もしこれ以上どんどん強くなったら」というのは「予期不安」の一種であることを自覚して,揺れ始めたときの確認事項を決めておき,ここ以上になるまでは必要以上に怖れないようにしようというポイントも自分なりに決めておくとよいと思います。


個人的な対処法をいえば,まず乗り物が揺れるように,地面も乗り物だと思って基本的に揺れるもんだと思っておいた方が,軽微な地震ならふつうのこととして受け止めることができると思います。 この際地面の認識を変えた方が過剰に慌てなくて済むかもしれません。

最近は,揺れてばかりいるのでしばらく揺れないと「地面が揺れないことは有難いことだなあ」と感謝できるようになりました。

それから大きな地震が起きる可能性が低くなってきたら,数え切れないほど起きている地震に逐一反応するのはうっとおしいので,地震3ぐらいまでは「地震」と呼ばずに「あくび」とでも呼び,自分のいる場所の安全性だけは確認して大丈夫なようなら,「またあくびかよ」といっていたほうが平静でいられるかもしれません。

とはいえ,ついさっき(19日午後6時56分)も茨城震度5弱が起きたから,強い地震が予想される震源地近くの人はまだまだ警戒していた方がよいと思いますが。


大きな地震が起きる確率の高い限段階では,油断はしない。準備や備えだけはしておき,各人が地震が起きたときに確認するポイントを決めておき,不必要なほど不安や怖れをもたず,冷静に対処する。

基本的にはこれに尽きると思います。




(早稲田大学大学院講師 西條剛央)

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Last updated  2011/03/26 07:21:17 PM
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