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カテゴリ:読書案内「現代の作家」
真藤順丈「宝島」(講談社)
もう10年以上も昔のことになるのですが、生まれて初めて、育った家と神戸の町を出て、沖縄で暮らし始めた「ヤサイクン」からこんな手紙を受け取りました。 「巨大大国アメリカと日本が、また小さな島国沖縄を襲ってきた。」 この手紙が届いた2005年、本土でも本格的に話題になり始めた米軍普天間基地移転問題。基地と隣接した学校にヤサイクンは通っていたし、基地移転が、米軍の兵士による度重なる少女暴行事件や、軍用ヘリコプターや戦闘機の墜落事件に端を発していたことを否応なく知る経験をしていた。 当時、メールで手紙を受け取ったぼくは、彼を沖縄に送り出したことを、心の底から「よかった」と思ったが、返事には困った。 あれから東北で大きな震災があり、津波による想像を絶する数の死者や被災者のこと、原子力発電所の爆発事故による放射能汚染で住む家や街を失った故郷喪失者たちのことは、阪神の震災の時と同じように風化が問題になり始めている。戦争であれ、自然災害であれ、本当に苦しむ人たちを忘れることで踏みつけにする風潮が当たり前になりつつある社会は何処か狂っているのではないだろうか。 普天間基地の辺野古移転は、強引に推し進められる中、移設工事に待ったをかけ、抵抗を明らかにした翁長雄志沖縄県知事が、今年の夏、亡くなった。彼が主張していたのは「沖縄が過去100年どんな目に会ってきたのか、思い出してくれ!」ということではなかったか。彼の死に際して、やりきれない気分だったぼくは、ちょうど、その週に、まったく偶然、この小説真藤順丈「宝島」と出会い、一気に読み終えていた。 「ヤサイクンが送ってくれた手紙にこたえる小説が出現した。」 ジャンルとしてはエンターテインメントとされているが、読み終えて、ただのエンタメではない。そう思った。 22歳のヤサイクンが、あの時「戦争は今現在も続いている」といった現実認識は、10年たった今も、ぼくたちが暮らしているこの社会でも、相も変わらず有効なのだが、沖縄の歴史、いや、沖縄に「今、現在も続いている」ことを、戦後の沖縄を舞台に英雄叙事詩として、堂々と語った小説が現れたことに心が躍った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.03.01 23:29:48
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