シングル母のアメリカ暮らし

人は誰でも、
ちょっと他人様に知られたくない
食べ物の好みとか、変わった食べ方を
持っていると思う。


今まで聞かされて「げー」と思ったのは
ごはんにマヨネーズ、パンにバターとケチャップを塗る、
ジャムパンを牛乳に浸してスプーンで食べる、などだ。
元夫はなんでもキューピーマヨネーズ。
麻婆豆腐にも、カレーにも、クリームシチューにも
ごはんとマヨネーズをぐちゃぐちゃかき混ぜて食べていた。
初めて見たときはめまいがしたものだ。


私はいろいろ新しい味には挑戦するが、
基本的に保守的なので、
あまり人に驚かれるような嗜好はない。
しいてあげれば、
「しけた煎餅」が好物だという事だ。


これに関しては「しけ具合」がものをいう。
しければしけるほど、美味いというわけでもなく、
軽く湿気った感じ、歯がすこしだけ湿気特有の
歯ごたえを感じるあたりが食べ時なのだ。
特に、柿の種、おかき関係の食べ頃にしけたのは、
口に放り込んでかみしめた瞬間に
うっとりと至福のときが訪れる。


それでも不思議なもので、わざわざ湿気らせて食べる事はあまりない。
それだけにたまたま、偶然に、ほどよくしけた残りもの煎餅に
遭遇したときは、胸の高鳴りを覚えるほどだ。


ようかんは、私の場合、紙のように薄く切ったのが好きだ。
そのペラっと薄いようかんを指でつまみ上げ、
ぺろんぺろんと振りながら、食べるのが何故か美味しい。


ゼリーは子供の頃からの好物だが、
スプーンですくいとった後、かならず右目の前にもっていって
光にさらしてプルプルっとスプーンを揺らし、
キラキラを楽しんだ後、口に運ぶ。

だからようかんもゼリーも家の中限定でしか
心底は楽しめないのだ。
いい年こいて、ゼリーぷるるん、なんてやっていると
品格を疑われてしまう。



何年か前、日本人の友人と、一切れのカステラを分け合った事があった。
他の人達に配ったあまりの一切れだったのだ。
彼女は真ん中で二つに切り、上の半分を自分にとり、
下の、底にザラメのついている半分を私にくれた。
私は実はこのザラメの歯触りが嫌いだった。
彼女が何故そっちをよこしたのかも深く考えず、
思わず、最後にその下の部分を残してしまったら、友人が
「え？？？？もしかして、そのザラメのところ嫌いだったの？
私はそこが大好きなんだよ。だからSAKUZOも好きだろうと思って
そっちをあげたのよー。」と二人で大笑いした事があった。
彼女はとっても優しい人なんである。
でもこういうちょっとした他人の嗜好なんてわからないもんだ。


麦茶に砂糖を入れて飲む、という人。
トマトに砂糖をかけて食べるという人。
うちの息子たちは、朝ごはんのスクランブルエッグやソーセージに
メイプルシロップをかけて食べるのが好きだ。
普段は砂糖過剰になるのであまりやらせないが、
たまにいいよ、というと喜んでやっている。




アメリカに来て、元夫の実家ではじめて
大勢でディナーを食べた時、
たくさんの肉や野菜のディッシュのなかに、
マシュマロや生クリームがごそっとかかったフルーツゼリーが
一緒にテーブルに乗っていた。


あれ、もうデザートもだしちゃうのかと思いつつ、
皆が、私のお皿にいろいろ取り分けてくれた。
義母は私のためにごはんも炊いてくれたのだが、
そのごはんに重なり合うように、
「デザートのゼリー」が盛りつけられていた。



けっこうショックだった。
温かいごはんの隣に冷たいゼリー。
その向こうにはローストされた肉。
ゼリーが心なしか崩れて溶け出しているようだ。
私はあせって、何を思ったか
ゼリーだけをばくばくっと食べてしまった。


隣の義姉が、
「そのジェローサラダ好き？私が作ったのよ」
サラダ、だそうです。
どっからみたってデザートじゃんか。
美味しかったけど、肉やごはんと一緒に盛ってくれるな。
ちなみに他の人は、ジェローや生クリームと混ざったごはんを
おいしそうに口に運んでいた。
けっこうものすごい光景だ。


ちなみに後からデザートはデザートでたんまり出てきた。




確かにこの義姉もすごい嗜好の持ち主なのだった。
アメリカ在住の方ならご存知だと思うが、
苺の季節にスーパーへ行くと、苺パックの並んだ横に
小さな丸いスポンジケーキと、
見るからに人工的な赤い「ストロベリーソース」が
一緒に積み上げられているのを見る事と思う。
果汁なんか１滴も入ってないような、
スターチと着色料と砂糖だけでできているようなあのソースを
彼女は白いごはんにたっぷりかけて、食べていたのだ。
そして、彼女の子供たちも。


人の嗜好はとやかく言うまい。
自分の嗜好だって人様から見れば「え？」という事もあるかもしれない。
自分で気がつかないだけで。
私の友人、Eちゃんはその昔、ウィンナ入りのみそ汁を得意としていたが、
本人はそれがいたって普通だと思い込んでいたのだから。


だから、あの「いちごソースどんぶり」だって、
アメリカでは普通の事なのかもしれない、
そうだ、きっとそうに違いない、心を落ち着けなきゃ、と
一人で納得しようとしてた私の横で
それをみた義父が小声で「グロース（汚らしい）」と
つぶやいたのを聞いたときは、心底ほっとしたものだ。


皆さんには
人にいえないような食べ物嗜好、ありますか？




本日の献立：麻婆豆腐、ごはん、ケールのごまみそ和え、
にんじんといんげんのゆでたもの、マンゴー