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頭痛が痛い

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2010.07.17
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カテゴリ:小説もどき


今にも泣き出しそうな目をした少女が、そこに立っていた。

どこかで見たことのある顔だな、と一瞬考え、すぐに思い出した。

彼女は僕と同じ私立洗賀高校3年1組のクラスメイト、結城だった。

ここでフルネームをバシッと出した方が演出として格好良かったのかもしれないが、

あいにく僕はクラスの女子全員の下の名前まで覚えるほど暇でもないし、

女好きでもないし、物覚えも決して良いほうではないので、

皆様の期待に応えることができなかったことをここにお詫び申し上げる。

















2. 屋上コンタクト(前編)



















まず最初にお断りしておくが、

今回のお話には、「自殺」という割と重めのテーマが軸となっている。

もしも諸君がこの物語に、

非現実的ファンタジック学園ラブコメディー的な何かを期待しているのであれば、

それとは若干ジャンルのズレがあることをお伝えしなければならない。

「そんな欝展開、ネットでわざわざ見たくねーわ」

という方は、

ブラウザ左上の戻るボタン、

もしくは右上の×ボタンでタブを閉じてもらって構わない。

僕も出来るだけ気の重い文章にならないように心がけ、

ユニークなフレーズを多用した軽快な語り口で進行していくよう、

最大限の努力はするつもりである。



















しにたい。

これは、人生の中で誰もが一度は思ったことのあることではないだろうか。

実際に口に出したことがある人も少なくないと思う。

というか、最近の若者は「帰りてー」と同じノリで「死にてー」と言うらしいが。

しかし、「死にたい」と思った人の大半はただ「思う」だけで、

実際にはなんとかかんとかして人生を送っている。

特に中高生については、

人生について悩みを持つということも思春期の1つの特徴であり、

その悩みは時間とともに、

机の上に書いた落書きのように薄れやがては消えていく。

ただし思春期の少年でも、実際に自殺行為に踏み出す場合がある。

その原因は主に学校内のイジメがほとんどなのだが、

僕の場合は、そうではなかった。











「僕の場合は」と書いたことからもお察しいただけるように、

僕も一度だけ、自殺行為に走ったことがある。

もちろんそのような行動に至ったのにはそれなりの理由があるわけだが、

今その理由について話す気分ではないし、話す必要もない。

話さなければいけない時が来たら話せばよい。それで十分であろう。

とにかく僕は、その時の僕は、死のうとしていた。











計画はこうだった。

朝6時半に学校の正門が開くと同時に、爽やかにママチャリで登校。

教室には行かず、東階段を使ってそのまま屋上に行く。飛び降りる。おしまい。

この、小学生の夏休みの計画よりはるかにシンプルかつ大胆な計画によって、

僕の命はあっけなく終わるのだ。

ちなみにこの計画は、実行予定日の前日の国語の時間に考えた。

最近の学校では屋上へ続くドアの鍵は閉められていることが多いらしいが、

我が学校のそれは常時開放されていた。

校訓の一つに「高峰」というのがあるが、

それと関係あるのかもしれないし、関係ないのかもしれない。

もちろん落下防止のためにフェンスは張られてあったが、

よじ登れない高さではなかった。

場所として学校を選んだのには、特別深い理由があるわけではない。

「身近にある高い建造物」

を考えたときに自分の通う学校が候補として挙がってくるのは、

ごくごく自然なことである。

少なくとも、

電車で二時間の見知らぬ街の見知らぬ人が住む見知らぬビルよりは、自然である。

決行時間を朝一番にしたのも、屋上に人がいない時間を考えれば自ずと決まった。

我が高校の屋上は割と人気で、休み時間や放課後には、

四、五人でたむろする男子の集団、二人きりでイチャイチャするカップル、

授業中の睡眠では足りず昼寝する奴など、誰かしらがそこにはいた。

授業を抜け出して屋上へ、という手もないことはなかったが、

便意を催してもいないのに授業を中断してまで挙手し、わざわざ

「トイレにいってもいいですか」

という返ってくる答えがほとんど分かりきった質問をする面倒と、

朝いつもより少し早起きすることの面倒とを僕の頭の中の天秤に掛けると、

後者の上皿天秤の方が上に上がったので、早起きすることに決めた。

早起きをするためには、早寝をしなければならない。

しかしやはり、前日はまったく寝付けなかった。

オーストラリア中の羊がいなくなるくらいの数の羊を数えつつ

柵の中に入れたのだが眠れず、

寝るのは諦めて、考え事でもすることにした。












次の日、計画は実行された。

結局一睡も出来なかったが、目覚まし時計は律儀に働く。

もはやただのタイマーである。

そこからは大したハプニングもなく、計画通りに事は進んだ。

6時10分に家を出る。

6時32分に学校に着く。

既に正門は開いていた。

昇降口で上履きに履き替える。

まさか僕より早く学校に来る人はいないだろうと何の根拠もなく思っていだが、

ふと靴箱を見ると、トイレ用スリッパのような上履きがズラリと並んでいる中、

一足だけ、上履きの代わりに革靴があった。

こんなに早い時間に登校するとは、家が近いのだろうか。

自転車で20分かけて登校する僕からしてみれば、

家が近いのならその分だけ長い惰眠をむさぼりたいものである。

普段ならここから西階段を使って4階まで上って自分のクラスに向かうのだが、

今日は廊下を進んで、東階段で屋上に行く。

階段を上る途中で急に怖くなったりもしたが、足が止まることはなかった。

それでよかった。それが僕の最良の選択だった。

それは、昨晩布団の上で横になって最後の吟味をした上で出した結論でもあった。

僕の決心は、まるで鋼鉄のように固く、揺るぐことはなかったのである。











そして僕は、屋上への扉の前にたどり着いた。

深呼吸をして、ドアノブを回す。

錆び付いた金属が、頼りない音を立てる。

例の如く、鍵はかかってなかった。

ゆっくりと体重をかけ、ドアを押し開いた。

そこには、限りなく白に近い青色をした春の朝の空と、

無機質なコンクリートで固められた屋上の床との間に、

いるはずのないものがいた。












人だった。

屋上の真ん中あたりで、こちらを向いて立っている。

制服からそれが女子生徒であることは分かったが、

顔は逆光でよく見えなかった。

顔は見えなくても、これが非常事態であることは僕にでも分かった。

計画は失敗だ。後日出直そう。というかまずこの場をどうにかしなければ。

やはりまず挨拶だろう。

小学校の頃「人に会ったらまず挨拶しましょうね」ってゆみ子先生も言ってたし。

「おは…」

僕がゆみ子先生に教えられた挨拶は、彼女の行動によってさえぎられた。

彼女が僕の方に歩み寄ってきたのである。

一歩一歩の足取り、それに伴って揺れるスカートと黒髪。

すべてがスローモーションに見えた。

気づいたときには、彼女は僕の目の前に立っていた。

そして、彼女は言った。
















「―――死なないで、北見くん」
















皆様にこの時の僕の驚きがお分かりいただけるだろうか。

誰もいないはずの朝一番の学校の屋上に人がいて、

しかもその人が開口一番「死なないで」と言ってくるなんて、誰が予想できよう。

それはまるで、

学校の校舎の屋上で背中をドンッ!と押されたかのような衝撃だった。

まさに今校舎の屋上から飛び降りようとしていた人間が用いるにしては

少々伝わりづらい例えとなってしまったが、

逆にこの状況で冷静に適切な例えを出すことが出来る方がもしいらっしゃるのなら、

今すぐここへ連れて来てほしい。讃える。



とにかく僕は、驚いた。






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最終更新日  2010.07.18 19:57:59
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