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カテゴリ:読書案内「現代の作家」
吉田篤弘「つむじ風食堂の夜」(ちくま文庫) なんと、もう10年以上も前のことになってしまいました。実はこの原稿は以前高校生に案内したリニューアルなのですけれど、僕はその当時、とりあえず年間20号を目標にして、ノロノロやろうと思っていていました。 まあ、ともかくも「つむじ風食堂の夜」です。この小説の中にこんな会話があります。
登場人物たちは「月舟町」界隈に住む、売れているとはいえませんが「人工降雨の研究者」を自称して、町の人々から先生と呼ばれている作家とか、果物屋の桜田さん、古本屋の親父、主演の回ってこない舞台女優奈奈津さん、その他なのですけれど、彼らが毎夜「つむじ風食堂」に集まって食事をしたり、くたびれかけている人生を語り合ったりする、よくある話なのです。 しかし、僕の印象ではこの小説は凡百の街角人情小説(まちかどにんじょうしょうせつ)とは一味違って、少々角が立っていて面白かったのです。それがこの会話なのですが、これがなかったらこの小説に高校生を案内したりしなかったでしょう。 『ねぇ、先生』突然、耳元で桜田さんが大きな声をあげたので、私はあわててコップの水をこぼしそうになってしまった。 もちろん、町の人たちが、いつも「ここ」とか、「そこ」とかの話だけをしているわけではありません。人々は、普通の生活をしています。今では、どこにもない町のようになってしまった、この町で生きる一人一人の人間の生活を小説家は描かれていて、その描写によって、一人であることの孤独も、社会の中で暮らしていることの常識的な振る舞いの何たるかも忘れてしまった僕たちの、今の生活のうすっぺらさがさりげなく浮き彫りのされていくのが。この小説だといえるわけです。僕たち人間は、寄り集まることで種の延命を果たしてきた人類の末裔なのですが、他者に対する自然な信頼や、安心を失い始めている現在というのは、かなりヤバイ時代に突入しているのではないでしょうか。 宇宙の果てからみれば、フィンランドもこの国も隣同士という視点の大切さと、やっぱり、ここに「ちゃんといる」生活の大切さ、忘れていませんかね。 ところで、この小説は映画にもなっっておるようですね。興味のある人は、そっちの方もどうぞ。もっとも僕は観ていないので、何ともいえませんね。(S)2011/04/25 ボタン押してね! にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.08.18 15:12:03
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