|
カテゴリ:読書案内「近・現代詩歌」
長田弘 「奇跡-ミラクル」(みすず書房)
ぼくは長田弘の良い読者ではありませんでした。詩も読もうとはしませんでした。最近読み終えた、ある小説に引用されていた詩が気になって、詩集「奇跡 ― ミラクル」(みすず書房)を手にとりました。天使がリュートをひいている絵が、白い表紙を飾っている美しい本でした。 巻頭に「幼い子は微笑む」という詩があります。つまらない講釈をする前に、読んでいただくのがよいだろうと思いました。 幼い子は微笑む 詩集を読み終わって、長田弘が2015年に亡くなったことを知り、詩人自身の死の二年前、東北震災の二年後に出版されたこの詩集の巻頭に、なぜ、この詩が置かれ、「奇跡」という詩が最後に置かれているのかわかるような気がしました。 詩集の二つ目の詩は「ベルリンはささやいた ― ベルリン詩篇」という詩のですが、その最後の数行をお読みください。 ベルリンのユダヤ人を運んだ この詩集には、このように、読み手に死を強く喚起させるベルリンを舞台にした詩が、いくつか載っています。 「幼い子は微笑む」にしても、最後の二行は死の側からつぶやかれた箴言めいたところがないわけではありません。しかし、最後に置かれた「奇跡」まで読み終えると、「死」をじっと見つめている詩人が、もう一度「生」へと、生きることを肯定する方向へと、視線を戻しながら、呼びかけていることに気付くのではないでしょうか。 奇跡 ―ミラクル アウシュヴィッツに送られた人の数を記した黒い鉄の銘板の上の紅いガーベラの花。 死者たちが帰ってくる彼岸の美しい朝、握り拳をパッと開いたように、青空に映える白モクレンの花弁。 それぞれ、生きているものの仕業であり、生きているもののあかしであることを、まず慈しめと。まず生きることだと詩人は言い残して逝ったようです。静かに生を肯定し続けてきた詩人の絶唱とも言うべき詩集でした。 この詩を知ったのは、以前、案内した「空にみずうみ」でした。佐伯一麦は作品の題名をこの詩の詩句から引用しているのですが、やはり、生の肯定と死者たちへの鎮魂が作家のこころを支えていたに違いないと思うのです。感想は題名をクリックしてみてください。 詩集に連分けはありません。読みやすいように少し分けて記載しました。(S) ボタン押してネ! にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2020.10.24 03:00:27
コメント(0) | コメントを書く
[読書案内「近・現代詩歌」] カテゴリの最新記事
|