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カテゴリ:小説『鏡の中のボク』
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「マジョンナ!?」 ミックが彼女が現れたのに驚き声を上げたが、マジョンナはそれには反応せずに、黒尽くめの男に笑顔のままゆっくりと歩み寄って行った。 「ジェクソン、久しぶりね」 男の目の前に立ったマジョンナが彼を見上げて微笑んだ。 こうしてみると、男が背が高いのがよく分かる。 マジョンナは決して背は低い方ではないのだが、その差は歴然だった。 「マジョンナ、よかった、見つけた」 ジェクソンと呼ばれたその男も、目の前の彼女をマジョンナだと確認すると、垂れた目を細めて笑顔になった。 「私なら大丈夫よ。私を助けてくれる優秀な子たちがここにいるから。…でも、手痛い歓迎を受けたみたいね。私から謝っておくわ」 マジョンナはそう言うとミクタへ目配せをした。 それを受けて慌てて頭を下げるミクタ。 「…ご、ごめん、なさい。その、ボクは君がマジョンナの…だとは知らずに…」 巧は後ろから彼の様子を「ふーん、ミックもこんな風に謝るんだ…」と思いつつ眺めていた。 「君、なんて失礼な呼び方はやめなさいミック」 マジョンナが眉を吊り上げたが、ジェクソンは頭を掻きながら首をゆっくりと横に振った。 「俺、気にしてない。俺もちょっと悪かった。それから、俺はジェクソン。そう呼んでくれていい」 「相変わらず甘いわねぇ、ジェクソンは。ダメなものはダメって教えてあげなきゃ」 マジョンナが言うと、ジェクソンはしばらくマジョンナを見つめて、ボソッと 「マジョンナは、笑ってる方がいい」 と呟いた。 言われたマジョンナは顔を赤らめて、 「え?ちょっ、何それ?どういう意味??」 と意表を突かれた答えに完全に調子を狂わされていた。 「…ところで」 と、それまで皆の様子を巧と同じように眺めていたロイキが口を開いた。 「先に聞きたいんだけど、マジョンナはどうやってここに来たの?」 質問の相手のマジョンナはまだ赤い頬を気にしつつも咳払いでごまかし、ロイキに答えた。 「どうやってって…ロッキー、あなたが知らないはずはないと思うんだけど。魔方陣を使えば私はあなた達と違って一人だし、行き来することはできるわ。ただ…今は、無事に戻れるかわからない」 マジョンナが声を低くして呟いた一言に、巧は息を呑んだ。 「こっちが聞きたいわ。ミック、あなたが巧をこっちに連れてきたの?」 話を振られたミクタはマジョンナを見つめたまま瞬きを早めた。 「ボクが?そんなことするわけないよ。わざわざ足手まといな彼を…」 足手まといで悪かったな、と思いつつ巧がミクタを睨んでいると、 「マジョンナ、ミックじゃないよ。アタシが連れてきちゃったんだ」 ロイキがミクタの代わりに続けた。 それを聞いたマジョンナは目を見開いた。 「あなたが?…そんなの、普通じゃありえないことじゃない…本人じゃない子が、違う子を引っ張り出してくるなんて…」 「でも、鏡に手を触れたらすり抜けちゃって。希色のところに行く時と同じ感覚だったよ。やっぱり、ほんとはそれって無理なの?」 ロイキは、本当はできるんじゃないの?という表情でマジョンナの顔を窺ったが、彼女は頭を抱えてしまった。 「…やっぱりおかしいわ。何かが少しずつ狂ってきてる…」 マジョンナの様子にしばしシーンとなってしまったが、やがてロイキが再び口を開いた。 「そう言えばさ、ミック。さっき『もしかして』とかなんとか言ってどっか行っちゃってたけど、あれって何だったわけ?何か知ってるの?」 ミクタはマジョンナのことが気になっていたようで一瞬反応が遅れたが、「あぁあれね」と言ってロイキに視線を移した。 「マジョンナに何かあったのかと思ってさ。ボク達を生み出したマジョンナに異変があれば、ボク達にも影響を及ぼすだろうしね。…でも、結局は違ったみたいだけど」 そう言って再びマジョンナに向き直ったミクタは、眉をしかめた。 「マジョンナ…?」 ミクタが声を掛けるも、マジョンナは依然として頭を抱えた状態でいた。 「何か…嫌な予感がするわ…」 顔色を悪くし、辛そうな表情で呟くマジョンナ。 「危ない…マジョンナ、ここを離れた方がいい」 ジェクソンは急にマジョンナの足元に屈み込むと、そのまま彼女を肩に抱えて公園の外へ歩みだした。 「え?え??ちょっとあんた、どういうこと?」 ロイキが慌ててジェクソンの前に回り込んだ。巧とミクタも後を追う。しかしジェクソンはそれには答えずにそのまま出口へと足を急がせる。 マジョンナは意識を失っているようではなかったが、苦しい表情のまま目を閉じて動かない。 「マジョンナさん!?これは…いったい…」 巧は、これまでの話に付いていけないうちに、さらにマジョンナの突然の異常…という展開に、益々不安の色を隠せなくなってきた。 「どうやら違ったっていうわけでもなさそうだね…」 巧の隣で、遠くの何かを睨みつけるような顔でミクタがボソッと呟いた。 巧がそんなミクタを不安のある目で見ていると、前を歩いていたジェクソンが突然後ろを振り返り、巧の肩を掴んだ。 「うわっ!?…なっ、なんですか!?」 巧は肩を強張らせたが、ジェクソンは表情一つ変えずに言った。 「マジョンナの家、どこだ」 ←よろしければ読み終わりの印にクリックをお願いしますm(__)m お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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