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カテゴリ:移動する話
このごろエンジンのついた乗り物で移動して遊んでいた。
といっても、わたしは旅券と保険証以外の身分証明書がないやつなんで相棒の運転をあてにしている。 そんなわけで、ここのところ脚が萎え気味なんじゃない?と脚での移動を提案してみた。 そこで選んだのが「盆堀林道」。 八王子から西東京バスで陣馬坂下行きにのり急行でゆられること約40分。関場で下車、そっからひたすら歩く。 目指すのは友人のやってる五日市のギャラリーだ。 バスを降りたらいきなり息白く。ジャケツのジッパーを思い切り首まで上げて体温を保持。 「きっとここが自販機最後の場所かも」と思い思いの一缶を選ぶ。なんとなく、これから未知の林道に入るせいもありいつもは買わない「甘い味」のする缶ものを買ってしまう。 民家があるところでは挨拶を欠かさない。 たまに人に出会ってもおんなじ。 奥に行けばいくほど、なつかしい感じのつくりの日本家屋に出会うようになる。ガラスの入った木の格子窓。縁側。しっくいは土の壁。 しばらく歩くとそれも途絶え、里からは完全に離れた。 あとはひたすら渓流の音だけ。 上を見れば杉林、しかもかなりの傾斜にかろうじて道がつくられているから見上げるとこれから上る道がすぐ見える。きっついコーナーの連続。ま、徒歩だから、きょうは。 気温と傾斜に慣れはじめたころに「500m」の表示。 以後500mごとにこれが現れ、われわれを励ましたり落ち込ませたりする。疲れると「まだこんだけかよぉ」でありそうれなければ「もうここまできたか!」と小躍りする。げんきんなもんね。数字ひとつにこれだけ反応してしまうのは、この道になんの表示や情報がないからなのだ。渓流の音だけが断続的に続き、時折「くずれたて!」「おちたて!」ってな感じの土砂崩れのあとのむき出しの雑木林の根っこや岩石を見ると「ここって、ホントに人こないんじゃ・・」とちょっと寂しく、かつワクワクしてくるのだった。 時々あるものといえば獣の糞。 それからあけびの実の食べかす。 中身だけしっかり食って皮だけ放り投げてある。 野ぶどうはていねいにもがれた跡の枝が散乱。 これは人間の仕事かしらん。 栗も小さい実を除いてしっかりとられており、熊が先か人が先かという世界のよう。 そのうち、岩間から滲みだした水が道路を覆っている場所に出る。先の見えない山道。不安だがたのしい。わたしの場合、先行き不透明なことに不安よりも楽しみが先行してしまう性質のようだ。 向こうがわからおじさん一人降りてくる。 あいさつしてすれちがう。 どっから来たのか、って地図を見ればやっぱり五日市方面からなのであろう。よく歩いてきたねぇ。 時々お茶の時間にする。 甘い缶コーヒーがおいしいなんて。相当やばい。 選べないって時にはいいことなんだな。 糖分とってまた歩く。 まだ先が見えない。 途中。軽自動車が二台通り越していく。 「入山トンネル」をくぐる。 このへんから五日市側なのかな。 さっきとは違う雰囲気になってきた。 咲いてる花が多いなとか、(まだアジサイが咲いてる)地層の色が変わったなとかいうことなんだけど。杉林の整備のしかたもなんだか違う。 またまたそこらへんの水を味見したりしながら行く。 獣の糞はまだ続く。誰なんだろうこれ。 だんだん見上げる山がなくなってきた。 そろそろここでの頂上に近いみたい。 下りの舗装された道路と、まったくの山道と、車の通る幅あるが未舗装で通行禁止の道路。三つ出てきた。 刈寄山と盆堀林道。 うーんどっちなんだろうといっていると山の向こうからコンガの音がする。いったい、誰が。 未舗装の林道をいっても目的地にはつくけれど、初めての道だから舗装してあるほうを選ぶ。 この地点からは下り坂。それだけでも楽になる。 ジャムベっぽいリズムにコンガの音。 これが山々に響いて、ちょっと面白い。 こんなふうにきこえるのか。 コンガの音の源は案外近いとこであった。 さっき追い越していった軽自動車のひとり。 「いいですねぇ、山じゅうに響きわたってますよ!」 「ここにくるの久しぶりなんですよ、天気やっとよくなりましたからね」 「リズムがジャムベっぽいのにコンガだったから・・いや、山道でどっちなんだろって思ってたんです」 「これね、最近人からもらって。ジャムベはけっこう長いんですけどね、コンガは最近レッスン受け始めたんです。」 「え、あの、ひょっとしてK駅にあるあそこですか」 「え、そうですよ。」 「わたし、パンデイロのクラスにいってるんで・・」 「ぼくは半年くらい、通ってるんです。ジャムベは独学でやってたから、コンガはちゃんとやろうって」 「あぁ、わたしもそんな動機ですね。やっぱり、ちゃんとできないと楽しくないやって」 「練習、したいですよねぇ・・先週もいきなりいい天気だったでしょう。うーん、今日なら山で思いっきりたたけるのにって思いながら職場の窓から空眺めてましたよ」 「ほんと、そういう日に限ってパンデイロ家に置いてきてて、くやしかったりして」 (おいおい、いきなり山でタイコ談義になってしまったよ。しかも彼はけっこう久しぶりにここに来たんだとか。わたしなんぞ、初めてですぜ) と、しばらくおしゃべりしてからお別れする。 あー、ぜんぜん人に会わないとこだなんていってたらずいぶ ん濃い出会いは用意されてたりして。なんだか、笑えてきちゃう。休日にあえて思わず盆堀林道に来てしまうことと、コンガやパンデイロを志すのはどっかで通低しているかもしれぬ。アッハッハ。 そんなやこんなで、なんだか面白い道になってきた。 渓流はさらに太く深くなり、水の音も大きくなる。 見覚えのある採石場(以前五日市側からきたことがある)が見えた。もうここからは手探りで歩く気分ではなくなり。 途中「山神社」急な階段を発見。 とても小さな、でもきれいにつくられたお堂(なぜか中で正座するくらいの奥行きがある)を見つけたのでおまいり。 この道がいつからあるのかはわからないが、山の神さまにはアイサツしていかねば。 お神酒と米、塩が白いお皿に丁寧に盛られている。 酒と塩って「結界」をつくるものだったなぁ。 おかげさまで無事先行き不安な大散歩もなんとかゴールできそうよ。 このあと、人里に入るのだけど、あちこちに「天正」「明和」「文化」年号の石碑がある。そのころからあったってことは、山神社の歴史は推して知るべし、ってことなのね。 川沿いにユズの実が黄色く色付きはじめている。 ひとつもいでみようとしたらいきなりとげが。 身についた枝にとげが生えてるのねー、びっくりした。 しかもとる時ぜったい力が入りそうな箇所。 かんきつ類も頭つかってるのね。しかし、痛ぁ。 用意のよい相棒(えらいっす・・こういうときはホント)にばんそうこうをもらって巻き巻き歩く。 そんなこんなして、目的地へ。 「歩いてきたってぇ!」 ひととおりの話をして、アンダルシア風パエリャをほおばる。サングリアもつけてもらった。歩いたあとの軽いアルコール。ああ、うまうま。 きょうは寒いので、暖炉に火を入れてしまったのだそう。 確かに、昼間のさなかから火がありがたい気温。 緊張をほどいて、しばし昼ねしてまた下山。 駅までまた数キロ、楽しい移動。 ここちよい疲れとおやつ。 久しぶりに真っ赤な夕日をみた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Oct 16, 2004 10:05:56 PM
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