「氷屋がやって来た」 その二
登場人物のヒューゴは漫画チックな人物として紹介されていた。 ラリー・スレードは六十歳である。痩せこけて骨が見える、ざらざらした真っ直ぐな毛髪は擦り切れたようにぎざぎざしたカットである。やつれたアイルランドの顔に大きな鼻、突き出た頬骨、痩せ細った顎に無精ひげ、瞑想するかのような青い目にはきらきらする冷笑的なユーモアが溢れている。 ヒューゴがこざっぱりとしていたのに比して、彼はだらしのない格好であり、彼の衣服は汚れて四六時中着たままである。そのフランネルのシャツは首の所が開いていて、一度も洗濯した事がないような外観をしている。彼がその毛深い長い指で体を掻いているやり方は、不潔でそうするのに慣れてしまっているのだ。彼は部屋にいる者の中で唯一眠っていない。彼は前を凝視して、疲れた寛容さが彼の顔に憐れむべき疲れた僧侶の性質を付与している。中央のテーブルの四つ全部の椅子の前面は空いている。 ジョー・モットは黒人で、およそ五十歳くらい、褐色の肌をして、ずんぐりとした体格であり、明るい色のスーツを着ている。それは嘗ては光り輝くスポーティなそれだったのだが、今は着古してしまっている。彼の先のとがった黒い靴、色褪せたピンクのシャツ、明るいネクタイは同じく時代物である。依然として彼は小ざっぱりとした雰囲気を保ち続けているので、外見上は汚い感じは全くしない。彼の顔だけがタイプとして柔和な黒人なのだ。その鼻は薄く、唇は目立って厚くはない。髪はちじれて禿げかけている。ナイフの切り傷が左の頬骨から顎にかけて走っている。もしその善良な性格と怠惰なユーモアがなければ彼の顔は厳しく険しい感じを与えただろう。彼は眠っていて、その頭は左の腕で支えられている。 ピエット・ウエットジョウエンはボウア人で、五十代、禿げ頭と長いもじゃもじゃ髯の大男である。彼は継ぎだらけの汚れたスーツをだらしなく着て、あちこちに食べ物の汚れが目立つ。オランダの農夫で、その嘗て頑健だった筋肉質な体躯は脂肪太りに堕落してしまっている。しかし脂肪質の口と血走った青い目にも拘わらず、依然として威厳のようなものが感じられる。彼は前向きに弓なりになり、両肘をテーブルにつき、頭の両脇に両の手を載せている。 ジェームス・キャメロン(ジミー・トモロー)は年齢も体格もヒューゴーと同じ小男である。ヒューゴーと同様にくたびれた黒服を着て、彼のすべてが清潔である。しかし類似はそこまでで、ジミーは育ちのよい警察犬の顔をしており、口の両脇には脂肪の塊がぶら下がっている。大きな褐色の友好的な眼は警察犬よりも一層血走っている。灰色のちじれた頭髪、獣じみた鼻、ウサギの歯と口。彼の額は素晴らしく、両目は知的で、嘗ては機敏なひらめきが見られていた。彼の弁舌は教育を受けた者のそれで、スコットランド訛が潜んでいる。その態度は紳士的だ。彼の気質には成熟したビクトリア女中のそれがあり、同時に成長しきらない好感の持てる少年のきみがある。彼は寝ており、顎を胸につけて、膝に手を添えている。 セシル・ルイス(大尉)は明らかにヨークシャープッディングのようであり、同時に明瞭に引退した陸軍大尉然としている。六十歳間際で、その髭と頭髪は軍人のそれで白くなっている。目はきらきらと輝く青で、表情はトルコ人のそれである。その痩せた立ち姿は直立で肩は角ばっている。彼は今腰まで裸で、コート、シャツは丸められて枕代わりにテーブル上に置かれいる。その両腕はぶらりと床の方に垂れている。下になっている左の肩には古傷のでこぼこした傷がある。 右のテーブルには経営者のハリー・ホープが中央部に正面を向いて坐っている。パット・マクグロインが左側に、エド・モッシャーが右側におり、他の二脚の椅子には誰も腰かけていない。 マクグロインもモッシャーも二人とも太鼓腹である。マクグロインは古くからの職業の警察官をしている。彼は年齢が五十代で、ごま塩頭、弾丸型の丸い頭、突き出した耳、小さくて丸い目で、その顔は嘗ては残忍で強欲な面相をしていたが、年月とウイスキーが善良な性格と太鼓持ち的な無性格に溶け込ませてしまっていた。彼は古い服をだらしなく着こなしている。椅子にどっかと腰を下ろし、頭を片方の肩に突き出している。 エド・モッシャーは六十歳に近い。丸いキュウピー顔、このキュウピーは常習的に飲んだくれている。彼は大きくなった村のデブ少年が成長した様な感じである。この悪賢い少年は生来怠惰な実用の冗談口をたたく生まれつきのペテン師である。しかし、彼のもっとも進取的な時でさえ面白くて本質的に無害であり、余りにも怠惰過ぎてちょっとした詐欺的行為を働こうにも出来なかったのだ。そのサーカスでの影響はその身なりに表れている。着古した着衣はけばけばしい。身に着けている指輪はまがい物だし、重い金属製の時計鎖、これには時計は附いていない、マクグロインと同様にだらしない。頭はすっかり禿げあがり、口は開いたままだ。 ハリー・ホープは六十歳、白髪、痩せているので骨革筋衛門とは彼の為に作られた言葉。その顔は年老いた家庭用の馬であり、むかっ腹をたてやすく、その白目勝ちの目を剥く機会をうかがっているようだ。彼は誰もが一目見ると好きになる心優しい間抜けで悪意なく、誰に対しても優越意識を持たず、生まれながらの好人物である。短気で野蛮な態度の後ろで自己の無防御な状態を隠そうとしている。彼はすこし耳は遠く、しかし自分が装っている程には耳が遠いわけではなかった。彼は安物の眼鏡を掛けているが、その安物は真っ直ぐではなくて、片方は上から覗き、もう片方は下から見上げる有様なのだ。又、かみ合わせが悪い入れ歯は彼がぷりぷりといきり立った際にカスタネットの様に音を立てるのだ。彼の上着とズボンは別々のスーツからなっている。二列目のテーブルの右を向いている椅子に、二つのテーブルの間の前面にはウイリー・オーバンがテーブルの端を掴んでいる左の腕に頭を載せている。オーバンは三十代後半であり、平均的は身長であり、痩せている。彼の痩せこけて放蕩の末の様な顔には小さな鼻、とがった顎、青い目には色のないまつ毛と額。ブロンドの髪は頭蓋の軟らかい部分にへばりついてカットするのには不都合である。彼の瞼が連続的にしばたいてまるで光線が彼の目にまぶしすぎる様な感じである。彼の着ている服はさながら案山子のそれである。それは穴だらけの汚い紙で出来ているかのよう。その靴はもっと不名誉な代物で、模造の皮の寄せ集めで、片方は撚った糸で、もう一方は針金の寄せ集めなのだ。彼はソックスは履いていず、その裸足の様が靴底から覗いて見えている。その大きなつま先が丸見えである。彼は眠りながらぶつくさと呟いたり、体をひくつかせたりし続けている。