不純異性散髪
久しぶりに髪を切りに行った。以前にも一度髪を切ってもらったことのある方がその日も自分についた。三十代半ばだろうか。結構綺麗な女性で、そんな人に髪を触ってもらうのは嬉しいはずなのに緊張してしまう。椅子に腰かけて散髪用エプロンをつけると早速前髪からハサミを入れる。この時がモンダイなのである。彼女は背後から腕を回して前髪の長さを測り、サッとハサミを使うのだが、このとき後頭部に胸が当たるのだ。ハッとする。だが、ハッとしたのを悟られたくはない。にわかに緊張が高まるのだが、下手に頭を動かすと何だか非常に「接触」を意識しているようで、逆に硬直気味になる。わずか十数秒の刹那、嬉しいやら恥ずかしいやら、多感な中年の心は千々に乱れている。それを知ってか知らずか、その美しい人は淡々とハサミを走らせている。いたいけな中年の心を弄んでいるのだ。考えすぎか?だが、こちらの後頭部が明らかにそれと分かる感触を伝えているのに、彼女自身が当たっていることに気付かないはずがない。そして、必死に気付かないフリをしている、あるいは無関心を装っているこちらの態度を冷笑しているにちがいないのだっ!!そこで静かに目を閉じて、心を鎮める。瞑想だ。瞑想中も彼女の指が巧みに髪をかき分けてカットを続ける。知らず知らず目を開けて、結婚指輪の有無を確かめていたりする。白い指に何一つ光るものはない。推定年齢からして、結婚していてもおかしくはない。そうか、バツイチ子持ちの線か・・・。女手一つで小学生の子どもを育てているのか・・・大変だなぁ。瞑想が妄想に変わる頃、髪が仕上がった。「ありがとうございました」綺麗な笑顔で送り出されたが、なんだか後ろ髪をひかれる思いであった。。。