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「荒地詩集1951」(国文社) 鮎川信夫「橋上の人」
鮎川信夫なんて詩人の名を今では高校生も大学生も知りません。そうなんですよね、教科書にも、もう出てきません。半世紀以上前、戦争が終わったばっかりの廃墟のような大都会の片隅で、集まって詩集を作って、詩人になった人がいたのです。田村隆一、黒田三郎、鮎川信夫もそんな人たちでした。彼らが書いた詩を載せた同人雑誌が「荒地」で、その雑誌を本にしたのが「荒地詩集」です。その詩集が1970年ころに復刊されて、その頃予備校に通っていた浪人生が、その本のなかから気に入った何行か、白い紙に書きだして四畳半の天井に貼っていました。寝転んで、上を見ると。そこに詩のことばがありました。 浪人生だった19歳の少年は、今、60を超えたのですが、ふと口をついて出ることばがあります。 「さよなら、太陽も海も信ずるに足りない」いったい、少年は、何に別れを告げたくてこんな言葉を天井に貼ったのでしょうね。あれから45年たったのですが、よく分からないのです。 「死んだ男」 鮎川信夫 文学研究者の証言によれば、詩の中で「Mよ」と呼びかけられている「死んだ男」とは作者鮎川信夫の親友森川義信。森川は昭和17年ビルマの戦線で戦病死した「荒地」の詩人です。この詩はいったい何時頃書かれたのか、おそらく戦後すぐのことであったろうと思います。「荒地詩集1951」(国文社)に載せられています。 同じ詩集の中に書かれている鮎川自身の試論の一説で、「僕たちが書いてきた詩の暗さについては、十年も前からいろんな人に指摘されつづけてきた。」と「荒地」派の人々の詩風がどんな風に受け取られてきたか説明しています。 確かに暗い。でも、この国の現代詩、特に戦後のそれは、おおむね暗くて、難解だから気にしてもしょうがないですね。 「石の中に眼がある 憂愁と倦怠に閉ざされた眼がある」 で始まる田村隆一の詩「皇帝」もあります。いづれまた案内しようと思っているのですが、いつになることやらです。(S) にほんブログ村 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.05.18 21:45:42
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