「氷屋がやって来た」 その三十
ホープ (のろくさく)幸運を祈るよ、ウイリー。 (ウイリーは外に出て、右に折れる、そうしている間にジミーは、病的な興奮状態で、バーに静かに近づき、こっそりとラリーのウイスキーグラスに手を伸ばした)ヒッキー そして今度は君の番だよ、ジミー、旧友。(ジミーが何をしているか見て取ると、酒を飲み干そうとしている腕を掴んだ)さあ、さあ、ジミー、自身の為にそれはいけないよ。二日酔の上にもう一杯、しかも空きっ腹だ、へべれけになってしまうさ。それから君は自分にチャンスを潰すと言うだろうさ、仮に酔を覚まして元の仕事に復帰したとしてもだ。ジミー (浅ましくも懇願して)明日だ、明日こそはだよ。明日はいい状態にもどるよ。(突如自分を制御して、震えながらも確固として)分かった、出ていこうよ、手を離してくれたまえ。ヒッキー それそれ、まさにそれだよ。全部終わってしまえば、君は俺に感謝するよ。ジミー (無駄な憤激を発して)小汚たねえ豚野郎め。(ヒッキーの顔にウイスキーをかけようと試みるが、腕の力は弱くて、僅かに相手のコートにかかった。ジミーは踵をかえしてドアーに突撃して右の窓の外へと姿を消した)ヒッキー (コートのウイスキーを払い、ひょうきんに)アルコール消毒は完了さ、でも、嫌な感じだけじゃあない、俺は本を書いた、俺はそんな日を見てきたんだ、誰かが俺に真実と向き合わせるようなことを強制したら、相手を銃で撃ち殺してやるのだと。(ホープの方を向き、力づけるように)さあてと、長官、ジミーは進級した、あとは君次第さ、彼がテストに合格したら次はきっと君が…。ラリー (叫ぶ)ハリーを一人にしてやれよ、こいつめ。ヒッキー (ニヤリとして)俺が君だったらもう既に覚悟を決めていただろう、ラリー。そして決してハリーの事を邪魔しないだろうよ。彼は大丈夫、やり遂げるさ、それを彼に約束した。彼は余計な同情などは必要としていない。どうなんだよ、長官。ホープ (くすぶっている自己主張を感情的に試みる)いいや、違うぞ。鼻を突っ込むなよ、ラリー、ヒッキーとどんな関係があると言うのだよ。この散歩は長い間続けているのんだぞ、君は俺を刑務所に入れておくみたいに、此処に閉じ込めておきたいわけか。俺は十分に耐えているぞ、俺は自由で、白人で二十一年、これからも好きなことをするつもりだ。ヒッキー、君も鼻を突っ込むのはやめろよ。君はこのゴミ溜めの親分だと思っているようだが、俺じゃあなくて、確かに俺は大丈夫だ。何故、俺じゃあいけないんだ、何だって恐れる必要があるんだ、この地域を歩いて回ることをだ。(話しながらドアーの方へ動き、そこへたどり着いて)なんという天候なんだ、外は、ロッキー。ロッキー 上天気です、ボス。ホープ それがどうした、聞こえるか、俺には良い天気とは見えないぞ。俺にはいつだって土砂降りの空模様に見えるんだ、俺のリュウマチ…、(身体を抱いて)いいや、俺の両目だ、半分は盲なんだよ、黒く見えるんだ、何もかもが。今は上天気だって分かるがな、散歩するには暑すぎるがな、君がそうしろと言っても。汗を止めるには酒を一杯引っ掛けるのがいい、だが、自動車に気をつけないといけないのだ、二十一年前には自動車などは一台も無かったが。窓から自動車が走っているのを眺めると直ぐにでも人を引くのじゃないかと心配だよ。いいや、あれが怖いのじゃないがね、自分で注意さえすれば大丈夫だから。(無造作にスイングドアーに手を置いた)その、詰まり…、(立ち止まって、振り返った、びっくりした短気さで)さてと、何処にいるんだ、ヒッキー。出発する時間だぞ。ヒッキー (にやりと笑い、頭を振る)いいや、ハリー。出来ないや、君一人で日にちを守ればいいさ。ホープ (無理にぷりぷりして)お前なんか、糞くらえだ。通り越しに俺を助けると思ったよ、俺が半分盲なのを知ってな。半分聾でもある。このクソ自動車なんてものには我慢が出来ない、糞くらえだ、俺はこれまで誰の手助けも必要とはしなかった。今もだぞ、(自分を扇動して)少し散歩の足を伸ばしてみようと思う、今出発したんだから。旧友達には全部会う、彼等は俺が死んだと思っているだろう、二十一年は長い年月だ。が、彼等は俺がべシーの死を悲しんでいるのを承知しているのだ。(手をドアーにかけた)直ぐに出発しよう。(それから手を落として、感傷的な暗鬱さで)分かるか、ヒッキー、何が俺をそうさせるのか。外出するのはべシーの葬式以来だって事を思わざるを得ないぞ。彼女が行ってしまったから、人生が生きるに価するなどは感じないよ、誓っていうが俺はもう二度と外出はしないだろうよ。(感情が激して)いずれにしても、行くのが正しいなんて感じられないや、ヒッキー、今でさえ。彼女の思い出には悪いことをしているようだ。ヒッキー さあ、長官、その一つを払いのけることはもう出来っこないのだよ。ホープ (両手で耳を覆って)何だって、聞こえないよ、(再び感傷的に、が絶望的に)俺は今鮮明に覚えているよ、彼女が最後の日に…、あれは素敵な日曜の朝だった。二人で教会へ一緒に出かけた。(声はすすり泣きになっている)ヒッキー (面白がって)そいつはスゴイや、長官。が、俺はもっとよく知っている、もっとも、君と同じくらいだが。君は彼女と一緒になんか教会には行かなかったし、ほかの場所にもだ。彼女はいつも君の首ったまにしがみついていた。彼女は君に外出して何かをさせようとの野心を抱いていたが、君が欲したのはせいぜい、平安に酔っ払うことだけだった。ホープ (よろめいて)君の言葉がまるで聞こえないよ、君はいずれにしても、嘘つきなんだ、(突然怒りを発して、憎悪で声が震えている)この、クソッタレが、もし外に狂犬がいたら俺はそいつと握手してやりたいよ、ここでお前なんかと一緒にいるくらいなら。(瞬間的な怒りの発作でそう言った、ドアーを押し開けると盲目的に大股で外に出て、通りを昼食窓の後ろの方へと盲目的に過ぎていく)ロッキー (うろたえて)ああっ、出て行っちまったぞ。どんなに掛率が高くたって、今のような行動に出るなんて、驚きだよ、賭けなかっただろうよ。(窓の所へ行って、見て、ムカつくような顔をして)ああ、彼は立ち止まったぞ、きっと戻ってくるだろう。ヒッキー 勿論さ、彼は戻ってくるさ。他のみんなも同様だよ。今夜までには彼等は全員又此処にいるよ。のろま君、それが肝心なところなのさ。ロッキー (興奮して)いいや、彼は違うぞ。彼はドンつきに消えた、上下を見ていたが。自動車に怯えながら。ああ、奴らは二時間以上通りを行ったり来たりを続けている。(彼は興奮して見守っている、彼が賭けたレースが進行でもしているように、明らかにバーで何かが起こることを期待している)ラリー (厳しい反抗の姿勢でヒッキーの方を向き)そして今度は俺の番なのだよ、そうだろう。君の祝福された平和を遂行する為に俺がしなければならないことは何だろうか。ヒッキー (にやりと笑いかけて)もう、十分に議論し尽くしているぞ、自分に嘘をつくのはやめろよ。ラリー 俺が人生を降りてしまった、バカバカしい人間曲芸の貪欲さを見物するのに飽きたって言うのを君は思っている、俺は長い死の眠りを両目を閉じながら歓迎する、君がそれは臆病者の嘘だって思う…。ヒッキー (クックと笑い)ああ、何を思うんだね、ラリー。ラリー (募ってくる激しさで、ヒッキーと戦っていると言うよりも、自身と戦っているかのように)俺は生きるのを恐れているさ、更には死ぬこともだ。それで俺は此処に座り、瓶の底までプライドを落として、酔っ払い続けて、恐怖で震えてすすり泣いたり祈ったりする自分を見たくないのだ、愛するキリストよ、どんな事でもするからもう少し生かしてください、それが数日でもいいし、数時間でもいい、救いを全能の神よ、俺の甘美な宝の弱っている心臓に貪欲に縋り付いて、この途方もなく大切な宝物、汚くて、嫌な臭いがする干乾びた肉、これが俺の美しい小さな人生だ。(彼は冷笑し、復讐的に己を呪い、軽蔑と憎悪で自身の内部を見詰めている。それから突然にヒッキーを敵対者にまたしている)君はそれを俺自身に認めさせようとしていると思うんだ。ヒッキー (クックと笑い)君はそれを自分に認めたんだろう。パリット (両腕から頭を挙げて、ラリーを見詰めて、冷笑するように)それが仕事だ、ヒッキー。年老いたイカサマ商人を磨けよ、僕にこんな嫌な真似をしないでくれよ。彼は僕を手助けするべきなんだ。ヒッキー そうだ、ラリー。彼とは決着をつけるべきだよ。俺は彼の手中に全面的に君を任せようよ。彼は良い仕事をするだろう、あの古いスタンドプレイ的なインチキをやめるように努力しよう。ラリー (怒って)最初に君等二人に地獄で会おうよ。ロッキー (バーの端から興奮して叫ぶ)おや、ハリーが通りを横切り始めたぞ、彼は君を馬鹿にし始めるだろうよ、ヒッキー、この間抜けさんよ。(息を継ぎ、見守っている、そして疲れたように)何だって彼は足を止めたんだ、通りのど真ん中でだ、彼は体が麻痺してしまったか何かだぞ。(ムカつくように)ああ、動かないぞ、戻ってきたぞ、なんだ、あの老人臭い振る舞いは、もう此処だぞ。ホープが足を引きずりながら窓の外を横切った、茫然自失の体で走り、盲目的によろめいてスイングドアーを抜けて、バーのラリーの右にたどり着いた)ホープ とにかく、一杯くれないか、一年分寿命が縮んだよ、ああ、あの男は首を絞めるべきだな。通りを歩くのは決して安全じゃないよ、あれで終わりだ、もう二度は行かないぞ、そのボトルをくれないか、(グラスにいっぱいの酒を注ぎ、飲み干して、もういっぱい継ぎ足した、軽蔑したように彼を見つめていたロッキーに、訴えるように)見てたんだろう、ロッキー。ロッキー 何をだい。ホープ あの自動車さ、愚鈍なイタリア移民くん、運転していた奴は酔っ払いか気違いだぜ。俺がジャンプしなければ俺を敷き殺しかねなかった、(迎合的に)さあ、ラリー、一杯飲もうや。みんなも飲めよ、タバコを吸え、ロッキー。今まで指を触れようとしなかったがなあ。ロッキー (拒絶して)そうだ、これが飲み時なんだよ。(酒を注ぐ)酔っ払うぞ、なあ。もしも好きでなかったら、何が出来るかを知っているだろう。とにかく、仕事を投げ出すいい根性を持っているのだ、(嫌悪して)おい、ハリー、君はいい度胸をしていると思うが、賭けてもいいが君は虚勢を張る。(ヒッキーに頷き、それから鼻を鳴らす)自動車、クソ。誰を君はからかっているんだよ、あれは自動車じゃないぞ、君は冷たさを手放したよ。