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カテゴリ:小説『鏡の中のボク』
「あ…あぁ、家はこっちです…」
巧は慌ててマジョンナの家の方角を指差しつつ、前へと進み出た。 「わかった。急ごう」 ジェクソンは家の場所を確認すると、速めていた足を駆け足へと変えた。巧達も訳がわからぬままジェクソンの後に続いて走る。 「も~、何か教えてくれたっていいじゃないのよ!」 ロイキが文句を垂れたが、 「まぁ、後で教えてくれるんじゃない?今は彼に従っとこう」 ミクタが頬を膨らませる彼女をなだめた。 怪しい怪しいって言ってたのはミックなのに…このままホイホイ付いて行ってもいいのか?と巧は思った。 公園の出口に差し掛かったところで、後ろから女の声が大きく響いた。 「後で、ではなくて今教えてあげるわ!」 全員が一気に振り返った。 どこぞのパーティー会場で身につけるような、フリルが何十にも重なった紫色のドレスを着ている。まとめ上げたブロンドの髪を、ドレスに合わせた紫の髪飾りがさらに引き立てていた。 「げっ!今度は何!?」 巧もロイキの言うような心情で、突然現れた第二の人物を見つめた。マジョンナとは一味違った上品な美しさに釘付けになっていると、突然背中に寒気が走った。 と、その時後ろから再びジェクソンに肩を掴まれた。 「奴にかまうな!早く逃げるんだ!」 巧が返事をする間もなく、ジェクソンは巧を掴んだまま走り出したので、女の方を振り返りつつも、つられて足を踏み出すしかなかった。 「ボクもそう思うね。アイツはやばい匂いがする」 ミクタはそう言うと、巧のもう片方の肩を掴み、走り出した。 「匂いって、香水の匂いのこと?ここまで匂ってきてたまんないよねー、どんだけ付けてるんだか」 「いや、そうじゃなくて…」 ロイキの発言に、ミクタは修正を加えようとしたがやめることにした。 「…ちょっと!待ちなさい!!わたくしの華麗なる登場に泥を撒く気ですか!」 女は突然一行が逃げ出したのが予想外だったのか、やけに悔しそうにキーキー声を上げながら巧達を追いかけてきた。 「きゃーちょっと見て!あいつ浮いてる!!」 ロイキの言うとおり、女は走ってではなく、浮いた状態で追いかけてきていた。ドレスに隠れているのか、それとも脚がないのか、ドレスと地面の間には脚が見えないので、余計に浮いているように見えた。しかしそのスピードは普通に走るのとあまり変わらないようだ。 巧は自分の意思で走っていると言うより、二人に引きずられているような形で、後ろを振り返ったまま女に視線を奪われていた。美しさにというより、何か別のものに引きつけられているような感覚だった。 「魔法で浮いてるんじゃないの?だとしたら、相当な使い手だね」 ミクタが冷静に分析していたが、ジェクソンが喋っている二人に向かって「逃げることに集中しろ!」と言うかのようにカッと睨む視線を送った。 「は、はい~わかりましたっ」 ロイキは返事をしながら顔が笑っている。 「キミもだよ」 「痛っ!」 女の方ばかりに見とれていた巧をミクタが小突いた。 足は駆けていたが、ようやく目的地の方へと振り返った巧。 この一瞬のうちに、あの女はどこからどのようにして現れたというのか。魔法を使ったと考えても、マジョンナは瞬間移動などそのようなものは使えないようだし…ミックの言うように、マジョンナとは格の違う魔法の使い手なのかもしれない。魔法…そんなもの、存在することすら有り得ないと思っていたのに。いや、今でもその気持ちが無いわけではない。しかし、現に目の前で使われてしまっては、信じざるを得なかった。 「巧!早く入って!」 ロイキに言われ、気がつくとマジョンナの部屋の扉の前までいつの間にやらやってきていた。 「ご、ごめん!」 ミクタの後に続いて部屋の中へと入り、そのまま地下の部屋へと進んだ。後ろからはドアの鍵を掛けてロイキが続いた。 先に入っていたジェクソンが、マジョンナをソファーに寝かせていた。マジョンナは依然として苦しそうな表情を浮かべている。 巧はマジョンナの容態も気になったが、彼女に重なるようにして、ソファーに希色や亮介が掛けている姿に声を上げた。 「希色ちゃん!亮介!」 机の方ではニージョが何かの文献を開いて調べている。何やらブツブツ独り言を言っているが、何を言っているのかは聞き取れない。 「やっぱりここに戻ってきてたみたいだね、希色達」 ロイキが隣で呟いた。 ソファーに掛けている二人は共に祈るように手を膝の上で組み、頭を垂れている。マジョンナがソファーに寝ているので、二人がマジョンナの上に座っているように目に映り、なんとも奇妙な光景だった。彼らの前のテーブルには例の手鏡が置かれていた。 「ねぇ、さっきのおばさんは追ってこないわけ?あの人も只者じゃなさそうだけど、いったい何者?」 ミクタがニージョの方を見ながらジェクソンに聞いた。 「いや、きっと追ってくる」 ジェクソンは、マジョンナを見つめながら答えると、フゥーッと一息ついた。そして、ミクタの方へ振り返り、真っ直ぐに彼の目を捉えて続けた。 「巧、こっちに来て」 「え?俺?」 巧は名前を呼ばれ、反射的に自分を指差し反応したが、ミクタもそんな巧を指差した。 「巧はボクじゃなくてこっち。いったいどうするのさ?」 ジェクソンはそう言われ、巧とミクタを交互に見て数回瞬くをしたが、真顔をいっさい変えることなく、今度は巧に手を差し出し、改めて言った。 「鏡の、向こうに逃げる。俺と手をつないで」 巧は差し出された手からジェクソンの表情、そしてミクタやロイキにそれぞれ視線を向けた後、再びジェクソンへと視線を戻した。 「で、でも、今の状態じゃ向こうに戻れないんじゃ…」 鏡の向こう側にミクタがいない状況では相互移動は無理だと思った巧はジェクソンにそう言ってみたが、ジェクソンは相変わらず表情を変えずに、巧の前にさらに踏み出し、手を差し出してきた。 ←よろしければ読み終わりの印にクリックをお願いしますm(__)m お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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