灰色の空のむこうには…

前回があまりにも僕にとって秀逸な話だったので、
今回のようなオーソドックスすぎるものはあれを
越えるものかなと楽しみにしていた分ちょっと残念
でしたが、相場をテーマにした物語でした。


江戸では米の値段が上がっていて誰もが苦しい思い
をしているのですが、それと言うのも江上屋が相場
を操っていて米の買占めをしているからなのでした。

そこに、江上屋を頼って奥州黒川藩の藤戸又兵衛が、
藩の漁場を担保に金を借りようとすると、江上屋は
ぽんと五千両を貸し、それを元手に値上がりしている
米を買い付けるように勧めます。

その誘いに乗った藤戸又兵衛でしたが、数日後に江上
屋の差し金で米相場が急落し値崩れを起こしてしまい、
騙されたことを知った藤戸又兵衛は江上屋に自分の命
と引き替えに担保にした漁場の朱印状を返すように
訴えるのですがあっさり断られ、藤戸又兵衛は用心棒
たちに始末されてしまいます。


今回は、ひょんなことから藤戸又兵衛と知り合った
経師屋の視点で物語が展開したのですが、武士らしく
ない人の良さと優しさの持ち主であった藤戸又兵衛は
とても印象的に映りました。

まぁ、ここまで世間知らず？というか、田舎者という
か、素直というか、典型的な善人に描かれていますと
逆に正直者はバカを見てしまう仕事人のストーリー上、
どれだけ愛着が湧こうと悪人にやられてしまうのは
仕方ないことですが。

ただ、江上屋が言ってたことにも一理ありまして、
商人が金儲けして何が悪いとか、相場に勝ち負けは
付き物とか、侍だ武士だと威張るんだったら商人に
金策なんか頼むんじゃないよ、というのは勧善懲悪
の時代劇の中にあって、逆説的にまっとうなことを
言ってるように聞こえたのは僕だけでしょうか。


で、悪人として始末されるのはこれまでとは違い、
何だかスケールの小さいものだったのですが、この
中でも特に見所だったのは中村主水の仕事シーン
でしたね。

用心棒が柄に手をかけ刀を抜こうとしたところを
制して脇差で一刺しとは、なかなかやろうとしても
出来ることではないものです。

どうもこの仕事のシーンになると、渡辺さんが
「動」を担当しているとすると中村主水は「静」
の場面を担当しているように思えるのですが、
地味ながらも見ていて鮮やかに思える仕事の場面
は円熟した技の冴えというのを見せ付けられる
思いがします。

今回も相変わらずからくり屋は妙なからくりで
用心棒を仕留めていましたが、回を追うごとに
謎が増していくあの仕事、今回に至ってはあまり
にもからくりの糸が弛みすぎてて、それじゃ絶対
に絞まらないだろうと思ったのは僕だけじゃない
はずです。