カテゴリ:平和に対する思い
先日、吉野の実家を整理していたら、戦中に父宛に着た手紙を見つけた
父は、若い頃は海軍の飛行機乗りになりたかったと生前に聞いたことがある 体格検査でそれが叶わず(父は小柄だった)、海軍の志願兵として防府の通信学校へ入校したらしい 入校する直前に実家で撮られた写真がこれだ 実家で見つけた手紙は郷里の先輩が先に予科練に入隊していて、これから受験しようとする父に対して書かれたものだ <以下本文> 勝っちゃん御便り有難う 相変わらず御壮健にて何より 俺も相変わらず御元気〔ママ〕で勉強しているさかいに御安心あれ 御同封の写真有り難う 本当に良く写されている 美男子は女型〔ママ〕になってもやはり美人だよ 良い記念品だよ 有り難く頂戴しておく 俺も今度○○○○を一枚送る 次回の君の大奮闘を期待せしに遂に中止となる由、残念に思ふ 然し又いつかの機会にはがんばって千両役者の貫禄を見せてくれ 俺も演芸会や芝居は大好きな方だからね 過日岩国航空隊に於いても海軍の兵隊さん達と共に楽しく演芸会をやって来た 海軍は少しの余暇があればすぐ演芸会を開いたり、体技に角力等を催して慰安する だから兵隊さんはとても上手だ 何が飛び出すかわからないところに興味深いおもしろさがあるからね 又面白い話は帰郷の時聴かせてやる 小生も堺で時々同郷の女に会ふよ 同級生の人だ 偶全〔ママ〕にだがね 逢い引きじゃないから嫉妬を起こすな、ハハハ あまり美人ではないから...これは内々...出会っても話もそんなにしないがね 異郷で知人に会ふと誰でも懐かしくなるものだ 自分の彼女に会ふ以上にね、ハハハ、これは本当だ 山口先生は御壮健かね 俺が海軍を受験したのを知っているらしいが、宜敷く云っておいてくれ もうすぐ旧正月だね 君の地図は確かに持ってかへる 何にするんだね 十日迄にはきっと、つかぬことを伺ふようでござんすが其の... これはちっと云いにくい水くさいようだが俺の心○じゃこれはちと云ひにくい 旧正月に帰る遠慮せないで遊びに来てくれ 別段他にニュース無し 〔府下中河内郡松原町字○ 本●芳○18.2.4消印〕 <ここまで> この手紙は検閲の印がないので、先輩は外出時に出したものだと思われる この後、戦局が推移して、先輩の筆致も変わってくる <以下本文> 勝美君、今日は軍紀を破って手紙を送る 先ず、何事も簡単明瞭に話そう いよいよ我らも入隊以来五ヶ月余り、学科や陸戦(教練)の猛訓練を受けてきたのであるが、いよいよ二十一日卒業となった 何しろ普通の○練が二ヶ年半のところ我々は僅か六ヶ月の超短期教育だったので、化学の粋を集めた航空機に関しての智識は甚だ薄いが陸軍の一年間の教育よりは遙かに程度が高い 普通学でも数学にしろ物理でも中等学校四年位のもので国語に至っては文法、漢詩、百人一首等だ 体育も複雑な海軍体操に航空兵の特殊な体操が加わる 短いパンツ、開襟のシャツ、ズック靴、まるで白兎が飛び回っている様だ こちらでは、空中回転、地上転回、あちらでは機械体操、飛箱〔ママ〕、向こうでは棒倒し、騎馬戦等、二時半から四時まで、彼らは勇猛果敢なる攻撃精神で思い切ったことをする 水泳は、いよいよ分隊対抗の遠泳競争で遂に幕を閉じた 距離四〇〇〇米往復 入隊する特全くの特殊潜行艇でも今では一里二里は優に泳ぐことが出来る 俺も先日三級以上として検定を受けた 記録百米自由形一分二十秒、同平泳一分四十七、潜水三十五米、五米飛込み、先ず一級はもらへると思ふ それで先ず百三十名の者が沖を目指して平泳ぎで泳いでいく 五百米、千米、千三百、その辺からいよいよ金槌連中が遅れてくる、何しろ先頭を取るんではなくて分隊の者全員が決勝までに入った時の所要時間を取るのであるから、我々はこの連中を引っ張っていくのであるが、人間一人水中でも引くのは大変苦しい 全員頑張ったが、残念ながら優勝は出来なかった 何の競技でも海軍では固人的〔ママ〕な事は認めないすべて団体の団結心を養成する為のものであるからである 個人的ならば、俺の分隊は絶体〔ママ〕に負けない 先日の競技でも全部一位で優勝したが、結局団体競技で負けたので駄目だった 海軍の伝統的な負けじ魂は何でも一番を取らないと恐い 皆が負けじ魂で頑張るが、何としても十人居れば十番まで順位がつく もう俺たちの試験が終わったが、毎週一週間習った事はすべて週間考査が行われる そして最後に卒業試験だ 八月の十五日頃より九月十日頃まで我々は毎日試験試験でずいぶん頑張ったが、結果はあまり良くないと思っている 何しろ習うことが多い、そして短期である 君も今度合格したならば「特乙第何期練習生」の名がつくであろう 俺たちはその特乙の第一期生だ 下市の全校生徒の一倍半位である 北は北海道、南は鹿児島県から集まっている これは地上鍛錬時代が六ヶ月(予科練)、飛練時代六ヶ月、実用機三ヶ月位で大体第一線に出征するであろう いよいよ二十一日卒として何処の航空隊へいくかもしれんが、今度は予科練以上苦しい飛練教程だ 然し人間苦をなめなければ立派な人間とはならない 自分の望みはそんなにたやすく得られる者ではない事を思へば、如何なる難関も突破出来ると思ふ 修行中は苦しいもの 苦あれば楽あるの諺がある 今の航空兵は若い二十五才以下の者が大決闘のソロモン、ニューギニヤ〔ママ〕方面に大活躍をしている 少し老婆心ながら附記しよう 試験を受けたら充分思ふだけ遊んで○○に未練無きようにしておくとよい 俺は其の点まずかった 通知がきたのが遅くて皆と充分別れも出来ず、皆に送ってもらうことも出来なかった何一つ記念になるようなこともなく死んでいくのかと思うと男一生一度の晴れの入隊に永久に忘れられないみれんがある 俺は全くさみしい入隊の日であったろうか それだけが残念だ 遊ぶ事は俺は伯父の家で充分遊んである 食事物も御馳走を充分食ってあるから心残りはない 君も第二次検査が無事終われば充分用意をしておけ 好きな彼女があれば、充分可愛がっておけよハハ... 後に未練のなきように 今の航空兵はすべて靖国航空隊行きだね 最長寿を保ってこれから五年位だね 五年位先は白木の箱さ 君も大きな度胸でこんな覚悟で来い ヤンキーに負けるぞ 第二志望は何か知らないが衛生兵は大変楽だと思ふ 志願してきたならば是非海軍の学校へ入らなければ出世出来ないから普通学は充分勉強しておくとよい くどくどしく書いたが結局俺の言いたいのは出願の覚悟だけだ 先輩面して生意気言っておく 以上 九月二十日以後は隊が変わっているから便りは出さないでくれ いずれ早速と転地より出すが、都合によれば南方方面かもしれない 先ずはお楽しみに <ここまで> まだ20歳前の青年の書いた手紙である 戦争があったことは不幸な歴史であるし、今後あってはならないと思う しかし、自分の身を投げ打ってでも国と愛する人を守ろうとした若者がおり、そういう人のおかげで今の自分があるんだと感じている その後父は、海軍志願兵として18歳で出征し、終戦を迎えることになる 父よ、あなたはどのように見ているか この国のていたらくを 父よ、あなたはどのように見ているか 今の僕の生き方を 酒を飲みながら尋ねてみたい お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010年10月28日 22時35分31秒
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