NET 6
彼は耳元で囁く。「愛してる・・」 彼はそのあとに、名前をそえた。快楽と高揚で身体が痺れていくのがわかった。白く細い腕を肩に絡めながら、誰かのそれと確かめるかのように強く抱しめた。何度と無く繰り返された行為だった。藍那にとって、彼が求めているのは身体でも自分でも、さして問題ではなかったけど、愛してるというコトバに陶酔し、逃避したかっただけかもしれない。その反面、愛されていると言われる事で安堵し平静を保持できたのも事実だった。股間の間から、やさしく包みながら、微笑むと、彼は恍惚の表情で言う。「キレイな胸の形だね。素敵だよ・・。僕のものだ。」と。「そうよ」。と意とも簡単に言ってのける。嘘じゃないし、そう思った。彼に愛撫されながら、仰け反るとブルーなダークグレイの暗い天井が見える。二人の息遣いだけが響く。もがきながら、縺れながら、「もうだめ、きて・・」。と、声を漏らした。絶妙なタイミングで彼は私を引き寄せる。ペディキュアが宙を舞う。視界が揺れる。絶頂に達しながら、刹那的に今が、あればいいと確信している自分を認識せざるを得なかった。獣のように貪り合いながら、汗でぐっしょりだった。朦朧として、缶詰の中に並んだサカナなのように並んでベッドに転がった。 身体に凭れながら、指と指を絡めて、言いかけた言葉を飲み込んだ。何を言いたかったのか、解らなかった。忘我な自分が紛れも無く存在した。抱懐なわけでもなく、ただ、失いたくなかった。それだけだった。長期間にわたるアルバイトは無事完了していた。精神的な苦痛や肉体の限界を越えられたのに彼が貢献しているのは間違いなかった。部屋のクーラーはキツイくらいきいていて心地良かった。 温かい身体に寄り添いながら、時間(とき)が止まれば良いのにと切望した。「おなかが空いたね・・。」彼の一言で現実に引き戻されながら、「そうね。」 と、可笑しくなり、思わず笑ってしまった。「なんか、おもしろいことでも言ったっけ?」頭をかきながら笑う彼に、キスしながら、「うん」と返した。外では蝉が鳴いてる。窓の隙間から、見慣れない景色のあおが眩しい。時計を見ながら、思う。いまが あれば いい。 いまが すべて。自分に言い聞かせるように藍那は荷物をまとめ、部屋を後にした。眩しい屋外は目に痛いくらいで、夏であることを実感させていた。ふいに吹いた風に肩まで伸びた茶色の髪の毛がそよいだ。些細なことが時の流れをさりげなく告げる。何の変哲も無い現象が伝えてくれることは時として痛すぎる。車に飲み込みながら煙草に火をつけた。なにしてるかな・・ こうしてる今も、そんなことを思う自分は何なのか、混沌として困惑した。消えてしまいたい気がした・・・空気のように。