カテゴリ:小説もどき
父の部屋の掃除をしていると、若い頃の両親が二人で写っている写真を見つけた。 どこかへ旅行へ行ったときのものだろうか。 幸せそうに笑う母の隣の父の顔は、 なるほど、僕にそっくりである。 僕「が」そっくりである、と言った方が適切かもしれないが、まあ大した違いはない。 4. 心謝エピローグ さて、ここで皆様に、僕たちのその後をお伝えしようと思う。 結城が僕の家を訪問してのち、母は、らんま1/2もビックリの豹変ぶりを見せた。 うるさいほどによく喋り、うっとうしいほどに僕に干渉するようになった。 18歳の男子高校生が母親と仲良く買い物をしているというのは、 傍から見れば、やはり異様な光景だろうか。 しかし僕は、やや過干渉気味な母に冷たい態度をとることもなく、 むしろ内面では、少し嬉しく思っていた。 僕のことをマザコンと呼びたいのなら、いくらでも呼ぶが良い。甘んじて受け入れよう。 今まで親の愛情をまともに受けずに育ってきた人間なのだから、 一時的にマザコンになることぐらい、大目に見てもらいたい。 母は、離婚後自分が塞ぎこんでいた事や、結城が家に来たときの事について、 触れることはしなかった。 意図的に言及しないようにしているのかもしれないし、覚えていないのかもしれない。 ただ、母は結城のことを知っていたし、なぜか気に入っていた。 「今夜は外に食べに行かない?あ、そうだ!結城ちゃんも一緒に!」 こんな感じで、母は結城を良く食事に誘った。なぜか三人で舞台に行ったりもした。 もしかしたら、それは母なりの、結城に対するお礼なのかもしれない。 まあ僕には誰かのように人の心が読める訳ではないので、真偽の程は分からない。 そしてたまに母は、 「結城ちゃん、ウチに嫁いできたら?」 と冗談とも本気ともつかないことを急に言い出して、僕たちをひどく動揺させた。 「な、なに変なこと言ってんだよ、別に俺たちはそんなんじゃ…」 と僕が取り乱しつつも反論しながらちらりと横を見ると、 なぜか結城が僕の三倍くらい顔を真っ赤にしていて、見てるこっちが照れた。 と、そんな中学生のぎこちない初恋のような話はこの辺にしておいて、 とりあえず、僕の家庭は結城の活躍により、活気を取り戻した。 そして忘れてはならないのは、僕は結城に命を救われたということである。 本来ならば僕は結城に対して、 毎日三十本の花束と共に、感謝万謝の言葉を伝えなければならない。 しかし、僕はまだ彼女に対してお礼の言葉を口に出していない。 「この恩知らずの人でなし野郎!!」 と僕を罵倒するのは、少し待っていただきたい。 口に出してはいないが、僕は結城に会う度に、 「ありがとう。結城、本当にありがとう。」 と、心の中で何回も言っている。 心の中で思うだけだ。 それだけで、結城には届く。 なぜなら、彼女には、人の心が読めるから。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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