シングル母のアメリカ暮らし

私は海が大好きだ。
１日中、ビーチで波の音を聞きながらぼーっとしていると
悩み事などあったとしても麻痺してしまう。
そんな私の心の中に一つの苦い思い出があった。



元夫に離婚したいと言われて１年近くたったある日のこと、
突然元夫から海にいこうと言われた。
その直前にやり直すのやり直さないのと散々もめたので
行きたくなかったけど大事な話だと言う。


海に着いて、浜辺を行ったり来たり歩きながら、
何時間もいろいろなことを話し合った。
自分の気持、彼女に対する気持、私や子供たちに対する気持、
いろいろ話し合って、少し心が通じ合ったような気がした。
久しぶりに手をつないで歩き、私は何となくやり直せるような気がした。
というより、やり直せる事を切に願った。
でも元夫はその２週間後に結論をだしたのだ。
答えはNOだった。


離婚して何が一番辛い思い出かと聞かれたら、
この時の海辺での数時間だった。
この日の元夫は、知り合った頃のとてもやさしい夫だった。
考えてみたら、これが元夫との最後のいい時間になったのだ。


去年はほとんど海へ行かなかった。
会員になって月に一度は行っていた水族館も
いつの間にか期限が切れて、足が遠のいた。
あれだけ好きだった海は、胸をえぐるほど辛い場所となった。
あの、海での時間の事を思い出すたび、涙があふれた。
きっともう永遠に、海には行けないんだろうなと思っていた。


今年になって、息子の友人のバースディパーティを海辺でやると聞いた。
私は正直いって行きたくなかったけど、大切な友だちだったし、
思い切って参加する事にした。
思いのほか、楽しかった。


それからは月に一度の割合で海に行っている。



長男は海の生物が大好き。
岩場をひたすら探検するのだ。
次男はただただ、波と戯れ、水と遊ぶ。


帰りはいつも遅くなり、
「あー、オレ海ダーイスキ」
「オレも！」
と帰りの車の中で必ず言うのだ。
「ママ、また連れてきてね。」


先週はいっぱい遊ぶ事にした。
夏休み最後の週だったからだ。
小川に行ってザリガニを捕まえ、
森林公園の大きな木のほら穴で遊び、
プールで泳いだ。


１日は「例のビーチ」に行った。
元夫との苦い思い出のビーチだ。
引き潮だったのでずいぶん様子が変わっていた。
長男につき合って、岩場を探検する。
ひとでもいそぎんちゃくも蟹もたくさんいた。
初めてだったが、小さな小さなウニも見つけた。
こんないたいけなウニを一瞬でも食べたい、と思ったおのれを恥じた。（笑）


岩場の奥にはアザラシの赤ちゃんがいた。
引き潮で親からはぐれたのだろうか。
心細げな顔をしてこちらをみている。
息子たちが「大丈夫だよ、ぼくたちはいい人だよ」と
声をかけながらにじり寄っていき、
一緒に記念撮影をした。


最初は落ち着かなかったけど、
去年のような心の痛みはだいぶ薄れていたようだ。
この大好きだったビーチを後にした時、
すこしだけ胸が痛んだけど、さっぱりしたような気にもなれた。


最後の金曜日は水族館に行った。
実に２年ぶりだ。
連休だったが、金曜日だったせいかそんなに混んではいない。
おかげで好きなものを好きなだけじっくりと見る事が出来たのだ。


長男の大好きな、いそぎんちゃくやひとでのコーナー。
次男は新しく出来たサメのコーナーがお気に入り。
ふたりとも超大型のマグロや海亀やサメのいるタンクの前で
長い長い時間を過ごす。


巨大タコの水槽の前で、ガラスにへばりついた
タコ足の吸盤を見て、
「んーーー、Yummy! (おいしそう）」
と叫んだ二人を見て、ギョっとした周囲の人たち。


いろんな魚が泳いでいる水槽の前で
「どの魚が一番好き？」と聞いた長男に
「オレはあれが一番好き」と答えた次男。
彼が指差したのは、魚にエサをやっているダイバーだった。


閉館ぎりぎりまで粘った私たちは
外へ出てしばらく小さなビーチで遊んだ。
カメラを持ってこなかったけど
かえってそういう時は、いろんな場面の情景が
はっきり脳裏に焼き付くような気がする。


夕焼け空のビーチを見ながら
私の周りを行ったり来たりしている子供たち。
あと何年、こんなふうにまとわりついてくれるのだろうね。
この子たちが大きくなったら、
一緒に海にくる人はいなくなるのかなあ、とふと思った。


帰り道にごはんを食べて、
車を走らせた途端、次男の寝息が聞こえてきた。
長男は起きてはいるものの、身動き一つしない。
するとポツリと
「ママ、連れてきてくれてありがとう」
小さい声が聞こえた。
「どういたしまして」と言ってバックミラーを見ると
二人とももう夢の中だった。


心の中のアルバムにこうして何枚も
楽しいページが増えていくといいなと思う。
後から思い出して楽しめるから。



本日の献立：
冷やし中華、冷やしトマト、牛肉ともやしの炒め物