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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2019.10.05
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​柴崎友香・田雜芳一「いつか、僕らの途中で」(ポプラ社)​


​​​ もう、二十年前になるのでしょうか、「きょうの出来事」で登場して以来、柴﨑友香が気に入っています。「春の庭」2014年の芥川賞​をとるまで追っかけでした。どこが、どう面白くてと問われると、よくわかりません。​​​

​​​​ 作家の保坂和志が、彼女の小説をほめていたことがありました。亡くなった批評家加藤典洋には「私がいなかった街で」について、「災後と文学」という評論の中に、かなり詳細な分析(「世界をわからないものに育てること」(岩波書店)所収)があります。お二人とも、ぼくがかなりミーハー的に影響を受けている人ですが、ぼくの柴﨑友香好みは、その前からでした。​​​​

​ もっとも、賞は貰ったものの「春の庭」が空振りしている印象で、それ以後は飛び飛びで読むという感じになっているのですが、そこまでは結構、まあ、いい年をしてという感じの追っかけでした。ところが、この作品、「いつか、僕らの途中で」は見落としていました。

 先日、明石の図書館の棚で初めて見つけて、何これ?という感じで借りてきました。柴﨑友香が文章を書いて、田雜芳一が絵を描いているのですが、要するに「マンガ」、あるいは「絵本」です。

 二人の登場人物が手紙を好感していて、周辺の人物の「独白」が挿入されているという体裁です。手紙を書いている一人は京都に住む女性で、大学院の学生。関西弁を使います。手紙の相手の男性は、去年から郷里山梨県に帰って、高校の教員をしています。町は特定されていません。ついでに言えば、二人とも名前はわかりません。手紙の本文だけが記載されているわけですから名前はいらないわけです。

 別々の場所に暮らす二人の手紙のやり取り。互いに「あなたがいない街」で暮らし、そこに「僕らの途中」の時間が流れています。

 絵柄はこんな感じです。


 ちょっと見にくいですが、手紙の本文が黒字で印刷されいて、それぞれの生活の情景が「絵」として描かれています。その絵の中に、手紙には書かなかった、ちょっとした日常のセリフが薄い青色で、「マンガ」のト書きのように、かすかに書き加えられています。

 二人の生活する部屋や街の風景、乗り物がそれぞれ具体的に「絵」として描かれ、フトしたつぶやきや、ちょっとした会話が、そこに書き込まれることで、読者は物語を立体的にとらえることができるというわけです。

 柴﨑友香という人は「あなたが知らない場所にいるわたし」、まあ、逆でもいいのですが、それを描くところに、才能が輝く人だと思うのですが、この作品は、まさにそういう作品で、田雜の「絵」と絶妙にコラボして、うまくいっていると思いました。
 かなり、初期、「きょうの出来事」の頃の作品らしいのですが、「絵」が描ければ、マンガ家の道もあったのかなと思いました。

 ところで、物語として「途中の僕ら」のたどり着く先はお読みいただくほかありませんが、この本を読んでいて引っかかったところがべつにありました。それが、上に貼ったページの絵です。

 絵の左隅に見えるのは京都の南座でしょうね、だからこの橋は四条大橋。京都の四条大橋の上空に、こんなに大きな機影で、旅客機が飛ぶことはあるのでしょうか。一番近い空港が関空か伊丹ですよ。

​この「マンガ」の中で、乗り物の絵はかなり重要なイメージ・シンボルなのです。自転車、バス、電車、ロープウェイ。飛行機も二人の頭上に、それぞれ一度づつ描かれます。何を描写しようとしているのかはよくわからなかったのですが、それ、以前に、ちょっとシラケました。まあ、気にすることではないのかもしれませんが。
 でも、面白いですよ。すぐ読めるし。
2019・10・05


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最終更新日  2020.10.17 01:51:45
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