「氷屋がやって来た」 その十
(ジミーのせりふの続き)俺は一二年前に通りでディックトランベルに会った。彼が言った、ジミー、宣伝部門は君が居た当時とは違ってしまったよ、火が消えたみたいなんだよ。俺は言ったさ、管理職は意気阻喪してしまい、君が復職したら喜ぶだろうと言う噂を聞いている。そうは思わないかね、ディック。彼は答えた、そうですね、ジミー。私の助言を聞いて、仕事の環境が好転するのを待っていさえすればよい。そうすれば君は部下によりよい賃金が支払えるし上手くいくだろうよ、と。俺は言ったさ、そうだな、ディック。助言に大いに感謝する。良い条件だけが事態を好転させる。俺がしなければならない事は、明日にも上品な上層部と折り合いをつけて上手く事を運ぶことだ。ホープ (謙遜した慈愛の愛情を示しながらジミーを見て)哀れなジミーはまたパイプドリームを始めたな。やれやれ、彼は甘いものを口にしたんだ。 (これはラリーには耐えられない事だった。冷笑的な馬鹿笑いが止められないが、誰も彼に注意を払わない)ルイス (半分眠っている目を開いて、夢の中でのようにウエットジョーエンに対して)済まないが今春の旅行を延期しなければならないよ、ピエット。壊れてしまった古い施設が修理されないと駄目だからねえ。無能な弁護士がもうけりをつけられないでいる。来年には我々で運転資金を工面してでも決着を図ろうな。好きなだけ古い場所に居て、それからサウザンプトンの連合城からケープタウンに乗り換えることも出来るのだから。(感傷的に、実際の渇望を込めて)四月の英国。君に見てもらいたいのだよ、ピエット。アフリカの古い草原にはその特色がある、それは認めるが、家庭じゃないよ、特に四月のそれじゃあないよ。ウエットジョーエン (眠そうに彼に瞬きし、夢見る様に)そうだ、セシル、君が俺に何度も話してくれたから、それがどんなに美しいかを知ってるよ。それを楽しもうよ。でも、家にいたらもっと楽しいだろうに。ああ、その草原だよ。そこに英国を乗せて、英国の小さな菜園に見えるだろうよ。有難い、自由な空間がある。葡萄酒みたいな空気、酒なんか喰らう必要は無いのだ、俺の関係は吃驚もんだ。彼らは俺を知らない、もう長い時が経過したのだ。彼らは俺がとうとう家に帰ったので大喜びするだろうよ。ジョー (夢見る様に)俺は賭けをして、新しい賭場を開設する、君達が離れる前にだ。開所式には来てくれ、白人並みに歓迎するよ。破産しても、俺が君等を支えてどんなゲームでも出来る様にする。勝てば儲けで、負けてもチャラにする。白人以上に大切にしてやろう。ホープ (再び謙遜的な憐れみを見せて)ジミーも同じパイプをふかし始めたな。 (しかし三人が話し終えると、彼等の目は再度閉じられて眠りに落ちる)ラリー (自分自身に声を出して、滑稽な調子で、狂的な囁きで)やれやれ、この溜まり場は俺をまた硬直した気違い状態に駆り遣るのだよ。ホープ (疑惑でいきまくかのようにラリーを見て)何、何といったんだよ。ラリー (なだめる様に)何も、ハリー。俺は頭に気違い染みた事を思ったのさ。ホープ (短気さを出して)気違いは正しいよ。そうさ、老いた賢者よ、賢さ、糞くらえ。駄目な老いぼれ無政府主義者、俺は断じて働かないぞ!俺は君とヒューゴに嫌気がさしている。明日支払いをしてくれ、さもないと俺はハリーホープ革命をおっぱじめる。俺は君のしっぽに追いたて爆弾をくっけると君は通りで爆発してしまうぞ。俺は君の運動を追い立ててやる。(彼は機智に輝きキイキイ声で笑う) (マクグロインとモッシャーが同時に熱烈に馬鹿笑いした)モッシャー (媚びる様に)ハリー、君は馬鹿に可笑しなことを言ったもんだ。(テーブルの上に手を伸ばしそこにコップがあるのを確かめる様にして、それから吃驚したように)クソ、俺の酒は何処だ。ロッキーはテーブルをかたずけるのが早すぎるのだよ。そう、俺はまだ一すすりしただけなのだ。ホープ (笑顔を固まらせて)いや、違うな。(辛辣に)君はいつだって酒を一すすりするだけだよ。そのうちに破傷風と麻痺になるよ。そのサーカス風の冗談で俺をからかうのだ。俺は君が膝位の身長だったガキの頃から知っているが、当時から悪ガキだった。マクグロイン (ニヤニヤして)そんなに辛辣になるなんて君らしくもない。すきっ腹の早朝に君をからかうなんて、熱くてやけどする仕事だ。ホープ ああ、お前、マック。もう一人の悪党さ。誰がお前に笑えなどと頼んだ。我々は哀れな老ベシーの話をしていたのだ。君と彼女の愚弟が笑い始めた。馬鹿な話さ、彼女について女々しい感傷をまたも話してさ。彼女は決して俺を許さないだろうさ、もしも俺が彼女の大切な部屋に君等飲んだくれ二人を宿泊させて、彼女の絨毯に落ちたゴミや煙草の灰を捨ててやっていると知ったなら。君は彼女の君への意見を承知しているね、マック。『パットマクグロインは警察所を愚弄した最大の飲んだくれ公務員だ』って彼女はよく俺に言っていたものだよ。『彼を人生の唱歌会に送って貰いたい』とも。マクグロイン (落ち着いた調子で)そういう意味じゃなかったんだよ。彼女が怒っていたのは君が俺を酔っぱらわせるからなのだよ。でもべスはあの鋭さの下に黄金の心を隠し持っていた。俺に対するあらゆる中傷誹謗が的外れだと知ってもいたし。ウイリー (酔いでよろめきながら飛び上がってマクグロインを指さして、冷酷な検査官の態度を真似ながら)一寸、頼まア。マクグロイン大尉殿。君は神に誓約して言っているのを自覚しているのかね。擬誓の罰がどんなものか知っているのかな。(満足そうに喉をごろごろさせて)さあ、大尉、君は自分が途轍もない重罪人だと言う事実を認めないつもりかい。いや、言わないがよい、『君の老人の調子はどうかね』などとは。俺は今様々な質問をしている。彼が大酒のみの金物屋だと言う事実は君の場合には関係ないのだよ。(涙脆い陽気さに変化して)陪審員諸君、法廷は地方検事がハーバードで覚えた小唄を歌う間しばし休廷します。神学校の学長によって猥褻な瞬間に1776年の月の美しい夜に、トルコ風呂の節度ある最中に作曲された。(歌う) さあ、おいでよ、と彼女は叫んだ。私の水兵さん、私と貴方は意見が一致した。そして 私はとっても美しい宝物をお見せしましょう、ラップ、ラップ、ラップとテーブル叩き、 今までに見た事も無い様なお宝を。 (突然彼はホープの視線が非難するように自分にくぎ付けになっているのに気づき、そしてロッキーがバーから姿を現したのを見る。そして椅子に崩れ落ちるように座る。訴える如くに哀れな調子で)頼む、ハリー。静かにするよ。ロッキーに無理やり俺を上の階に連れて行かさないでくれないか。一人になると気が変になってしまうのだよ。(マクグロインに)謝るよ、マック。不機嫌にならないでくれないか、俺は単に冗談を言っているだけだから。(ロッキーは、ホープの優しい視線を受けて、バーに戻る)マクグロイン (善良な性格で)そうだ、好きにすればいいさ、ウイリー。俺は硬直している。(ひと息吐き、真面目に)でも、間もなく官憲が俺の事件を再審議するだろうと予告する。誰もが俺に不利な証拠はない事を知っている。今回は無罪放免になる。(物思いに耽るように)警察での地位を回復したいのだ。少年達が最近では素敵な役得があると言っている。俺は此処では裕福にはなれない。からからの喉でハリーホープが一杯御馳走してくれるのを待っているだけだからな。(非難するようにホープを顧みている)ウイリー 勿論だ、君は復職するさ、マック。君が必要なのは赫々たる経歴を持った若い弁護士に弁護を任せる事さ。俺には実務経験はないが、ロースクールでは最も優秀な生徒の一人だ。君のケースは俺がスタートを切るにはもってこいのものだ、マック。マグロイン (なだめる様に)そうしよう、そうすれば君の評判は確立するよ、ウイリー。 (モッシャーはホープにウインクして頭を振り、ホープは同じパントマイムで答える、哀れな麻薬患者だ、又発症したぞ、と言わぬばかりに)ラリー (パリットにと言うよりは自分にたいして声に出して、いらいらした疑問をぶつける)ああ、畜生。俺は彼らの幻覚を千回も聞いたぞ。なぜ奴らは俺の皮膚の下に潜り込むのだろうか。気分が滅入って仕方がないよ。ヒッキーが姿を表すといいがなあ。モッシャー (計算するかのように不安を示し、ホープに囁く)哀れなウイリーはひどく酒を必要としているよ、ハリー。俺が思うに、彼を励まして、友人達の中にいると分からせ、奮いたたせてやろうじゃないかね。ホープ 更なるインチキ行為。(傷つける様に)君は愛する妹について語っている。べシーは君を見定めようとした。彼女はよく話したものだよ、貴方があの無価値で、飲んだくれで、こそ泥の私の兄に何を期待しているのか分からない。彼女は言ったものさ、彼は後ろの溝にはまっている。が、彼女は陰口はきかなかったさ。モッシャー (温和に笑い)そう、愛されるべきべスは短気だったが、実害はなかったよ。(昔を回顧するように笑い)彼女が十ドル札を両替するようにバーへ俺を使いに出した時の事を覚えているだろう。ホープ (自身を笑うべくして)ああ、御覚えている。彼女はストーブの蓋を開けて、小銭を出していた。その十ドル札を見つけ出した後でね。(感謝するように笑う)