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ハッピーエンドの七合目

クローゼットの中から小学四年生のときのころの文集が出てきて、将来の夢の欄にはでかでかと「宇宙飛行士」の五文字が輝いていた。今になって思う。十歳の頃の自分には限界も諦観も何ひとつなく、きっとその手は伸ばせばすぐにでも宇宙に届きそうだったのだろう。今の自分の手はごく狭い、本当に小さな世界にしか届かない。例えば今両手を思いきり伸ばしてみる。そら見たことか。右手はデスクの端、飲みかけた烏龍茶のペットボトルを、左手は本棚の端、水銀燈と雛苺大躍進のローゼンメイデン六巻を、それぞれなんとかこちらの世界に引き止めている。実際のところ、自分が一度に掴めるものなどその程度に過ぎないのだ。十歳のスペースカウボーイ志望少年が今の自分を見たらどう思うだろう。落胆か。憤怒か。絶望か。少なくとも喜びはしないと思う。あの頃自分が手にしていたものは、現在、ことごとく粉々に砕け散ってしまっている。残っているのは絵を描く心と、妹と、あとは自分自身の身体くらいなものだ。もっとも、逆に言えばそれだけあれば十分なのかも知れないが。あとは多少変遷しようが風化しようが大して問題はない。かつては弟がいたような気もしなくはないが、今はもう、お互い顔を合わせてもそれぞれの存在に気づきはしまい。失ったものと得たものを見比べてみる。……若干だが前者の数の方が多い。しかし、だ。そこに薄幸や悲哀の色はほとんど見当たらないのだ。冷静に鑑みて、思う。概ね現在の自分は幸せと言える。友人は少ないが、その代わり得がたい親友を持つことができた。家族は減ったが、その代わりお互いの重要性を改めて認識することができた。かつての夢は潰えたが、その代わり新たな目標を抱くことができた。大切な記憶は薄れたが、その代わり新たな思い出を作ることができた。世の中はなんだかんだ言ってもギブアンドテイクで七転び八起きで因果応報だと思う。失った分の間隙は他のものでいつの間にか埋まっていく。多少の凸凹はあれど結局は平坦な道筋が背後には横たわっている。他の人間はどうだか知らないが、少なくとも自分の人生はそうだ。前の二打席で空振り三振を食らったとしても、次の打席では手堅くセンター返しをお見舞いしてやる。たまには無気力に過ごしてフォアボールを選んだあと、「あぁこりゃ棚ぼただなぁ」と意地悪くにやついてみせたりしたりするのである。そう、三打数一安打くらい（二打数ノーヒット一四球でも）が自分には丁度いい。三割打者になるのは難しいが二割七分か八分くらいならどうにか辿り着ける。――――閑話休題。先述のように概ね自分は幸福だ。とても嬉しいことや、大きな成功があったわけではない。それでも今、人生を幸福に感じることができるのは、ひとえに自分の「都合のいい」思考があったからだと思う。書いてきた文章を見直してみるとよくわかる。うだうだと暗いことを言っていても、結局は「まぁ、でもそれなりにいいこともあったし」と開き直ってしまっている。その「いいこと」の内容など到底思い出せるはずもない。それでもいいことは確かにあった。と思う。だって、そうでなければ自分は不幸になってしまうのだから。おそらくは本能に近いレベルで「自分」は人生を計算し、記憶を改竄し、あざとく本物の過去を貼りつけながら自らの足跡を取り繕っている。今憶えている出来事はだいたい当時の実情とそう大差ないと思っているが、もしかしたらそれはただ自分の都合のいいように解釈しているだけで本当はもっと異なった事件だった可能性もなくはない。確かめる術がない以上は、絶対にあるとも絶対にないとも言い切れない。それが過去というものだろう。終わりよければすべてよし、といつか担任の教師が口にしていたがこれはまさにそれだ。計算されようが改竄されようが自分の過去はそれしかないのだからそこには嘘も真もない。ふと、ハッピーエンドの七合目あたりを登る自分を思い出しては、これはこれで悪くない人生なのだとわかったように頷くのだ。……ある意味それは酷く滑稽で、歪曲したやり方なのかも知れない。自らの人生を客観的に見つめるなど意味のないことだと思う。むしろできないというべきか。いくら客観的に見ようと思ったところで自分は自分以外の何者にもなれないし、自分はいつまで経っても自分のままだ。客観的になっている、その自覚こそ主観をもって錯覚したただの幻想に過ぎない。だから私はこの「都合のいい」頭を悪いものだとは思わない。それどころか感謝すらしている。無数の不幸の連続へ、巧妙に僅かばかりの幸福を忍び込ませる「自分」。多少のアップダウンはあれど二割台後半の打率をコンスタントに叩き出す「自分」。もちろん、自分が優れた人間だなどと吹聴して回る気はさらさらないが、この性質はきっと尊いものだと思う。ひとつの才能だとも思う。その性質を、才能をもってはっきりと断言する。私は幸せだ。――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――以前、学校の授業で「自分が幸せか不幸せか」をテーマにした宿題の作文が出されたのです。今回の日記はそれに提出したものを修正・加筆したもの。「どう、幸せ？」と問われて「まぁぼちぼちだよ」と答えられるのって実は尊いこと。いや、本当に。

0:07 土師ッコ　爆笑新企画遅い毛糸他

テレビ欄占いなるものをやってみました。世の中にはいろいろな占いがあるものです。ははは。土師さんをテレビ欄に例えるとこうなります。 1 テレビ土師 5:00 漢詩◇野鳥◇つぼ 5:25 歌壇（再） 6:40 土師語 7:10 英会話　土師体当たりレッスン 7:30 土師と子どものテレビタイム 8:30 はなまる土師主婦のおこづかい倍増計画▽とことんつくすタイプ田中邦衛の愛？▽不器用でも楽しい？　ラッコ遊び 10:20 （S）渡る世間は土師ばかり（再）　荻野目洋子　蟹江敬三　大橋巨泉　黒沢年男ほか 11:28 ONLY土師 11:32 土師かたろぐ◇35（N）（天） 0:00 おもいきりテレビ　アメリカ人完全撃退法▽渦巻き料理が中性脂肪減らす 1:00 ごきげんYO　家族を守った古着物語 1:30 （S）黒い左耳 1:55 わいわいワイド　岸本加世子さん丹波で号泣▽激ヤセともさかりえの謎▽松村雄基の青い豪邸 4:00 母と子のテレビターイム　土師さんといっしょ▽50土師ー▽作って▽5:00英語▽15ふたり▽30おじゃる▽パッチ▽50（字）忍たま土師太郎 5:54 （N）の林 6:23 （N）スクランブル　首輪法成立で何が変わる？▽小ぎたない電話帳ならおまかせ　福山雅治　瀬戸朝香ほか 7:00 土師のまんま　「今でも東幹久と一緒にお風呂入ってるやて？」　南原清隆 7:30 火曜ワイドスペシャル「爆発！　中国縦断ホンネ激録！　カメラは見たぞ100連発SP」▽渦巻きを探せ！▽徳川埋蔵金はアムステルダムにありとウド鈴木絶叫加藤晴彦大慌て▽宇都宮温泉ツアー！　で姑問題に悩む嫁が…高橋由美子感涙ほか 8:54 （N）◇（天） 9:00 ゴールデン洋画劇場（S）　「土師ランド」（1990年青森・琵琶湖・倉敷合作）　小室哲哉監督　東山紀之　今井翼　桂三枝　佐野史郎 10:54 （天） 11:00 （S）11時の音楽ショー　玉置浩二vs工藤静香！ 11:30 （N）出来事 11:55 スポーツ土師　中国のエース初登板…▽0:07土師ッコ　爆笑新企画遅い毛糸他▽42土師24時間全裸でトーク！ 1:25 土師のエロスぎりぎり　安達裕実感激工藤静香と 2:45 （S）映画案内 3:20 買い物 3:25 催し◇（N）24 土師さんの平均視聴率は、3.7％、テレビ局タイプは、NHK総合です！ NHK総合さんの性格隠れた実力派です。世間の流行などなんのその。独自の確固とした世界観を持っています。目立つことがそんなに好きではないので、普段は地味だと思われがちですが、分かる人はあなたが内に秘めた輝きを直感的に見抜きます。いざという時は俄然実力を発揮し、周囲を驚かせます。人にものを教えたりといった、補佐的な役割も得意で、人がよろこぶ顔が好きです。 11:28 ONLY土師これは気になる番組ですね。番組名から内容を察することができません。私だけ、ということなので私の生い立ちでも語るんですかね。無理です。0:00 おもいきりテレビ　アメリカ人完全撃退法まさかみのも○たがそんな有意義な番組をやってくれるとは。マナーのなってない在日米軍どもの○○○に○○を○○○○○ってやりたいものです。1:30 （S）黒い左耳では右耳はどうなっているのでしょう。7:30 火曜ワイドスペシャル「爆発！　中国縦断ホンネ激録！　カメラは見たぞ100連発SP」▽渦巻きを探せ！▽徳川埋蔵金はアムステルダムにありとウド鈴木絶叫加藤晴彦大慌て▽宇都宮温泉ツアー！　で姑問題に悩む嫁が…高橋由美子感涙ほか番組構成の適当さが私らしいです。たぶん途中で飽きたのだと思います。ウドちゃんと加藤晴彦は面白そうですね。なぜ慌てるのかはわかりませんが。0:07 土師ッコ　爆笑新企画遅い毛糸他どうしようもないほどにグダグダ感の漂う番組です。個人的にはコレが一番のオススメでしょうか。全裸でトークできるほどの度胸があれば人生も変わってくると思います。最後の占いはけっこうまともでした。わかってくれる人が近くにいないのが痛いところですね。

強きあなたへ

ふと思うことがある君の歩調は速い　たぶん僕の何倍もそのうち置いていかれるんじゃないかって不安より君がひとりで道に迷ってしまわないかなんて不安が心を占める　締める強い人だねって言われるとそうでもないよって君は笑うでも　僕は知っている弱さを認められる人間こそが本当は一番強いんだって頼りない僕を馬鹿にするでもなく傷だらけの背中を隠すでもなくただ　前を向いているそれが君のありのままだけど　それじゃ怖いんだ振り向いてくれなきゃ見えないじゃない僕のことも　僕以外の大切な人も君の背中を守ってるんだって　見えないじゃないひとりじゃないんだから　たまには休んでよ勝者の数だけ敗者もいるんだ　五分五分なんだよいつでも晴れてる空はない　雨だって降るんだよ君が泣いてもいいように　僕はここで待ってるんだよ「いつでも強く」なんて理想論だよ弱さがあったっていいじゃない　それも君だよ強すぎるところが君の弱さだよ　なんて言ったら怒るかなぁ　どうかなぁ待ち構えてるんだ残酷な真実から目を背けて　君がこっちに振り向くのを卑怯だって言われてもいい　大事なのは世間体じゃなくて君そういう人はいっぱいいるよ一瞬だけでいい　振り向いてごらん大切な人が　そこで待ってる僕も　待ってる

都内在住　三十歳

仕事帰り　いつも通る国道沿いに新しいスーパーが出来ていた　気付かなかったいつだってそう　今だってそう僕の知らないうちに　世界は瞬くように色を変えていく「今度の休みに帰るよ」と言い訳するように市外電話　安くはない残ったのは申し訳程度の小銭がいくつかと身体だけ大人になっていた　自分自身いつからだっけ？　あぁそうだ「子供」が終わって　早十年謝ることと　作り笑うことそれだけ知ってりゃ事足りるそうやって生きていくことに不満を感じたことなんかないそれ以外　生き方なんか知らないよ母も父もじきに還暦よくよく考えりゃ長くはない　立派な老年残るのは猫の額みたいな小さな土地と家と痛い記憶が詰まりに詰まった　思い出だけ大事なことを言わなきゃなぁ「大人」が始まり　早十年ありがとうとか　ごめんねだとかそんなの言うのは恥ずかしいでも時間はないって知っているからもたもたしている時間はないからもう言うよ　「育ててくれてありがとう」無駄に過ごしてるんじゃないさ収穫がなかったわけでもないさそろそろ本気で歩いていこうか寿命は残り　あと何年？出逢って別れて　別れて出逢うこのあと何遍繰り返したなら幸せってやつをちゃんと掴めるのだろうもたもたしている時間はないからもう行くよ　準備なんて必要ないんだ「じゃあ、行くよ」______________________________聖剣伝説の新作が出るみたいですね！主人公がLOMっぽいような・・・？

音撃棒　（違ッ）

本家サイトでミュージカルバトンの回答を載せているのですが、中村小太郎さまより別のバトンを回して頂いたのでこっちにも転載しておきます。ついでに回答をもう少し詳細に。■Total volume of music files on my computer (コンピュータに入ってる音楽ファイルの容量)■だいたい220MBくらいです。そんなには入れてない・・・かな？■Song playing right now (今聞いている曲)■手紙（Mr.Children）■The last CD I bought (最後に買ったCD)■Mr.Children「四次元 Four Dimensions」アルバムだと思えばかなり格安だぜ！！■Five songs(tunes) I listen to a lot, or that mean a lot to me (よく聞く、または特別な思い入れのある5曲)■・I'LL BE(Mr.Children)シングルver.とアルバムver.がありますが一応前者で。まさにミスチル節というか、とにかくとても元気づけられる曲です。「不安や迷いと無二の親友になれればいい」なんて、桜井氏でなければ言えない文句だと思います。心に染みます。名曲。・Any (Mr.Children)桜井氏の小脳梗塞が報道される少し前に発売されたシングルで、よく「I'LL BE」とセットで聴いたりしています。カップリングの「I'm sorry」もすごく好きです。間違いじゃない、きっと答えはひとつじゃない。本当に、その通りです。・ありふれたLOVE STORY　～男女問題はいつも面倒だ～ (Mr.Children)ミスチルのアルバムの中では、「深海」「Ｑ」「IT'S A WONDERFUL WORLD」が好きなのですが、これは「深海」に収録されていた曲です。タイトルが長いです。笑まるで恋愛小説を読んでいるかのような歌詞が印象的。私がカラオケで一番よく唄うミスチルは、たぶんこれだと思います。・winter fall (L'Arc～en～Ciel)初めて買ったＣＤはラルクのベスト盤だったのですが、その中に収録されていたこの曲を聴いて以来ラルクにも大ハマリしています。ラルクの曲の、幻想的な歌詞に惹かれます。「雪原の大地」「そびえ立つ空」「心の螺旋」「見えない溜め息」・・うーん、リリカル。・I don't want to miss a thing　(Aerosmith)私が小６くらいのときに公開されていた「アルマゲドン」の主題歌です。　この映画を見てから私の中でいろいろ変化がありました。ブルース・ウィリスが好きになったり、洋楽を聴きだすようになったり、自分でも物語を描いてみたいと思うようになったり。映画自体がもう私の中で永久不滅の殿堂入り（笑）を果たしていて、主題歌のこの歌も何度繰り返し聴いたかわかりません。日本語訳を見てからはさらにウットリ。エアロスミスすげぇ。■Five people to whom I'm passing the baton (バトンを渡す5人)■どーしようか考えたんですが、やってみたいという方がいればその方にやってもらおうと思います。あ、でも５人までか。というわけで、自問自答してみたい方はよければやってみて下さい。

夜明けを見た

二〇〇五年七月五日東京の日の出は午前四時半万年床から這い上がって　少し窓を開けてみた夜明け日の出数日前から近所の空に居候中の大きな雲実際は一日で遠くに行ってしまっているわけだからあれは彼の親戚かなにか　ひょっとしたら兄弟？不健康な疲労感が蓄積しているＰＣからはミスチルが流れていて今　自分のいる場所が探していたのと違っても間違いじゃない　答えはひとつじゃないと歌っている　そう願いたいところだ無意味な徹夜をしたせいでまた脳味噌がスクラップに一歩近づいた朝は何を食べようか昨日食べたものなんて思い出せないとりあえず缶コーヒーを買う苦いのは苦手だから　甘めのものを選んで携帯に設定した目覚ましが鳴るまであと一時間充電するのを忘れている今の気分としてはいまだ　昨日を引きずっている感じだけど　すでに今日は始まっている見れば夜明け空はもういなくなっていて苦手な朝の空気が網戸をすり抜けてくるあぁ　胸焼けがするよ

エマージング

『エマージング』　全２巻　外薗正也/作漫画の紹介です。心臓の悪い方にはあまりオススメできませんが・・・。数年前にＳＡＲＳウイルスが世界中で流行し、報道を騒がせていました。日本では発症例は報告されなかったようですが（されてたかも知れないけど。あれだけ毎日のようにテレビや新聞で見たのに、もう私なんかは何年前のことだかすらも忘れてしまいました。だから「数年前」と表記したんですが・・・まぁそれは置いといて。それだけ私の中では現実味のない出来事だった訳です。「遠い海の向こうで起きた事件なんて、自分の生活にはまったく関係ない」実際のところその程度にしか思ってなかったような気もしますし。でもそう思っていたのは、きっと私だけではないでしょう。「どれだけニュースがその凄惨さを訴えても、結局は他人事だから・・・」何度か、国内に感染者が渡来していたという話題が取り沙汰されていましたが、危機感が増したのはそのときくらいでしょうか（少なくとも私はそうでした）。それにしたって、自分の住んでいる東京からは遠く離れた県のことだと思えばすぐに危惧は薄れてしまった訳です。情けないことですが。そして現在、『ＳＡＲＳ流行』はすっかり過去の出来事となってしまいました。しかし、この『エマージング』。あるいはＳＡＲＳなんて比にならないほどリアリティがあります。日本国内にて新興ウイルスが発生するというストーリーなのですが、発病者の描写がとんでもなくグロテスクでスプラッタです。血が噴き出ます。半端なく噴き出ます。『感染した人間は初め、風邪のような発熱と目の痛みに襲われる。この症状が進むと、全身の筋肉・臓器が溶け崩れたるんでくる。やがてウイルスは脳内にも侵入し、その組織を破壊し、意識を消失させ、体内は溶けた体組織とウイルスでいっぱいになり、やがて炸裂と呼ばれる最終段階に入る。全身のあらゆる開口部から溶けた内臓と血液がウイルスと共に噴き出す。患者は苦しみのたうち、激しく痙攣を起こしながら周囲に血飛沫を撒き散らし、さらにウイルスを拡げていく――――――（作中より）』キーをタイプしているだけで気分が悪くなってきました。これだけだと単なるスプラッタ漫画のようですが、この作品はそれ以外にも行政の対応などリアルに描かれていますし、ウイルスが発生してからそれが世間に認知されるまでの描写、またウイルスの存在を知った人々の生活がどのように変化するかも非常に生々しく表現されています。もしＳＡＲＳが日本でも発生していたら、きっと皆こんな風になったんだろうな・・・なんて読みながら思ったりしました。作中のウイルスが持つ殺傷能力はそれとは比にならないほど高いですが。現在、日本人の免疫力が低下しているとよく言われています。もし作中のウイルスが実際に日本で発生したら、いったいどうなるんだろう。読んだ後、そう馳せずにはいられませんでした。絶対に起こらないなんて誰にも言えないですから。単行本は全２巻発売されています。ちなみに私が買ったのは駅の本屋でした。少しでも興味を持たれた方は読んでみてはいかがでしょうか。その凄惨さやリアリティもさることながら、とても考えさせられる作品です。

待ってて

待ってて＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿「人は死んだらどうなるのかな」あんたさ、出し抜けにそう訊いてきたじゃん？全然関係ないシチュエーションだったってのにさ。そんときオレらが何してたか分かってた？　本当ならそれぞれ家族と過ごすはずの大晦日、それも日付が変わる寸前に近くの丘に登ってふたりきりでコンビニのおでん食べながら夜空眺めてたんだよ？こんなにロマンティックな状況ってさ、人生長くてもそうそう滅多にお目にかかれるものじゃないよ――――まぁ、あんたの場合人生短かったわけだけどさ。あわよくばあんたと一線越えちゃおうと思ってたのに、オレその一言でホント一気に萎えたから。もうそりゃあすんご勢いで。脳ミソの温度急低下だよ。ってそんな事はどうでもいいんだけどさ。だからオレさ「灰になるに決まってんじゃん」って素っ気なく言っちゃったんだよね。そしたらあんたは「違うよ」って笑う。突然こっちのテンション下げてくるような発言しといてしかも仕方なく付き合ってやったらいきなり否定って。今でこそ言えるけどさ、オレあんとき正直半ギレしてたよ。あんた一体なにが言いたいのって。で、あんたはもっと笑ってこう言った。「人はね、死んだら星になるんだよ」星？　星、あぁそうですか星になるんですか。そりゃあまた実に女の子っぽい発想で。こんなこと言ってたら馬鹿みたいに思われるかもしんないけど、それ聞いてオレ、呆れ半分の一方でちょっとときめいちゃったから。うわコイツ、なんか可愛いこと言ってら。ってね。まぁ大晦日の逢い引きでするにはかなり不吉な会話ではあったよ。「人は死んだら、星になって残してきた人を見守るの。見守ることしか出来ないんだけど、でも何があっても見守ってあげるんだ。絶対に眼を背けない」じゃあ、この無数の星はぜんぶ昔に死んじゃった人間なんだ？オレがそう訊くと、あんたは頷くでも首を横に振るでもなくて、やっぱり笑ってるだけなんだよ。答える代わりにさ、「私も、死んだら星になってずっとキミのこと見守ってあげるんだ。キミが私じゃない、他の誰かを好きになってもずっと」とか言ったんだっけ。あんたは。……オレってそんなに信用ないんですかね。おでんの汁で火傷した舌がちょっと気になってたんだけどさ、オレもけっこう饒舌になってたみたい。なんでかね。あんたが急にしんみりするようなこと言うからかな。それともシチュエーションに酔ってたとか。まぁ、たぶん両方なんだろうけど。「じゃあオレ、星になったあんたを探しにでも行くかな」宇宙飛行士にでもなって、さ。ぶっちゃけた話オレの夢って本屋さん（しみったれてるとか言うなよ。昔から好きだったんだから仕方ないでしょう）になることだったんだけど、ほらそこは勢いって言うかムードって言うかさ。とにかく途方もないこと言っちゃったわけなんだけど、「ホント？　じゃ、気長に待ってるね」何でかあんたは見たこともないような満面の笑みを浮かべてみせた。怖いくらいに。そう、ホントに見てて不安になった。あんときのあんた。「ま、まだまだ先の話やね」オレも随分わざとらしい台詞吐いちゃってさ。でも、そんだけオレも嫌だったんだよ。あんたが死んじゃうなんてさ。……だってのに、あんたホントに死んじゃったじゃん。何だっけ？　病気の名前。ま、今となっちゃそんなことはどうでもいい。あんた、見事にあっけなく死んじゃったよ。しばらく連絡取れてねーなぁって思って携帯にかけてみれば、出てきたのあんたの母親でさ。『娘は一週間前に亡くなりました』これだよ？そんな短い言葉で、オレとあんたの決して短くはなかった付き合いが完膚なきまでに叩き壊されたんだよ？もう葬儀も終えたとか言うしさ、墓の場所も教えてくれないし。灰になるとかオレ言ったけど、どうだったのあんたは？　まぁ日本だし、埋葬ってことはないと思うんだけど。って、それもどうでもいいな。あんたが突然『星になって』からもう何年経ったと思う？オレは普通に高校卒業して、普通に大学入って、まぁオレの人生なんて誰も聞きたかないか。ともかく、オレの人生、あんたがいなくても至極支障なく進んでる。ホントに、あんたの存在が夢幻だったって神さまが言ってるみたいに。『人は二度死ぬ。最初は肉体の死。死んだ人間は記憶の中だけに存在し得る『過去』となる。二度目の死は存在の死。過去となった人間が人々の記憶の中から消え去ったとき、その人間は世界から完全に消え去る』……なんて、誰かが言ってた。つまりあんたは一回死んで、現在オレやあんたの家族友人の中で『過去の存在』として生きてる。まだ当分は死なないだろうし、死なせるつもりもない。それは本音だよ。で、星になったの？　あんたは。あんだけ言ってて実はもう生まれ変わってて他の誰かになってます、とかだったらオレもいい加減人間不信になっちゃうよ。オレ、あんた死んでからいろいろ勉強したんだけどさ。星って名前があるんだね。シリウスとかペテルギウスとか有名なのだけじゃなくて、あの日ふたりで見た夜空に散らばっていた無数の星、その殆どすべてに実はもう名前がついてるんだって。ホントに人間みたいな名前もあれば、まるっきり番号じゃねーかって思うような名前もある。でもさ、その中にあんたの名前をした星はひとつもなかったんだよ。――――ほら、あんたって基本的に冗談は言っても嘘はつかない人間じゃん。あんときのあんたの顔見た限りじゃ、あの言葉は冗談でも嘘でもなかったと思うんだ。それは他の誰でもない、オレだから解ることだとも思う（自惚れ？　いいさ、それでも）。オレ、まだあんたとたくさん思い出作りたかった。オレ、まだあんたにたくさん思い出作らせてあげたかった。オレ、まだあんたと一緒に居たかった。「各システム、オール・グリーン」関係ないけど今じゃ科学技術も進んでさ、人間の寿命も伸びたし地球以外の惑星に居住することも可能になったんだ。すごいでしょ？　あんた宇宙に興味あったみたいだし、もし今生きてたらきっとあんたにとっちゃここはまさに夢のような世界だっただろうね。まぁ、こんなこと言い出したらぜんぜんキリないんだけど。でさ、実はこの宇宙ってオレたちが想像も出来ないくらいに広いらしいのよ。人類もけっこう時間かけて探索したんだけど、まだ全宇宙の三パーセントも見通せてないんだって。自然ってすごいよね。「航行シークエンス、OS依存へ移行」見せてあげたかったよ。強化ガラスの向こうに見える、星々の大海。銀河の暗黒を打ち払うような、恒星の輝き。「心拍が少し乱れているぞ。落ち着きなさい」あんた、オレのこと何処で見守ってくれてるの？予定を立ててから行動しなさいって、オレ何度もあんたに言ったじゃん。あんたホントに突拍子もないからさ、やることなすこと全部が。けっこう文句もあるのよ。寂しさなんてそれこそもう一旦蓋開けたら止めどなさ過ぎて溺れちゃいそうなくらいだし。「今回は何故志願したんだったかな？君は」こう見えてもオレってけっこう勉強家だからさ、地球から見える星が最大でどのくらい離れた宇宙にあるかくらいはもう知ってるんだよ。散々シミュレートした結果、オレの人生全部使えばその星のすべてを回ることは可能なんだってことも。その中のどれかが、きっとあんたなんだろ。「見守ってもらうことがオレの望みじゃないんです」次の惑星まで三十二万光年。この艦のスピードとその距離考えれば、到着予定時刻はおよそ五百年後。みんな冷凍睡眠の準備に入ってゆく。でも、オレは眠ったりしないでちゃんと待つつもり。何度も何度も手術をくり返して、もう何千年も生きてきたんだ。世界がこうしてあんたを探しにいけるようになるまで進歩するまで。今更五百年や六百年くらい、どうってことはないさ。「一緒にいたい。それだけです」あんたはきっとこの広い、宇宙の何処かでオレを見てる。今この瞬間も。あぁ、そうさ見てろよ。今に逢いに行くから。どれだけ時間がかかってもいい。『何があっても見守ってあげるんだ。絶対に眼を背けない』オレも。何があっても見つけてやるんだ。絶対に諦めない。だから、待ってて。待ってて。

2173を知っていますか

あぁ、彼がごとき良友は世にまた得がたかるべし【森鴎外：舞姫より拝借（正確には「彼」ではないが）】近頃私の戦友こと2173氏が頻繁にネットを行き来しているように思う。リンクさせて頂いているサイト様の日記コメントによくそのひどく独創的なハンドルネームを見つけるからだ。ちょっとコメントしようかなぁと思うと、もう先を越されている。そんなことがしばしばあった。彼の文章は基本的に、長い。ひとつの日記にいくつもいくつもコメントを残す。その良い例がユウ・カジマさんの８月３日の日記だ。コメント数56。無論ユウさんも丁寧にすべてのコメントに返信していた訳だが、それにしてもすごい数だ。ユウさんは迷惑がるどころか喜んでいたようだが。私も別に長いことが悪いとは思わないし第一そんなところまで突っ込んでいても仕方ない。私は2173の保護者でもなんでもないのだから。彼の文章は一見しただけではよく解らないかも知れない。さすがに短い付き合いではないので私はそんなことはないが、数々の知識を吸収してきたせいかそれとも生きてきた環境のせいかでなければその両方か、少し斜に構えているような部分が見受けられる。もっともこれはあくまで客観的に、それも彼のひととなりを知らない人間が見た場合のことを言っているのである。それが2173の文章スタイルであり活字上の個性であるためそれはそれで極めて貴いものだと思う。だが、やはり彼の事を知らない人がそれを見れば戸惑ってしまうに違いない。私のサイトでちょこちょこ書き込みもしてくれているので、リンク先の方々はそれほど困惑せずにいてくれているようだが。さて、彼との出逢いは中１の４月、そう入学してまだ間もない頃だった。ぶっちゃけた話中学に入ったばかりの頃、私には友達が殆どいなかった訳で（小学校の面子とまったく変わっていないと言っても過言ではないのに、だ）、別段浮いていたということもなかったがそれでも何処かクラスメイトたちと距離を置いていた感は否めなかっただろう。そんな中、2173との邂逅は実にしょうもないものだった。2173と軽く挨拶を交わしたか何かした際、ふと思った。「こいつ、小学校の頃のクラスメイトに声が似てるな」そのクラスメイトというのが凄まじいだみ声で、その事をネタに挙げられてよくからかわれていたのだ。その声に、2173のそれは非常に酷似していたのだ。変声期であったし、今にして思えば私だってそう大して変わらなかったのだが。しかし当時の私はつい面白くなり、2173にそのことを話し、そしてからかった。どうしようもないクソガキである。向こうからすればいい迷惑だったろうが、とにかくその頃私は退屈で退屈でしかたなかったため、遊べる相手を見つけると徹底的にそいつで遊んだ。それは親愛などと呼べるほど高尚なものではなく、ただ単に「寂しい」という感情の裏返しだった。そしてやはり、それでは人は離れていくものだ。思えば私に友達が出来にくかったのはそんな情けない行為が一役買っていたからなのかも知れない。しかし、気付けば私と2173はなんだかんだで１年間遊んでいた。たまたま気が合ったのか趣味が合ったのか理由は定かでないが、とにかく仲良くなっていた。その他にも双児の兄弟ともうひとり友人がいたため、結果として五人のグループというものが私の中での「基本パーティ」となっていたのである。それはある程度2173にも分かってもらえることだろう。中学３年間はほとんど遊び尽くしだった。いろいろなイベントや事件があった。特に殴り合ったり罵りあった記憶はないし、まぁそれなりに円満な付き合いだったと言えるだろう。味の素を大量に入れた特製チョコレートをプレゼントしたりエロ本を教員に取り上げられたりと、思い返せば実に「濃い」３年間であった。私が今高校生活を送る中で何か漠然とした物足りなさを感じてしまうのはそれが原因であることは疑う余地もない。2173とは基本的に休みのうちしか会う事はない。五人のグループはそこそこの結束力を持ちながらしかし意外とさっぱりしていたので学校はそれぞれバラバラであった。よってタイムスケジュールはことごとく噛み合わず結局は携帯を所持している私と2173との間でしか連絡は取れないわけであり、必然的に五人が集まるときは私か彼がメンバーにその旨を通達する役目を背負う事となる。しかしいつも必ず会えるはずもなく、五人が全員揃うことは滅多になくなっていた。するとやはり、いつでも連絡のとれる2173との付き合いだけが際立ってしまうのである。多いときはそれこそ１日でメール数百件を越すこともあったわけで、何を熱くなっていたのか延々とメールでチャットまがいの討論を繰り広げていた。もちろん、時々は会ったりもして仮面ライダーだとかアニメだとかゴジラだとか様々な映画を観たこともあった。彼が小説を描くようになってからは互いにネタを持ち寄り作品を考えたりもした。今もその真っ最中であり私は現在ウルトラマンのラフを描いているわけだが・・・とにかく、2173が居なければ今の私は確実に有り得ないのであって、また彼との付き合いの中で育まれた各方面に対する知識がなければ現在リンクしている方々との付き合いも、なかったかも知れない。そう考えれば、彼は現在私の「親友」であり「戦友」であると言えるだろう（いろいろ修羅場も越えてきたんで）。そんな彼が、私が知り合ったネット友達の方と熱く語り合っているのを見るのは――――なんとも言えぬ、妙な気分である。そこからはネットという世界の不思議さも見え隠れしているわけであって、非常に興味深い。さて、お互いに精進していきたいものだな。2173よ