|
カテゴリ:映画 スペイン・ポルトガルの監督
イザベル・コイシェ 「マイ・ブックショップ」元町映画館
今日はゴジラ老人シマクマ君の誕生日です。であるからして、誕生日にふさわしい「映画」を、という気分で出かけたのが元町映画館ですね。 これが今週の元町映画館ね。 えっ?なにが相応しいの、ですって? シマクマ君の同居人、チッチキ夫人はもう10年以上「ブック・ショップ」の店員さんなんです。出版社から流通、学生の本離れ、売れない本に対する愛、とにかく、本には少しうるさいわけです。 というわけで、今後の平和な同居生活を願えば、この映画を見ないわけにはいかないではありませんか。ね、「本屋さんの映画」、ふさわしいでしょ。 「行ってきまーす。ああ。あっ、今日、マイ・ブックショップ観てくるね。」 「ええっ、ズルー。」 「どうせ、また行くんやろ、混んでるかどうか、先乗り調査や。」 「ハイハイ、じゃあね。」 観た甲斐がありましたね。シマクマ君の誕生日の映画としてピッタリでした。というのはこの映画には「本」が登場するからです。今日は映画に出てきた「本」についてしゃべります。 一冊目は、レイ・ブラッドベリ「華氏451度」。新刊本の発売されたのは1950年代の終わりですね。シマクマ君世代のSFファンなら、ヘンテコな題名の意味が「紙」が燃えはじめる温度ということくらいまで常識ですね。「本」が禁じられた世界で、ファイアー・マンだったかが「焚書」したり、「本」を隠し持っている人を処罰したりするんです。 だからね、この映画の副主人公、偏屈老人ブランディッシュが、この本を気に入るのは、映画の話法としてトーゼンなんです。 二冊目はウラジーミル・ナボコフ「ロリータ」。今では新潮文庫で読めますが、1955年にフランスで出版されたのですね。が、当初はポルノ小説なんですね。 「ロリータ・コンプレックス」なんて言葉はもう誰も知らないのかもしれませんが、いい年をしたおじさんの少女偏愛ですね。その言葉を生みだした小説です。 小説は、少女ロリータを追い求めた末に殺人を犯した主人公が獄中で綴る手記ですが、彼の中に刻印されたように存在する理想の少女の名は「アナベル・リィ」なんです。 この名を聞いて思い出すのがノーベル賞をもらったあと、大江健三郎が書いた「朧たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ」(新潮文庫)ですね。何を書いていたのか、詳しい筋は忘れましたが、たしか、主人公が観た映画の登場人物アナベル・リィをめぐって、あれこれ大江ワールドの展開があるのです。大江が大好きなナボコフに捧げるオマージュみたいな気分で描いた、かもしれない作品ですね。もちろんただの推測ですよ。 話を戻しますが、そんなポルノまがいで、実際に騒ぎになった小説を、一人で読むならともかく、1960年代初頭のイギリスの田舎の港町で売ろうと考えるフローレンスは少し変だと思いましたね。まあ、ブランディッシュの評価は、その後の「ロリータ」評価の変遷を考えると正しいのですが、監督はその辺を考えたのかなと思って最後まで観て、「ああ、そうか。」と思わず膝をうちました。この映画では「少女」が主役だったのです。 そういえば、映画のあの少女、不思議の国のアリスみたいでした。もちろんアリスも「ロリータ・コンプレックス」の歴史では有名人なんですよね、知ってましたか。 三冊目が、もう一冊レイ・ブラッドベリ「たんぽぽのお酒」でした。 この本がブランディッシュの手元に届かなかったのが、この映画の哀しさのクライマックスなのですが、これもまた映画の話法においては、彼の手元に届くはずはない本だったようです。 だって、小説の内容が12歳の少年のひと夏の物語の回想記なのですから。ネタバレになっちゃいますが、映画は少女のひと夏の思い出でしたね。重なっているのですが、考えてみれば大違いなんです。 最後に見損ねたのですが、フローレンスを見送るときに、少女クリスティーンが胸に抱えていたあの本は何だったのか、気になるところでした。 三冊とも、日本では70年代に紹介された本です。当時20代だったシマクマ君は「ロリータ」の初版のデザインに胸がたかなり、「タンポポのお酒」の真新しい表紙が映し出されたシーンで、思わず涙がこぼれました(ウソですが)。 あれから40年以上の年月が流れたんですね。元町商店街から神戸駅にかけて、妙に気が沈んで困りました。 我が家にたどり着いてみると、玄関に「EIGHT DAYS A WEEK」というビートルズの1960年代のDVDが届いていました。ヤサイクンからの誕生日プレゼントのようなのですが、何だか話が合いすぎてるのに驚いて座り込んでしまいました。 いや、それにしてもありがたいことです。 監督 イザベル・コイシェ Isabel Coixet 製作 ジャウマ・バナコローチャ ジョアン・バス アドルフォ・ブランコ クリス・カーリング キャスト エミリー・モーティマー(フローレンス・グリーン ) オナー・ニーフシー(少女クリスティーン) ビル・ナイ(エドモンド・ブランディッシュ) パトリシア・クラークソン(ガマート夫人) 原題「La libreria」 2017年 スペイン 112分 2019・06・05・元町映画館no9 追記2019・10・31 秋も終わりになってパルシネマで、もう一回やっています。ああ、もう半年前かと、時のたつのに詠嘆してしまいますが、パルシネマのおにーさんがこの映画を気に入ったんだと思うと嬉しいですね。どうでもいいかもしれないのですが、謎解きしたくなる映画でした。まあ、半分は外れているのでしょがね 追記2019・11・04 パルシネマの上映にピーチ姫とチッチキ夫人が出かけたようです。 「やっぱりよかったわね。」 「二度目とちゃうの?戦う女のシリーズ二本立てやんな。」 「一本で帰ってきちゃった。」 「ああ、あ。弓を射るヘラクレスみたいな方は見んかったの?あれも結構オモロイのに。」 「本屋さんのが見たかったからええねん。イギリスの海岸地方ってええ感じやんな。」 「今日な、一緒に見てきてんけどね。気づいてへんと思うけど。ロケはみんなスペインやって知ってた?」 「ええっ、イギリスちゃうの?スペインって海あるの?」 「あるやろ、大西洋も地中海も。」 というようなわけで、ダブルツッコミでチッチキ夫人タジタジ。 追記220・05・11 7days7Coversというフェイスブックで流行っているチャレンジで「華氏451度」を紹介したのですが、ここでこんなことを書いていたのは忘れていました。ヤッパリ、以前にこの人は読んでいるようですね。最近読み返しておもしろかったんですが、最初から面白かったようです。 ボタン押してね! にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[映画 スペイン・ポルトガルの監督] カテゴリの最新記事
|