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頭痛が痛い

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2010.08.25
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カテゴリ:小説もどき
普段ちっちゃいおっさんは、弦と弦の間に寝そべっている。

しかし私がFコードを弾こうとした瞬間、おっさんはおもむろに立ち上がり、

重量上げのごとく、私の指を両手で支えてくるのであった。

「ぬぅ…なんて力してんのよ」

「おじゃま虫は、自分の体重の100万倍の力を発揮できまんねん。

 お譲ちゃんの指の力なんて、

 3日間キャップを開けっ放しにしといたコーラの炭酸よりも弱いっちゅうねん」

ピンと来ない例え引っ張り出してきやがって…生意気なおっさんである。













ちっちゃいおっさんが見えるようになってからというもの、

一人暮らしの私の生活の中には、常におっさんが紛れ込んでくるようになった。

「お譲ちゃん、そないに寝転んでばっかりやったら太るで」

「わて、報道ステーションやなくてダウンタウンDX見たいねん。チャンネル変えてーや」

「お譲ちゃん、彼氏ぐらい作りーや。大学生なんやから、もっと遊ばなアカンで!」














私、一人暮らしだけど、家出したい。

何が嫌で、こんなウザイおっさんと同棲しなければならぬのか。解せぬ。

私は、学校から帰るとすぐにギターを手に取り、

ひたすらFコードの練習をするようになった。

しかし最初の3、4日はまったく成長が感じられず、

本当にこんなんで弾けるようになるのか、まったく自信がなかった。

いつもの私ならば、恐らくとっくに挫折し、

ギターを部屋の隅に放置したまま、パソコンでツイッターとかにハマっていたであろう。

しかし今の私は、ここで挫折するわけにはいかなかった。

なぜなら、ちっちゃいおっさんをこの部屋から撤去するには、

Fコードを弾けるようになるしかないからである。

「お譲ちゃん、まだまだ修行が足りひんなあ。

 そんなんじゃあ、プロのギタリストへの道は険しいでえ」

いや、別に私プロのギタリスト目指してねーし!

っていう感じのツッコミを待ってるに違いない。

絶対にツッコんでやるものか…ぐぬぬ…















『ジャラポロリン』

「おお!!」

Fコードの練習を始めて一週間、だんだん音が出るようになってきた。

いくつかちゃんと鳴ってない弦もあるのだが、

もう少しで弾けるようになる気がしてきた。

「へぇー、だんだんマシになってきてるやん。でも、まだFコードとは呼べへんな!」

「うるさいわね。もう少しでちゃんと弾けるんだからね!」

「せいぜい頑張りやー」

そう言ったおっさんの顔が一瞬悲しげに見えたのは、私の気のせいだったのだろうか。

とにかく、あと一歩で弾けるようになる。

私はその後も練習を続け、ついに…
















『ジャラ~ン』

「やったぁ!!弾けた!!」

練習を始めて二週間、私はFコードを完全に弾けるようになった。

最初に練習を始めたときに音が全く鳴らなかったことが嘘のように、

何回弾いても、Fコードの音がちゃんと出るようになった。















「どうだ!!見たかちっちゃいおっさん!!完璧に弾けるように鳴ったわよ!!」

返事は無かった。

「おっさん?どこに隠れてんのよ…おっさん!!」

おっさんはいなかった。














そうか。

おじゃま虫は、出来るようになったら消えちゃうんだっけ。

もう、邪魔しに来ることはないんだっけ…

じゃあ私は、Fコードが弾けるようになったこの喜びを、誰に伝えればいいんだろう。

一人暮らしの部屋って、こんなに静かだったんだ。

ウザくて変なちっちゃいおっさん、あんなに一刻も早く消えて欲しかったのに、

いざ消えると、なんでこんなに寂しいんだろう。

ちっちゃいおっさん……













まさか自分が、あんなおっさんとの別れでこんなに悲しくなるとは。

こんなことでくよくよしててもしょうがない。

もっとギターの練習をして、もっと上手になってやろう。

次はFコードよりもっと難しいコード、Bmコードに挑戦だ!
















『ポロロン…』













鳴らない。

プニュッとした人差し指の感触。

まさか。
















「お譲ちゃん、久しぶりやな!!」















どうやら、私の人生にこのちっちゃいおっさんは付き物のようである。

その夜私がうまい棒をヤケ食いしたことは、言うまでもない。

「お譲ちゃん、そんなに食べたら太るで」

うっさい!!










END





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最終更新日  2010.08.25 15:56:57
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