シングル母のアメリカ暮らし

長男Mはわりとやさしいジェントルマンである。人とケンカする事はめったにない。ただし弟に対しては別だ。妙にチクチクと意地悪を言ったり、わざとケンカになるような事を仕掛けたりする。
弟の方も、兄に対してはやたらと強気なので負けてはいない。
何に対しても張り合う。エゴと競争意識の固まりである。

特に食べ物が絡むと最悪だ。

先日教会で座っていたときの事。前の列にいた女の子たちが小さな箱入りの、これまたちっちゃい粒入りのキャンディを食べていた。私の両脇に座っている、このふたりの男たちは、固唾をのんでキャンディの行方を見守っている。嫌な予感がした。するとその時、その女の子がキャンディの箱をいすの上に落としてしまったのだ。キャンディが床にこぼれた。

私の二人の息子たちは、目にも留まらぬ早業で、我先にあらそいながら、こぼれたキャンディを拾い集めている。

まるで犬だ。

しかもここは、野球場でもない。映画館でもない。
教会なんだよ、きみたち！
奴らははいつくばって、キャンディを一心不乱にに拾っている。
私は二人を小声でどやした。下にこぼれたものを食べようとでも言うのか。
しかし、すでに数粒は口の中に入っていた。
こいつらは、けだものだ。

さっきも言ったように、ここは教会である。
とても静かなのだ。
そして今の一部始終を皆に見られていた。
奴らの手のひらから、広い集めた戦利品を無理矢理もぎ取って、
平然を装って座っていると、うしろから肩を叩かれる。
ふりむくと初老のご夫人が
「これ、ぼくたちに。」とキャンディバーを差し出すではないか。
前からも１０代の男の子がきて、息子たちにグミの小袋を差し出しながら
「シェアしなきゃダメだよ、オーケイ？」とひそひそ声でいって、席に戻った。

あまりの恥ずかしさに、私はその場を動けなかった。
これではまるで躾のなっていない母親そのものではないか。
それに、キャンディだって食べさせてない訳じゃないよ。
彼らがいやしいだけなんです。
でもね、でもね、そもそも教会にキャンディなんか持ってくんじゃねえよ。

こんなに母が恥をかいたというのに、当の子供たちは教会のあと、そのキャンディのどっちが多いかで揉めている。おのれらは反省の心というものがないのか！
分け合う心というものがないのか。
彼らにとって、支給品の多い少ないはやはり死活問題なのである。

この二人、他人とはシェアができる。
でも兄弟同士だとまるでダメだ。ジュースを注いであげれば、どっちのコップがより多く入ったかで騒ぎ、ぶどうをあげればいちいち数える。
いただきもののチョコレートなどは、もう書く気にもならない。
このライバル意識というものはすごいものだ。

今日は上の子だけが、お友達のうちに遊びに行った。
午後ふたりで家の中にいると、次男がしきりに「Mは？いつ帰ってくるの？」と聞いてくる。「今日はまだまだだよ。」と言うと寂しそうに「つまんないなあ』と言う。
「あれ？だっていっつもケンカしてるじゃない」というと、
「そうじゃないよ。ケンカすると、もっと仲良しになるんだよ。
ケンカしてから遊ぶから楽しいんだよ。」

変な理屈もあったもんだ。
でもそれも一理あるんだね。ケンカするほど仲がいい、とも言うしな。

次男のおやつにクッキーをあげた。
「あ、オレ、これをMにとっといてあげようっと。Mこれ好きだから。」
なんだ、ずいぶん優しいことを言ってるじゃないか。
なんて思っていたら、Mが帰ってきた。

「ただいまー。」
「M～～～！　今まで何してたの？」
「友達のおかあさんにJamba Juiceに連れて行ってもらった」

その後、死闘が繰り広げられたのは言うまでもない。



本日の献立：
チキン照り焼き、ズッキーニのソテー、もやし炒め、ごはん