カテゴリ:パパのひとりごと
今日の我が家の夕食は「すき焼き」
正夫はすき焼きが大好きだ 何よりリッチになったような気がする 今でこそ牛肉は一年中食卓を飾り、すき焼きなど珍しくも何とも無くなった しかし、正夫が子供の頃は、すき焼きというものは滅多なことでは口に入らない代物だったのだ すき焼きを食べるというのは、お正月か秋のお祭の晩と決まっていた 今夜がすき焼きだと思うと、正夫は朝からそわそわ落ち着かなかった すき焼きを仕切るのはなぜか日頃は家では疲れて寝てばかりの父だった 父が食事の準備らしきことをするのは、すき焼きを除いてない 夕食近くになると、父は底の浅いお鍋をコンロにかけ、まず脂身をジュージューと炒め始める 子どもたちは、年に二度しか食べられない「すき焼き」を作る父を尊敬に満ちた眼で見ている 肉が焼けてくれば、ネギをのせ、砂糖と醤油を加える えもいわれぬ甘い香りが食卓に満ちる ああ、生まれてきて良かった 正夫は感涙にむせぶのであった 「そろそろいけるぞ!」 父の合図で正夫と2人の姉はまるで強力な磁石に吸い寄せられるように食卓につく 「いただきま~す!」 父の前にはビールに熱燗 父は酌をされるのを嫌がり、自分でちびちび注いでは飲んでいる 「あ、正夫がまたお肉ばっかり食べてる」 姉が怒っている 愚か者め(^o^)弱肉強食とはこのことぜよ! いつもはちょっと気むずかしい父も、今夜はにこにこ笑っている 正夫は、腹が張り裂けそうになるほどすき焼きを食べる食べる…食べる 玉子のお代わりをしても許される ああ、幸せだ 毎日が正月とお祭ならいいのに… ------------------------- 40年の歳月が過ぎた あの頃に比べれば、毎日が正月かお祭かというほど豊かになった しかし、その毎日に父はいない 20年も昔に死んだのだ 今どき、すき焼きをしても、狂喜乱舞する者はいないだろう お正月だといって、朝から夕食を待ちかねる少年もいないだろう それだけ豊かになったのだ あの頃はそれだけありがたい、スーパープレミアムな時間だったのだ 「ごちそうさま」 あの頃と同じように、両手を合わせて言ってみる やはり、うれしい食卓である 後何年家族とすき焼きが出来るだろう すき焼きの珍しさがありがたいのではなく、縁があってこの家族と一緒になり共に笑いながら卓を囲む… 何十年後かに気付くのではなく、今この時こそ「スーパープレミアム」な時間なのだ 湯気の向こうに、父の姿が見えたような気がした お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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