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日経連載小説「ふりさけ見れば」。 日本人なら「ふりさけ見れば」と聞けば、誰しも「春日なる三笠の山に・・・」と口をついて出て来ようというもの。「遣唐使」「阿部仲麻呂」「ふりさけ見れば」は、いわば歴史の3点セット。 阿部仲麻呂についての私の知識は、せいぜいで若干19歳にして遣唐使節の一員に選ばれた俊英で、唐の都長安で科挙の進士の試験に合格し、第5代皇帝玄宗に高官として仕えた。しかし、日本への帰郷の願いは玄宗の許しが下りず、ついに叶うことがなかったという程度のもの。 望郷にかられた仲麻呂が故国奈良の都を偲んで詠んだ「ふりさけ見れば」の歌は、あまりにも有名すぎるため、我われは仲麻呂を悲劇の主人公のようにとらえてきました。しかし、阿部仲麻呂はなぜ日本に帰らなかったのか?(あるいは帰れなかったのか?) 著者の安倍龍太郎は仲麻呂が帰国できなかった理由を本作のテーマにしています。 遣唐使は、日本からすれば当時世界最高の優れた唐の文化を学ぼう、唐にしてみれば「よろしいでしょう。わが国に習ってよい国造りの礎にしなさい」といったきれいごとで済まされるものではなかった。国と国との間にもっとどろどろとした暗闘があったはず。図らずもそれに仲麻呂は巻き込まれたのだとしたら。 安倍龍太郎は当時の日本の歴史を振り返り、仏教の教えを根幹にした国造り、大宝律令の制定、藤原京、平城京と立て続けに都を造営したこと、古事記・日本書記の編纂といった大事業がすべて唐との外交を対等に行うためのものだったと言っている。中でも日本の大和朝廷の正当性こそが、唐との外交上一番重要なことであったと。それを示す正当な史書を示せと唐は日本に要求していたのだと。 唐には周王朝以来の膨大な史書が保管されており、日本の天皇家はどこから日本に渡り、大和の地に朝廷をきずいたか、史書にはその詳細な記述が残っているはずだ。唐に残りそれを探れと。 安倍龍太郎は、本作を壮大な歴史ミステリーに仕立てています。 そして137回では二人のソグド人、安禄山、史思明が、さらに166回では楊玉鈴が登場してまいりましたね。役者がそろったというわけです。歴史を追えば、繁栄を誇った玄宗の治世にもほころびが生じはじめ、大帝国が大混乱に陥ることになるのですが、唐に残った仲麻呂にこの後いかなる運命が待ち受けているのでしょう。 安倍龍太郎の筆が待たれます。 にほんブログ村 FC2ブログランキング 人気ブログランキング PINGOO! ノンジャンル お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022年01月18日 22時14分13秒
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