神慮に依る「野辺地ものがたり」
第 三百三十 回 目 以前から私・草加の爺のブログを御愛読下さっていらっしゃる御奇特なお方は、きっと御記憶して下さっておられると思いますが、私は無謀にも「古事記」の現代語訳に挑戦したことがありました。その際に始めの部分に関して省略して、その儘で残していた神々のお名前の由来について、音読やセリフ劇の台本の素材として書いてみたいという思いに、突然に駆られたのであります。 その理由については、後々折が有れば触れる時があるかも知れませんが、是非とも敲き台だけでも残して置くのが、私に残された 使命 であると霊感の如くに閃くものが、有ったからでありますよ。 言い伝えの「古事記・ふることぶみ」現代語訳( 案 ) むかしむかし、そのまたむかし、 太古の昔に、私達の現在住んでいる大地がまだ姿形を現してはいない、遠く遥かなる昔のことです。始め、天と大地とはまだ分かれてはいませんでした。その天と地とが最初に別々の姿を取り始めた頃に神々の御国の高天の原に出現なされた神のお名前は、天の中心になられた御方・アメノミナカヌシ様でした。次には様々なものを生み出される力をお備えになられた御方・タカミムスヒ様、次いではカミムスヒ様のお三方がいらっしゃる。 以上の御三方の神様方は、皆さんパートナーを持たれずに独身のままで御姿を、隠してしまわれました。そして次には人間の住む国土が十分に形成されていない、大空の一隅に液体の脂(あぶら)が広がっている様な状態の所に、葦の芽の如く下から萌えあがるように生成なされた神様・ウマシアシカビヒコジ様、次には高天が原に永久にとどまっていらっしゃり、その世界を永久に存続させる神様・アメノトコタチ様がいらっしゃいます。 この御二方の神様も独身のままで身を隠されてしまった。以上の独身の神たちは、天の神の中でも 特別な神様 たちでいらっしゃいます。 その次に出現なさったのは、国土の根源の柱・クニノトコタチ様、その次には広大な国土の広がりを支える神のトヨクモノ様。この神様たちも独身のままで、身を御隠しになられた。 次に出現なされたのは、男性の泥の神様・ウヒヂニ様、その後に女性の砂の神様・スヒヂニ様。この御二方の神々は互いにパートナーとして御協力なさいました。 次には生命力の伸長に尽力なされたペアの神、男神はツノグヒ様で、女神はイクグヒ様がいらっしゃいます。 そして更に、結婚に際してお互いを称賛しあった一組の神達がいらっしゃいます。先ず男の神様が「何て素晴らしい女性としての完全な魅力をお持ちの御方なのだろうか!」と声を掛け、女性の神様がそれにお答えして、「何とまあ、素晴らしいチャーミングな男性の素晴らしさを、お持ちなのでしょうか、貴男様は!」と驚嘆なされた。男神はオホトノヂ様、女神はオホトノベ様です。 さて、次は容貌が殊の外に整って内面的な魅力が充満していらっしゃる男性の神・オモダル様と、この男神から素晴らしいお嬢様でいらっしゃいますね、と声を掛けられた時に「まあ、その様に褒めて頂くと恐縮してしまいますわ」とおしとやかに謙遜された女神・アヤカシコネ様がカップルとしていらっしゃいます。 そして又、さあ、私の所にいらっしゃい。私は素敵な貴女と結婚したいのですよ、と女神を誘った男性の神様・イザナキ様、その呼び掛けにお応えなされて「わたしも勿論、結婚の場に参りますが、あなた様も進んでこちらにいらっしゃって下さいませな」と返答なされた女神のイザナミ様が出現なさいました。 このペアの神様方が後の「国生み説話」の主人公になって、日本の国土の骨格を御作りになられるのですが、クニノトコタチ様からイザナミ様までの時代を、神の世の七代と呼びます。 ―― 以上で、通常我が国の始まりの物語とされる「古事記」の説き起こしの部分の、一応の現代語訳を終えましたが、私達が青森県の野辺地の地で開始する読み聞かせの会からスタートして革新的なコンセプトに拠るセリフ劇へと発展させる一大ムーブメントの台本候補の中に、このささやかではあるが十分に素晴らしい古事記冒頭の一節を加えることの出来る幸福を、大和の国の八百万の神々に衷心からの感謝の誠を、捧げたいと思うのであります。 現時点では、以上のコメントに止めて措きたいと存じます。 扨て、婆ものジャンルとは別に、爺もののレパートリーを開拓しておきたいと以前から密かに念願しても居りましたので、早速にトライしてみます。 痛快喜劇の寸劇「何てまあ、弄(いじ)り甲斐のある相手なのでしょう」 時代:現代 場所:人間の居る何処か 人物:女、そくら爺さん、その他 女「あたしは自分で言うのも何だけれど、史上で最悪、このあたしの視力が及ぶ範囲では少なくとも最も根性のひん曲がった性悪な女だよ。別に鼻に掛けてなどいないさ、腹黒で意地悪で、根性曲がりのあたしだけれど知性や判断力までが狂っちゃいないさ。普通の判断力は当然ながら、持ち合わせているよ。それなのに何故、人の嫌がる事ばかりするかって。当たり前じゃないか、面白いからさ、愉快だからなんだよ、他人が困ったり苦しんだり、四苦八苦する姿がさ。人が嬉しそうだったり、倖せそうに見えたりするだけで、気分が悪くなるのだよ、訳もなくね。だから相手を困らせたり、弱らせたりして遣るのさ、あたしの気分がよくなるように…」 いつの間にか善良その物と言った雰囲気のそくら爺さんが登場して、喋っている女の前を行ったり来たりし始めている。女はそれを黙殺して話続ける。 女「とにかく、誰でもいいからギャフンという目に遇わせてやりたいのさ、あたしの性分としてわさ。他人が暗い顔をしていたり、浮かない暗い表情をしていると、もうそれだけでこちらの気分は浮き浮きとなって、軽く鼻歌でも歌いたくなる。(爺さんの何とも楽し気な、能天気な様子にイラついたのか)おい、こら。そこの惚(ぼ)けナス。お前だよ、爺さん、お、ま、え」 そくら「(自分を指さして)吾、ですか?」 女「このおたんこナスが、他には誰も居ないのだから、直ぐに解りそうなものじゃないか」 そくら「今日は、本日はよいお日和(より)で、結構で御座います」 女「(ひどく機嫌を損ねている)何が、良い日和だい」 そくら「吾が何か気に障るような事を致しましたでしょうか?」 女「お前さんの存在自体が、目障りなんだよ。どっかに消えてしまっておくれ」 そくら「あのーォ、さっきから伺いたいと思って遠慮していたのですが…」 女「(ぷいっと横を向いてしまう)」 そくら「(独り言を言う様に)やっぱり吾が最初から思った通りだ。こんなにチャーミングで素敵な女の人は世間には滅多に居るものじゃあないものな。でも、吾はこの人からひどく嫌われてしまったようだからな」と、一旦はその場を去りかけるが、直ぐに又戻って来た。女は依然として爺を無視したポーズを続けるが、内心では少し気になっている。 そくら「あのーう…、やっぱり止めにしておこうかな」とその場で回れ右をしたり、もじもじと身をくねらせたりして、大いに迷っている態。 女「(とうとう我慢し切れなくなって)言ってみなよ、爺さんが伺いたいとか言ってた事をさ」 そくら「えっ、お尋ねしても宜しいのですか、本当に」 女「(イライラして)このあたしがいいって言ってるのだから、試しに言ってみなよ」 そくら「そうですか、それじゃあ遠慮せずに大胆に、率直に申し上げましょう。貴女はもしかして御先祖様は京都のさる御公家様で、とってもやんごとない御血筋ではないでしょうか?」 女「さる、お公家…、やんごとない、お血筋…」 そくら「ええ、ええ、吾は或るしっかりとした権威ある学者から聞いたと言う、或る人から又聞きしたので絶対とは言えないのですが……」 女「その先を言ってみなよ、その先をよっ」そくら「はいっ、何でもただの普通の人ではないから、あんなにも知的で優雅な雰囲気を常に周囲に漂わせているのだって、その偉い学者から伺った或る人が力説するものですから」 女「力説するので何だって言うのよ、早く結論を言いなさいよ、結論を」 そくら「ズバリ申し上げますよ。あの女の腹黒さは今に始まった事では無い、悪い、ねじ曲がった血筋が災いしているに相違ないって、これもある人が言うのです。断って置きますが、私が言うのではありませんよ」 女「(頭から湯気を出さんばかりにして怒っている)」 と、そこに数人の子供達が通りかかって爺に声を掛けて来た。 子供達「お爺さん今日は。僕たち今日はいい子にしてました。何も悪い事はしませんでした」 そくら「ああ、それは良かった。気をつけて帰るんだよ」と手を挙げて子供達を見送った。それから急に女の方を見返り、「失礼しました。あの子達、吾の弟子でしてな、空手の」 女「(不審げに)カ ラ 手…」 そくら「そうです、吾はこう見えても空手の名人でしてな。子供たちに稽古をつけているのですわ」 女「そうかい。人は見かけによらないって言うけど…」 そくら「空手の達人は身体全体が鋭利な刀のような存在でしてな。ですから、暴力は自分で封印して、滅多な事では使いません。ああそうそう、貴女の筋金入りの悪人振りは、やはり先祖の高貴な血統に由来しているのかな、御自分ではどう思って居られるのかな?」 女「そんな事は自分の口からは言えないよ、自慢しているように聞こえるかも知れないから」 そくら「バカな事を言ってはいけないよ。吾はあんたさんを糞みそにこき下ろしているので、自慢できる様なことじゃありませんよ」 女「この糞爺が(と、思わず拳を握りしめて爺を打とうとしたが、はっと気がついて)、あたしの我慢に限度というものがあるから、気を付けた方が身の為だよ」 そくら「(手刀で瓦を割る様な仕草をしながら)瓦の二三十枚を割るのは朝飯前の簡単な仕事さ、吾にとっては」 女「瓦の、ニ三十枚が、朝飯前だって」と、ゾッとしたように爺を横目で見る。 そくら「他人の不幸や災難を見て喜ぶだなんて、相当頭が行かれた、人間の屑だよ、あんたさんは」 女「畜生め、言わしておけば図に乗って…」と、思わず爺に詰め寄ろうと身構えたが、首を何度も横に振りながら持ち堪える。爺は涼しい顔をして女の顔を穴のあくほどに見詰めながら、尚悪態を続ける。 そくら「へん、この弱虫の根性無しが。悪党だったら悪党らしく最後まで振舞ったらどうだい。こんな吾の様な風が吹けば吹き飛ぶような耄碌爺が恐ろしくて、手も足も出せないのかい。この悪魔の出来損こないめが!」 女は地団太踏んで悔しがっているが、爺の空手の腕前が恐ろしくて、手出しが出来ないのだ。そこに突如いつもの婆が登場した。 婆「あら、そくらさん、よくこの性悪女を打ちのめさないで我慢が出来ましたね。吾はまた例によっててっきり重症を負わせて、病院送りにしてしまったかと思っていたのに」 女「(ババに対して)あんたは一体何者なのよ」 婆「吾はこのそくらさんの憧れのマドンナですよ」 女「ま、ど、ん、な」 そくら「そうだよ、吾の永遠の女神様。お前のような根っからの魔女とは正反対の、素晴らしい美人だよ。悔しかったらこの人の爪の垢でも煎じて飲むがいい」 呆気に取られて固まっている女を尻目に、二人の老いたカップルは実に楽し気に腕を組んで、スキップを踏んでその場を去って行く。 ( ジ エンド ) ―― 現実にはあり得ない設定であり、あり得ない展開ですが、ストレス解消のフィクションの一例として御参考に供したものであります。