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カテゴリ:母のひとりごと
私の初恋は
小学校5年生の時だった。 その子は何故かいつも隣の席だった。 私とその子はけっこう気があっていたのだと思う。 いつもお互いにけなしあい、ののしりあいながら その諍いを楽しんでいた。 ハンサムでもない、スポーツマンでもない彼は 背が高く、私にはかっこいい子だった。 二つつながった机の真ん中に線を引き、 ちょっとでもひじが境界線を越えたり、 消しゴムが敵陣へころがっていったりすると、 「おまえ、また侵入してきたなー」と ののしられる。 「そっちが先に線からはみだしたんだよ」なんて 私も負けずに応戦する。 その子は時々本気なんだかからかいなんだか よくわからない口調でつっかかるので 本心はよくわからなかったが、 クラスのみんなからはよく冷やかされたものだ。 「あーあついあつい」 「けんかするほど仲がいいんだってよー」 「KとSはあっちっちだぜ」 こんな言葉を投げかけられ、恥ずかしいような うれしいような、うっとおしいような そんな気持になったものだ。 夏休みになると気が抜けた。 ケンカ相手のいない毎日はなんだか物足りない。 友だちを誘って、その子の住んでいる近くの公園まで行ったりした。 一度盆踊りの夜店の前でばったり会った。 「おまえ、そこでなにやってんだよ」 「ハッカ飴買ったんだよ」 「そんなガキみてえなもの喰ってんなよ」 とガキに言われてくやしかった。 相変わらずの口調がうれしくもあった。 それぞれの友だちが別方向に歩き始めたが その子と私は無言のままそこに立っていた。 何か話したくて何も言葉がみつからない。 そのうち男の子がはやしたてた 「ひゅうひゅう、おあついね」 そのひとことで、その子ははじかれたように 「うるせえんだよ」と行ってしまった。 6年生の2学期が終わるクリスマスの頃、 その子は転校してしまった。 「学校も後3ヶ月で卒業なのに、残念ながら SくんはO町に引っ越す事になりました」 先生のかたわらで、窓の外を見ながら目をパチパチやっていたSくんは 迎えにきたお父さんと一緒にこちらを一度だけふりむいて、 校門を抜けてどこかへ行ってしまった。 私は何度もからっぽの机を見ては 胸がちくんと痛くなった。 本日の献立; 海老マカロニグラタン、ゆでたカリフラワー、ハムときゅうりのサラダ アップルクリスプ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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