カテゴリ:小説もどき
『ジャラ~ン』
大学生になったからには、何か新しいことにチャレンジしてみたいものだ。 そう思って、私はバンドのサークルに入った。 そしてただ「かっこいい」という理由だけでギターをすることに決め、 先日、なけなしの金をはたいて楽器屋でギターを購入。 皆さんご存知だろうか。 大学生のお財布にとって、ギターのお値段はなかなかの大打撃である。 というわけで私は今、昼食代わりのうまい棒(めんたい味)をお供にして、 部屋でギターの練習をしている。 「…よし、Amコード弾けるようになった!次は…Fコードか」 コードブックを見ながら、指を慎重に弦の上に乗せる。 知っている方も多いと思うが、 Fコードは他の簡単なコードの押さえ方とは少し異なり、 人差し指だけで6弦全てを押さえる必要がある、初心者には難しいコードである。 このFコードという壁にぶち当たり、思い切って購入したギターが、 お部屋のオシャレな飾り物と化してしまう初心者も少なくないという。 「よし、これで抑え方はオッケーなはず」 弦を抑えた左手をキープしたまま、右手で持ったピックで、弦を上から撫で下ろす。 『ポロロン…』 なんとも頼りない音が出た。 とりあえずこれがFコードの正しい音でないことは明らかである。 「エー!なんで鳴らないのー…」 それから何回かチャレンジしてみたが、古い三味線みたいな音しか鳴らない。 「うーん、おかしいなぁ…ちゃんと押さえてるんだけどな…あれ、何これ」 もう一度弦を押さえなおそうとしたその時、 左手の人差し指付近にゴミか何かが付いてるのが見えた。 これが邪魔してたのかな、と思ってその物体をよく見てみると… 「うぎゃーーー!!!!!!」 びっくりたまげた。 なんとその謎の物体の正体は、ちっちゃいオッサンだったのである。 ちっちゃいオッサンが指に付いていた、 などと痛い事を言い出した私を軽蔑の目で見る人もいるかもしれない。 それは一向に構わないし、無理に信じろとは言わない。 だからここからは、 「カワイソウな女の痛い妄想話」という設定で読んでもらって結構である。 ちっちゃいオッサンは、私に話しかけてきた。 「よお!やっぱりお譲ちゃんにはおっちゃんが見えるんやな! おっちゃんは『おじゃま虫』や。よろしゅう!」 「おじゃま虫?何ソレ…てか、なんで関西弁…」 「おじゃま虫っちゅうのはな、その名の通り、人の行動をじゃまするんや。 例えば、自転車に初めて乗ったときのこと思い出してみ。 最初は全然乗れへんのや。すぐにこけてまうやろ? あれはおじゃま虫がじゃましとんのや。 そんで、ある時急に乗れるようになるやろ。おじゃま虫がいなくなったんや。 一度乗れるようになったら、もう乗りかたを忘れることはない。 おじゃま虫が出てくるのは最初だけやからな」 確かにこのちっちゃいオッサンの理屈でいけば、 今まで全然出来なかったことがある日急に出来るようになり、 そのやり方をもう忘れることはない、という現象の説明がつく。 だがしかし。 「…もしそうだとしても、おじゃま虫なんていうちっちゃいオッサンの存在なんて、 今まで見たことも聞いたこともなかったわよ」 「そりゃそうや。おじゃま虫は、本来人間には見えへんからな」 「えっ?見えない…って…」 「せや。普通の人間には見えへん。 ただ、ごくまれに見える人間もいるんや。お嬢さんみたいにな」 「……」 このような、 連載3週目で打ち切りが決定してしまうC級漫画のみたいな設定に置かれた私の気持ちを、 皆さんどうか察してもらいたい。 そして出来ることなら、 この関西弁を巧みに操るちっちゃいオッサンとの奇妙な共同生活を送る、 カワイソウな私と入れ替わってもらいたい。 さすればもれなく私の部屋にストックしてある、うまい棒一か月分を進ぜよう。 などと非現実的なお願いをしてばかりいてもこのおじゃま虫は消えないので、 Fコードを死ぬ気で練習して、さっさとこのちっちゃいオッサンとByeByeしようと思う。 例えこの指が血でまみれようとも! 『ポロロン…』 後編へ続く お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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