「2004年《書物》の旅 (その4)」湯本香樹実「夏の庭-TheFriends」(新潮文庫)
あのころ、中学生の夏休み読書感想文課題図書の定番の一冊だったのが、湯本香樹実さんの「夏の庭」(新潮文庫)です。1991年の新刊ですから、「2004年の本」というには少し古いわけですが、2004年当時のぼくにとっては、何だか妙に新しく感じた小説でした。読書感想文の定番作品というブームも丁度終わり始めていました。
「木山、おまえ、死んだ人、見たことないんだよな」
「あ・・・・ああ」
「オレもなんだ」
「だからどうしたんだよ」
「つまりさ」河辺は目を輝かせている。こわい。「ひとり暮らしの老人が、ある日突然死んでしまったら、どうなると思う」
「どうなるって・・・・ひとりぼっちで死んでしまったら・・・」
どうなるんだろう。
長年暮らした街のあっという間の変貌についていけない老人の姿や、仮設住宅の孤独死を目の当たりにしながら、16歳になった高校生がこの作品をどう読むのか。
「読書案内」にはこんなふうに書きました。
老人の死に対する子どもの興味という、考えてみればちょっと危ないテーマを真剣に描いた佳作。老人から立ちのぼるにおいに、死を直観する子どもの残酷な興味が生への共感へと変わるところがとてもよいと思う。児童文学というジャンルで流通した作品だけれど、大人が読めといいたい。地震のときに幼稚園だった人たちがどう読むのかとても興味がある。
数年前まで読書感想文の課題図書の定番。この人の作品は「秋のポプラ」(新潮文庫)というお婆さんと子どもの出会いを描いたものもある。
「今でも、定番やで。中学んとき読んだで。でもな、この子らの興味の持ち方は、ちょっと違うと思った。読んでると、だんだんそうなる感じやからホッとしたけど、そんなん、声かけて遊びに行ったらええんちゃうかって。ほっとかれへんやろ。」
「読書案内」を読んで、そんな一言をブッキラボーに口にした少年がいた。何だか救われた気がしたのを、ボンヤリ覚えている。地震は壊しただけではなかった、フト、そう思った。
2019・11・02改稿
追記2019・11・12
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