「バカを磨け」― 幸せという義務・その三十六回目
「ライフメンタリング」の実践・その三 私は以前に、業界関係者以外の素人の方に、プロデューサーの仕事の本質を説明するのに『触媒』というフレーズを用いたことががあります。そうです、化学の教科書などに出てくる、あの触媒ですね。 カタリスト・触媒とは、辞書に拠れば「自分は少しも化学的な変化を蒙らずに、単に他の化学変化(の速度)に、影響を与える物質」です。 触媒は触媒でも、テレビプロデューサーの役割は、低予算でしかもクオリティーの高い、健全な娯楽作品を制作する為に、という一点に目標を定めて、その目標に向けて全ての努力が傾注されなければなりません。ですから、自分勝手な趣味嗜好に走ってはいけないことは申すまでもありませんね。徹底的に自己を殺すことが求められている中で、最大限に己の持てる能力を発揮する。そうした謂わば、根本的なところでの分裂、或いは矛盾を抱えながら、ひたすら他者、局サイドであったり視聴者であったり、時にはスタッフや原作者、出版社の編集担当者の場合もあるのですが、只管、他者の意向に沿う形で、自分のベストを尽くすのが仕事。その仕事の遣り甲斐、従って、妥協と忍耐と公平無私にあります。よい作品を作って、人からの評価を受けて、次に繋げる。この連続。一種の人気稼業ですから、不評や低視聴率が続けばお声が掛からなくなり、自分自身がどんなに作品作りをしたいと念願しても叶わないケースも出てくる道理ですね。私の場合は、曲がりなりにも30年以上の長きにわたって、作品作りを許されたのですから、幸運としか言い様がないでしょう、まさに。 それはともかくとして、この長い年月にわたる「修行」の日々が、後から振り返ってみたときに、現在のライフメンターとしての資質を鍛え、育て上げていた事になりますが、その事実に私本人が気付いたのはつい最近のことだったのです、はい。 キャリアコンサルタントとして、最も大切とされるのが「傾聴」の技術なのでありますが、この傾聴とは単に来談に見えたクライアントの言葉に耳を傾ける事ではありません。もっと能動的・積極的な働きかけの行為とされています。つまり、クライアント自身のより深い自己理解を促し、推し進める意思的で、極めて積極的な働きかけの全体を指しているのですね。 私は前にお話したように、CDAの先輩から「キャリアカウンセラー」になることを勧められて、資格を取ったのですが、私の職務経歴書やプロデューサーとしての仕事の内容を詳しく聞き進むうちに、資格がなくても「そのままでユニークなキャリアカウンセラーになれるでしょ」と、激励とお世辞が半分以上あっての発言だったのでしょうが、そう言われて己惚れの強い私は、また同時に非常に素直な反面も有しているので、直ぐにその気になり、行動を起こした次第なのでありますよ、真っ直ぐに。