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テーマ:カルト映画(14)
カテゴリ:テキトーな映画レビュー
前回は、デヴィッド・リンチ監督映画『ロスト・ハイウェイ』[1997年]のあらすじとみどころをご紹介しましたが、今回はストーリー解説編です。
解説とはいっても、監督自身がストーリー全体の模範解答を提示していないため、あくまでも個人的な解釈となります。 すでに作品をご覧になった方を対象としておりますので、ここでは登場人物の名前をそのまま用います。 『ロスト・ハイウェイ』は、ストーリの大部分が主人公フレッド・マディソン(以下フレッド)の歪んだ記憶と妄想で構成されています。 精神を病んだ男の脳内世界ですから、支離滅裂な映像の寄せ集めになっています。 したがって、すべてのシーンにムリやり意味を持たせてつなげようとすると、ストーリーそのものが破綻してしまいます。 まずは、フレッドの記憶と虚構世界のストーリ解説、その後に数少ない現実部分を使ってストーリー解説をご紹介します。 どちらも、できるだけ時系列を正しい順に並べなおしてありますので、初見ではストーリーが理解できなかった方も、ある程度納得していただける構成になっているのではないかと思います。 ここに示すストーリ解説は独自に行った 2 パターンのプロット分析のうちの 1 つになります。 長文のためここでは 1 パターンのみご紹介しますが、残りのパターンはまた機会をみてご紹介できればと思っております。 注意: 完全なネタばれ記事ですので、楽しみが半減すると困るという方は、この先をご覧にならないことをおすすめします。 また、ストーリーの構成上、ギャップが発生している部分は自分の知識や想像で補う必要がある作品でもあります。 次回でできるだけ根拠を示す予定ですが、多様な解釈の可能性が残されていることはあらかじめご了承ください。 リンクをクリックすると、記事の各セクションに移動します。 【第一回】『ロスト・ハイウェイ』作品紹介とわかりやすいあらすじ 『ロスト・ハイウエイ』ストーリー解説 妻の過去を知ってしまった男 ビデオテープ 白塗りの男 最後のビデオテープ 独房にて ピート アリス アリスの過去 恐怖の電話 逃避行 砂漠の小屋 追及 現実 フレッドのウソを取り払うとストーリーはもっとわかりやすくなる ディック・ロラントは死んだ アンディも死んだ そしてレネエも死んだ フレッド逮捕 フレッドの最期:処刑は二度失敗した 【第三回】制作側のネタばらし 【第四回】登場人物分析 『ロスト・ハイウエイ』ストーリー解説インターフォンが鳴った。 「ディック・ロラントは死んだ」というメッセージを残して。 妻の過去を知ってしまった男フレッドはテナーサックス奏者として成功を収め、高級住宅街で悠々自適な生活を送っている。 彼にはセクシーで美しい妻、レネエがいる。 だが、交際期間が短かったせいか、フレッドはレネエの過去をあまり知らない。 結婚生活は穏やかなものだった。 レネエはいつもおとなしくて控えめで、夫に対してあからさまな不満を口にしない。 美人だが普段は何を考えているかわからないところがあり、フレッドは以前からレネエに対して漠然とした不信感を抱いていた。 その不信感をさらに募らせる要因となったのが、アンディという低俗な男の存在だった。 レネエはフレッドの前では口角をつり上げる程度の笑みしか見せない。それなのにアンディの前では楽しそうに声を立てて笑う。 顔をのぞき込めば気まずそうに視線を逸らすくせに、アンディとならじっと見つめ返すほどの積極性があった。 まるで別人のようだ。 「友人」の二文字ではとても片づけられないような親密な空気がこの二人の間には漂っていた。 アンディとは仕事関係で知り合った仲だとレネエは言うが、アンディの交友関係は健全なものとは思えない。 フレッドは、アンディに群がるハエ同然の連中が気に入らなかった。 挑発的な格好で身体をくねらせながら、色じかけで近寄ってくる厚化粧の女たち。 そしてそんな安っぽい女たちを相手にしているのが、高級スーツに身を包んだ中年男性たち。 どう見ても不自然な取り合わせだ。 それもそのはずだ。 アンディはポルノ関係のプロダクションに所属する男優兼スカウトマンであり、夜な夜な自宅で豪勢なパーティや怪しげな映画の上映会を開いては、スポンサーたちに「女優」の卵を斡旋していたのだ。 フレッドは、レネエがアンディと交友関係を続けることに強い嫌悪感を抱いていた。 レネエもこのような形で「発掘」されて、ポルノ業界に手を染めたのだろうと邪推したからだ。 フレッドはこっそりとレネエの過去を探った。 悪い予感は的中した。 彼女が出演した大量のポルノテープ。 中には、過激なプレイ中に殺人行為におよぶという、スナッフものまでもが含まれていた。 マニア向けポルノ・プロダクションというのは建前で、その実態は金のためなら犯罪まがいの行為に手を出すことも厭わないような連中だった。 その連中と一緒になってポルノ女優として活動していたレネエ。 オーナーのディック・ロラントに見初められ、かつては愛人として優遇されていただけでなく、フレッドとの結婚後も愛人関係が続いていたことを知る。 ポルノ出演という動かぬ証拠をつかんだ以上は、貞淑な妻のイメージはもうない。 猫をかぶったアバズレと結婚させられただけでなく、フレッドへの裏切りも目下継続中だ。 彼女が相手をしてきた男たちと自分が比較されることも屈辱だった。 夫婦の営みではレネエが完全にマグロ状態。 レネエにとってフレッドとのセックスは単なる義務行為でしかなく、フレッドは早漏ときている。 妻を満足させるだけの能力がないと認定されたも同然だった。 妻の不貞行為もさることながら、男としてのプライドをズタズタに引き裂かれ、レネエにも取り巻きの男たちにも殺意をおぼえるフレッド。 しかし、彼の嫉妬と殺意の念はポーカーフェイスの下に隠されていた。 ビデオテープ不思議なことが身の回りに起こり始めた。 ラベルのないビデオテープが自宅の玄関先に届くようになったのだ。 ビデオはモノクロで、自宅の外観を遠巻きに撮影したものだったが、ビデオが届けられるたびにカメラは室内の様子を映し出すようになっていた。 ビデオに二人の寝室が映っているのを見たとき、二人はいよいよ身の危険を感じて警察を呼んだ。 しかしながら、それ以上の事件性は認められず、結局気休めにしかならなかった。 白塗りの男アンディ主催の夜のパーティに夫婦そろって招待された。 レネエはアンディにぴったりと身体を密着させ、水を得た魚のようパーティを楽しんでいる。 パーティの雰囲気になじめない自分にいら立ちを覚えながら、とりあえず酔ってその場をしのごうと強い酒を立て続けにあおるフレッド。 ふと、招待客の男と目が合う。 全身黒ずくめで、白塗りの顔に真っ赤な紅を引いた初老の男で、人混みの中でひときわ目立っていた。 「前に会いましたね」と男は話しかけてきたが、まるでおぼえがない。 これほど薄気味悪い風貌なら、一度見たら忘れるはずがない。 おまけに、今あなたの自宅にいると、わけのわからないことまで口走っている。 ウソだと思うなら自宅に電話してみろと携帯電話を手渡され、半信半疑で自宅にかけてみると、目の前の男と同一人物の声がが受話器の向こうから聞こえてきたのだ。 招待されたから来たと男は言うが、正体を問いつめても不気味に笑うだけだった。 狂人かもしれない。 近くにいたアンディに白塗り男のことを尋ねると、ディック・ロラントの友達だという。 その名には聞き覚えがあった。あのインターフォン越しのメッセージだ。 『ディック・ロラントは死んだ』 メッセージを復唱してみると、アンディは感情的になって否定し、レネエはあからさまに動揺した。 パーティの帰り道、アンディに紹介されたという昔の仕事の内容を問いただすと、レネエは「覚えてない」とはぐらかした。 自分のやった仕事を忘れる人間などいるわけがない。 フレッドが仮定してきたことのすべては、このとき確信に変わった。 最後のビデオテープふたたび、ビデオテープが届けられた。 カメラは今回も堂々と寝室に入り込んでいた。 だがそこに映っていたのは、バラバラに切り刻まれたレネエの遺体と、血まみれで半狂乱になっている自分自身の姿だった。 レネエに強い殺意をおぼえたのは確かだが、それは頭の中でだけだ。 だからこうやって映像を見ても、まったく身におぼえがないし、何の実感もわかない。 金と欲望のためなら何でもやりかねない連中とは違って、自分は善良で正しく生きてきた人間なのだから。最愛の妻を殺すなんてありえない。 しかし、胸騒ぎがした。 あわててレネエを探しまわると、そのまさかが現実のものとなっていた。 妻のバラバラの惨殺死体が寝室に転がっていたのだ。 ほどなくしてフレッドは逮捕された。 そして、妻を殺したという記憶をいっさい持たないまま、第一級殺人犯として電気イスによる死刑宣告を受けた。 独房にて身の潔白を証明できぬまま独房に押し込められ、死刑執行までのカウントダウンの恐怖におびえながら気力と体力を削る日々。 重度の不眠症と激しい頭痛がフレッドを襲う。 医者から睡眠薬を処方されたがまるで効果がない。 頭痛はいよいよピークに達した。 そのとき、不思議なことが起きた。 ありえない光景が眼前に広がったのだ。 黄色い炎を立ち上らせて燃える小屋。 その炎は逆再生の映像のように消えていき、そして燃える前の状態に戻った。 完全に元どおりになると、小屋のドアからあの白塗りの男がひょっこりと顔をのぞかせた。 脳天を貫くような痛みがフレッドを襲う。 床の上をのたうちまわっていると独房の壁にまばゆい光の穴が開き、フレッドはそこに飲み込まれていった。 ピート朝がきた。 巡回のためにフレッドの独房をのぞいた看守は、思わず目を疑った。 そこには赤の他人が膝を抱えて座っていたのだ。 妻殺しの死刑囚が独房から忽然と姿を消し、若い男と入れ替わっていたという魔術ショーのようなイベントに刑務所は騒然となった。 男の身元を調べてみると、数年前に車の窃盗で逮捕歴があるピート・デイトン(以下ピート)という若者だった。 身元が判明した以上、これ以上収監しておくわけにもいかず、ピートは釈放された。 ピート自身も、なぜ自分が独房で発見されたのかさっぱりわからなかった。 同居の両親はあわれむような表情を見せるばかりだったが、行方がわからなくなっていた息子が無事に戻ってきたことに安堵した。 アリスこれまでの生活を取り戻したピート。 自動車修理工として職場に戻ると、さっそく上客が車を持ち込んできた。 エンジン音に雑音が混じっているようなので、同乗して不具合をみてほしいという。 制限速度で車を走らせているだけで、エンジンの不調に気づくピート。 エディと名乗るこの初老の男は、ピートの修理工としての見事な手腕に絶対的な信頼を寄せていた。 すっかり気を良くしたエディは、褒美としてラベルのないポルノテープをよこしてきたが、ピートはやんわりとそれを断った。 ちょっとした外出にも用心棒を従えるほどの人物なのだから、相当の大金持ちなのだろうということは想像がつく。 持ち物や言動などを見ても、エディが堅気の人間でないことは知れた。 しかも、一度キレると何をしだすかわからない凶暴な一面まで持ち合わせている。 怒らせでもしたら厄介なことになりそうなので、どんなに慕ってくれるお得意様であっても、できるだけ距離をおきたい相手だった。 しかし、エディはふたたびピートの職場に現れた。 今度はとびきりのプラチナブロンド美女を助手席に乗せて。 彼女の登場にピートは心を奪われた。 一目ぼれだった。 アリス・ウエイクフィールドという名のこのブロンド美女(以下アリス)もピートを気に入ったらしく、自分から声をかけてきた。 彼女がエディの愛人ということは承知していたし、ガールフレンドのシーラがいる手前、彼女の誘いを断ろうと努力はした。 しかし、アリスの強烈な性的魅力には抗えなかった。 事実、シーラを抱いても、性欲処理のためにどうでもいい赤の他人を相手にしているような感覚だった。 シーラとは独房で発見される前から付き合っていたはずなのに、過去のことはどうしても思い出せないのだ。 今でもその「赤の他人」という違和感はぬぐい切れていなかった。 だが、アリスは違った。 強烈な美しさはもちろんのこと、抱いた瞬間にこの女だと思った。 アリスもピートにただならぬ運命を感じているようだった。 そして、二人は磁石が引き合うように密会を重ねるようになった。 アリスの過去よいことは長くは続かない。 後ろめたいことならなおさらだ。 二人の逢瀬はすぐにエディの知るところとなった。 エディが自慢のマグナム銃をちらつかせながらピートの職場にやってきた。 平静をよそおってはいたものの、これまで時間をかけて築き上げてきた信頼は跡形もなかった。 アリスも死の恐怖におびえていた。 殺されるくらいなら、金を調達して二人でどこか遠くへ逃げようと提案するアリス。 格好のカモがいるという。 アンディという男で、股さえ開けば喜んで金を払う低俗な人間だが、金はたんまりと持っているという。 アリスが堅気の女ではないことは百も承知だったが、ここまでだったとは。 ショックを隠しきれないまま、アンディとも寝たのかと尋ねると、エディーが製作するポルノ映画の契約上仕方ががなかったと白状した。 アリスがポルノ業界にかかわったいきさつを追及すると、アンディとは『モークス』というバーで知り合い、彼のコネで仕事を紹介されたという。 それがまさかポルノの仕事だったとは聞かされていなかった。 エディという男に会えば仕事をくれるという話だったが、実際に行ってみると何人もいかつい用心棒がついているような場所で、一度足を踏み入れたら逃げられないようになっていた。アリスはだまされたのだ。 このまま頭を撃ち抜かれて死ぬか、エディの命令でポルノ映画に出演するかの二択をせまられ、アリスは覚悟を決めて後者を選択したのだ。 アリスはポルノ女優として業界にのし上がった。 それどころか、女優業と愛人生活がまんざらでもなかったことを知り、愕然とするピート。 誰とでもホイホイ寝るような人間は、ピートが忌み嫌うタイプの人間だ。 そのような耐性はない。 アリスがやってきたことはピートの軽蔑の対象なのだ。 アリスはすがるような目でピートを見つめ、声を震わせた。 「私が気に食わないなら 目の前から消えるわ」 しかし、どんな強烈な過去を抱えていたとしても、ピートはもうアリスなしではいられない。 あとはもう彼女のなすがままだった。 当然、ピートは逃避行のシナリオをまくしたてる女のしたたかさには気づいていない。 恐怖の電話自宅に戻るとシーラが待ちかまえていた。 家の前でピートの浮気を追及されて大喧嘩。 「あの夜」のことがあってから、別人のようになってしまったと泣き叫ぶシーラ。 ピートが突然消えた日のことを意味しているのだろうが、ピートにはまったくその記憶がない。 シーラはひとしきり泣いた後、ピートに一方的に別れを告げて走り去っていった。 ピートあての電話があった。 留守中に数回かかってきたという。 エディからだった。 警告を受けていたにもかかわらず、アリスと過ごしてきた矢先のことだった。 あのキレやすい男のことだ。もう次はない。 女を寝取られた腹いせに、いつ乗り込んできてもおかしくない状況だった。 おそるおそる受話器に耳を当てると、エディの声は気味の悪いほど落ちついていた。 怒りをすっかり通り越して、やることを心に決めた男の声だった。 友人が隣にいるので話してみろと言う。 「前に会いましたね」 どこかで聞いたようなセリフだが、ピートにはサッパリおぼえがない。 電話の主は白塗りの男だった。 どこで会ったのかと尋ねると、お宅だと言う。 白塗り男はピートの鈍くささに少々イラついていた。 そして、死刑囚の後頭部に銃弾を撃ち込むという、極東の処刑方法に触れた。 エディは切れると恐ろしい人間に豹変するが、たったいま話した人間はそれ以上にとんでもなく厄介な存在だということに今ごろ気づくがもう遅い。 引き返せないところまで来てしまったことに半べそをかくピート。 このままでは確実に殺される。 逃避行アンディの家はプール付きの大豪邸だった。 あらかじめ指定された場所に移動すると、ポルノ映画がプロジェクターで巨大スクリーンに投影されていた。 闇ルートで流通するブルーフィルムのようだ。 そこにはアリスが筋肉隆々の男と真っ最中の様子が映し出されていた。 それを大画面で見させられて大ショックを受けるピート。 シナリオどおり、アリスとコトを済ませて降りてきたアンディと鉢合わせたので、手ごろな鈍器で頭を殴って失神させる。 その様子を見にアリスが降りてきた。 アリス主演のハードコアポルノ映画を強制的に見させられ、そのアリスにそそのかされてアンディを半殺しにしたことで、ピートは悔恨の念に苛まれた。 そのとき、想定外のことが起きた。 二人の逃亡計画のダシに使われたアンディが目を覚まし、逆上して襲いかかってきたのだ。 しかし、勢い余ってガラステーブルに頭から突っ込んでしまい、その角が額に深く突き刺さって即死。 一瞬の事故だった。 アンディを殴って気絶させ、いただけるものはすべて頂戴して二人でトンズラする流れだったはずだ。 ところがアンディはガラステーブルに頭から突っ込み、勝手に死んだ。 それなのにアリスは「あんたがやったのよ」と念を押した。 アンディが死んでしまった以上、一刻も早くここを立ち去らなければならない。 動揺を隠しきれないピートとは対照的に、黙々と金目のものを回収するアリス。 たった今絶命したアンディが身につけていたアクセサリーにまで手をつけるアリスのがめつさに、新たなショックを受けるピート。 ふと、額縁の写真に目が行った。 エディ、アンディと並んでアリス、それからアリスと全く同じ顔立ちの黒髪の女性(レネエ、だがピートにとっては他人)を写したものだ。 どちらもアリスなのかと尋ねてみると、彼女が指さしたのはブロンド美人の方だった。 その瞬間、激しい頭痛と大量の鼻血がピートを襲う。 脂汗をかきながらトイレに向かうが、個人宅にしてはトイレまでの道のりが異様に長い。 しかも廊下の部屋のドアにはホテルのような部屋番号が振られている。 赤い光が漏れている 26 号室のドアを開けると、その部屋の中は鮮血のように真っ赤だった。 そして、その奥でアリスにもレネエにも見える女が妖しげに体を揺らしながら、こちらに向かって叫んでいた。 「私と話したかった?」 「なぜだと聞きたかったの?」 反射的にピートはドアを閉じた。 ようやく落ち着いたところで階下に戻ると、アリスは金品の回収を終えたところだった。 これらの盗品を故買屋で換金すればどこにでも行けると語るアリスには、うしろめたさが微塵にも感じられない。 むしろ新しい門出を前に、期待に胸を膨らませているように見えた。 アンディの赤いスポーツカーに乗り込み、逃避行にくりだす二人。 ハンドルを握りながらオロオロするばかりのピートを横目に、砂漠に向かうよう促すアリス。 砂漠に故買屋があるという。 夜のハイウェイに乗り上げ、全速力で車を走らせるピート。 ようやく砂漠に到着すると、そこにはアリスが言ったとおりの小屋がぽつんと建っていた。 砂漠の小屋故買屋の主人は不在だった。 小屋の中は、年季の入った汚れた家具が数点置かれているだけだった。 主人が戻るまでの間、ピートは自分を選んだ理由をアリスに尋ねた。 「前にも増して私が欲しくなったでしょう」 そして彼女がいつものように誘ってきた。 砂漠の上で裸で抱き合いながら、お前が欲しいと口走ると、アリスが耳元で囁く。 「あんたには あげないわ」 アリスはピートを置き去りにすると、小屋の中に入っていった。 彼女の後を追うために起き上がると、ピートだったはずの自分はいつの間にかフレッドの姿に入れ替わっていた。 追及裸一貫のまま呆然と砂漠に立ちつくすフレッド。 乗りつけてきた車をもう一度よく見てみると、それはアンディの車ではなく、フレッドが普段乗っている車だった。 車の後部席にはあの白塗りの男が座っていて、こちらを凝視している。 こっちだと促されて目を向けると、白塗りの男は小屋の入り口に瞬間移動していた。 不思議な現象に驚きながらも小屋にたどり着くと、白塗りの男が微笑みながら待っていた。 さっきアリスはこの小屋に入っていったはずだ。 しかし、小屋を見渡しても彼女の姿はどこにもない。 白塗りの男が彼女をどうにかしてしまったにちがいない。 アリスの居場所を尋ねると、白塗りの男は怒りに声を荒げた。 「アリスだと?あの女の名前はレネエだ。名前を偽ったにちがいない」 そして、男はビデオカメラを構えると、怒鳴り散らしながらフレッドを追い回し始めた。 「お前の名前は?お前の名は一体 何だ」 現実フレッドは現実に引き戻された。 これまでのピートの人生は、フレッド自身が勝手に頭の中で作り上げた虚構にすぎなかったのだ。 虚構が崩壊した瞬間、ピートは忽然と消え、理想のブロンド美女アリスも消滅した。 ディック・ロラントと最愛の妻レネエを殺したという現実がフレッドにのしかかってきた。 それでも、彼はまだその現実を認めたがらなかった。 フレッドは、白塗りの男のビデオカメラから逃れるように車に乗り込むと、あわててハイウェイを引き返した。 フレッドのウソを取り払うとストーリーはもっとわかりやすくなるここでは、フレッドによる記憶の改ざんを排除してストーリーをまとめてみます。 イベントの発生順さえ把握できれば、『ロスト・ハイウェイ』は比較的シンプルなストーリー構成になっていることがご理解いただけることでしょう。 ディック・ロラントは死んだフレッドは妻レネエが話したがらない過去を探っていくうちに、彼女がかつてポルノ業界に関わっていたことを知る。 交友関係からアンディをたどり、大量のポルノビデオを入手。 その中に、レネエ出演の作品もごっそり含まれていたというわけだ。 しかも、そのポルノ・プロダクションの社長であるディック・ロラントとの愛人関係が今も続いているという情報も得た。 ワケありの女かもしれないフレッドの疑惑は、思いもよらぬ形で的中することになる。 フレッドは嫉妬と殺意に燃え、まずはレネエとディック・ロラントの逢瀬の現場を押さえることにした。 レネエを尾行し、ロスト・ハイウェイ・ホテルの 26号室を突き止めると、その向かいの 25号室に部屋を取って忍び込んだ。 彼らの行為が始まると、そっと部屋をそっと抜け出し、26号室のドアにピッタリと張りついて、その一部始終に耳をそば立てたのだった。 いつもマグロ状態はずのレネエが、壁の向こうではまるで別人のように嬌声を上げている。 富、人望、精力。 フレッドの男としての劣等感も尋常ではなかった。 俺が知らないと思ってやりたい放題やりやがって。 先にレネエがホテルから出たのをカーテン越しに確認すると、フレッドは 26号室に突入した。 持っていた銀色のマグナム銃でディック・ロラントの頭部をめった打ちにする。 抵抗力を失わせてからホテルから引きずり出し、ディック・ロラントの車のトランクに押し込んだ。 そしてそのまま車を砂漠へと走らせたのだった。 砂漠に到着してから車のトランクを開けると、体力を回復させたディック・ロラントが飛び出してきた。 砂の上でもみ合いになりながら、手にしたナイフでディック・ロラントの喉笛を掻き切ったところで勝負はついた。 フレッドはレネエのことを思い出していた。 レネエの過去の仕事、結婚前から今まで続いていた愛人関係。 アンディ邸で開かれたポルノ映画上映会の記録ビデオ。 ビデオには、上映作品を鑑賞中にディック・ロラントが、たまらず愛人レネエの身体をまさぐりはじめる様子が収録されていた。 アングラ系のポルノ映画を製作して、それを同じ趣味の仲間たちと共有することによって、出演者自身もそれを楽しむ世界。 過激になるにしたがって上映会は盛り上がりを見せ、ついにはプレイ中に出血をともなったり、殺人に及んだりする内容の作品まで上映された。 プレイ中の殺人も彼らにとっては快楽の材料となり、ディック・ロラントもレネエもそこに強く欲情したのだった。 レネエをこんなアバズレに仕立て上げたのはお前だ。 息も絶え絶えにディック・ロラントは下衆ばった笑みを浮かべた。 ディック・ロラントもフレッドの凶暴性を動物的な勘で見抜いていたのだった。 「お前と俺ならもっとすごいポルノを撮れたな」 フレッドは彼の頭に銃口を向けると、怒りに任せて引き金を引いた。 ディック・ロラントは死んだ。 フレッドの手によって。 アンディも死んだアンディ主催のパーティ。 プールつきの大豪邸で、パーティを開催できるように立派なバーカウンターが設置されており、大勢で映画を鑑賞するための巨大スクリーンや、招待客がいつでも宿泊できるようにいくつも部屋が設けられていた。 フレッドはそこにレネエの写真をみつけていた。 アンディ、ディックロラントとの三人で撮影されたものだ。 撮影時期はわからないが、目立つところに大切に飾っておくほど、アンディにとってはレネエもディック・ロラントも大切な仲間だったのだ。 フレッドは、レネエがディック・ロラントのみならず、アンディとも肉体関係を持っていたことも確信していた。レネエはアンディの紹介でディック・ロラントの看板ポルノ女優になったのだから。 彼らのことを考えるたびに、フレッドは激しい嫉妬と殺意をおぼえた。 ディック・ロラントの死体は遠い砂漠に放置してきてある。 だが、無意識にディック・ロラントが死んだと口をすべらせてしまった。 アンディを刺激してしまった以上、砂漠の死体の身元が判明するのは時間の問題だ。 今ごろはディック・ロラントの手下も関係者をしらみつぶしに当たっているにちがいなかった。 愛人レネエに会いに行くと言った後に消息を絶ったことから、彼らは真っ先にフレッド邸にやってくるはずだ。 だからフレッドはディック・ロラントの手下と鉢合わせしないように、レネエとともにアンディ主催のパーティに出かけたのである。 もともと気乗りのしないパーティに一人置き去りにされ、薄気味悪い白塗りの男に「今あなたの家にいる」と言われてしまっては、気が気でなかった。 パーティから戻ると、フレッドはレネエを外に残したまま、自宅で変わったところはないかを執拗なまでに調べまわった。 留守中に侵入者があったかどうかを確かめるためだ。 あの薄気味悪い白塗りの男が本当にいるかもしれない。 急に鳴り出した自宅電話に驚くフレッド。 そして、明らかにすでに誰かが侵入した形跡があったことに気づいたのである。 とにかく、アンディが口を開けば、もう終わりだ。 手遅れにならないうちに、アンディを始末しなければならなかった。 フレッドは深夜まで待った。 アンディ邸に向かい裏口から侵入すると、二階から降りてきたアンディに襲いかかり、ガラステーブルの角に投げつけて殺害したのだった。 そしてレネエも死んだレネエはフレッドが自分の過去を嗅ぎまわっていたことに気づいていた。 ボロを出さなぬように努めて従順な妻を演じていたが、それがかえって不自然で、フレッドは以前に増して疑い深くなり、いちいち彼女の行動を把握したがった。 互いに牽制しあうことで二人の仲は冷めていき、レネエの存在は遠くなっていった。 しかし、今や彼女の心はもう手の届かないところまで離れてしまっていたのだ。 そして、フレッドはレネエとディック・ロラントとの密会現場を押さえ、ディック・ロラントを殺害し、アンディの口封じにも何とか成功した。 だがしかし、ディック・ロラントとアンディの死体が立て続けに発見されたとしたら、レネエは真っ先にフレッドを疑うだろう。 夫を逆上させる動機はレネエ自身がよく知っているからだ。 レネエを誰にも取られたくない。 だがお前一人のために俺の人生はメチャメチャだ。 すべての原因はお前だ。 お前なんかなかったことにしてやる。 フレッドはベッドで寝息を立てるレネエに襲いかかかって殺害すると、興奮冷めやらぬままその死体を切り刻んだ。 フレッド逮捕妻殺害の模様が録画されたビデオテープが証拠となり、フレッドに逮捕状が出た。 刑事が自宅にやってきたので、フレッドはあわてて車に乗り込み逃走。パトカーも出動してカーチェイスが繰り広げられた。 逃走中、道端にいた青年を轢いてしまったが、そのままフレッドは青年を引きずった。 その大きな音を聞きつけて家から人が出てきた。 「ピート!」と叫ぶ女の金切り声がフレッドの頭の中に響いた。 この事故によって長時間におよぶカーチェイスは幕を閉じ、フレッドは御用となった。 余罪の追及がなされた。 交通事故に巻き込まれた不幸な青年は、ピート・デイトンという名であることが判明した。 砂漠で発見された死体の身元はディック・ロラントであることが割り出され、アンディの死体は自宅のガラステーブルに頭を突っ込んだ状態で発見された。 フレッドの最期:処刑は二度失敗した電気椅子に座らされ、死刑執行直前の極限状態の中にあったフレッド。 一回目の電流スイッチが入れられ、皮膚の火傷と破裂が見られたが、フレッドの息はまだあったのだ。 この極限の苦しみの中でさえ、フレッドはピートという赤の他人になりすまし、別の人生を送るという現実逃避を試みるのだった。 二回目の電流が投入されたのは、妄想の中でアンディがガラステーブルの角で事故死した後に、アンディ、ディック・ロラント(妄想の中ではエディ)、アリス、レネエの四人で写っている写真を発見した直後である。 虚構の存在である金髪美女アリスが、写真の中の自分を指し示した瞬間だった。 耐えがたい頭痛と、大量の鼻血、全身から噴き出る脂汗。 青白く瞬く電流の光に翻弄されながら、フレッドはピートとして妄想世界をさまよっていた。 そして、いよいよフレッドの妄想が現実によって破綻し、すべての虚構が消えた。 それでもまだフレッドは諦めなかった。 ウソでも強く念じれば、つらい現実から逃避できることはこれまで何度も経験してきたからだ。 ディック・ロラントはどっかの誰かが勝手に殺したのだ。 俺ががやったんじゃない。 どっかの誰かなら、フレッドのアリバイを証明できる。 妄想の中でどっかの誰かにすっかりなりすましたフレッドは、自宅のインターフォンのブザーを押した。 「ディック・ロラントは死んだ」 俺ががやったんじゃない。 誰かがディック・ロラントの死んだと言った。 それを俺は聞いただけだ。 妄想の中でさえも警察の追っ手は近づいてきていた。 フレッドの妄想が作り上げた殺人犯は車に乗り込むと、警察から逃れるためにハイウェイに引き返した。 三回目の電流が投入された。 妄想の中でカーチェイスを繰り広げているはずの自分の姿は一瞬にしてかき消された。 致死量の電流によって頭は大きく膨れ上がり、フレッドはその苦痛に形相を醜く歪ませながら断末魔の叫び声をあげた。 次回はストーリの根拠を示すシーンやヒントをご紹介する予定です。 【第三回】制作側のネタばらし お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.08.17 21:58:16
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