増崎英明・最相葉月「胎児のはなし」(ミシマ社)
「超」おもしろい本に出くわしました。産婦人科の先生、増崎英明さんに最相葉月さんがインタビューした「胎児のはなし」(ミシマ社)です。 増崎さんは「胎児医療」のエキスパートで、長崎大学の医学部病院の院長をなさっていた方らしいのですが、この本がはじめての出会いでした。
聞き手の最相葉月さんは「絶対音感」で評判になったのが、もう20年近くの昔のことなのですが、ぼくは、ちょっとキワモノ的な見方をしていました。
ところが、数年前、精神科のお医者さんである中井久夫さんへのインタビュー「セラピスト」が面白くて、すっかりファンです。
で、この本は最相さんが生徒、増崎さんが先生という設定のインタビューですが、驚きや感動だけでなく結構笑える内容になっているところが、この本の作り手のお手柄だと思います。
さて、内容ですが、読みながら、知ったかぶりで、同居人チッチキ夫人にした質問ごっこを再録してみますね?
第1問「赤ちゃんが羊水の中でしないことは次のうちのどれでしょう。」
(ア)夢を見たり、目を瞠ったりする
(ウ)ウンコをする
(エ)笑ったり泣いたりする
(オ)シャックリをしたり欠伸したりする
第2問「羊水の成分は、もともと何だったでしょう?」
(ア)オカーサンのおしっこ
(イ)オカーサンの血液
(ウ)オカーサンの汗
(エ)オカーサンの飲んだ水
第3問「赤ちゃんはひっきりなしにオシッコをしていますが、羊水がふえないのは何故でしょう?
(ア)子宮壁が吸収する
(イ)子宮に排泄口がある
(ウ)蒸発する
(エ)赤ちゃんが飲む
第4問「羊水の中で水中生活の赤ちゃんは肺の中まで水浸しですが、いつどこで、その水はなくなるのでしょう?」
(ア)破水と同時に吐き出す
(イ)胎道で搾りだされる
(ウ)出産と同時に空気に押し出される。
第5問「妻の出産に分娩室まで付き添う夫が、よくしてしまうことはなんでしょう。一つ選びなさ
(ア)泣いてしまう
(イ)怒ってしまう
(ウ)笑ってしまう
(エ)気を失ってしまう
(オ)出ていってしまう
第6問「生まれたばかりの赤ちゃんの顔に、オカーサンが手をかざして暗がりを作ると赤ちゃんはどうするでしょう?」
害7問「オカーサンが左腕で抱っこして頭を左の胸にもっていくと、赤ちゃんの機嫌がよくなるのは何故でしょう?」
面白がってばかりいても、キリがないのでこれくらいにしますが、実はもっとものすごい話が山盛りで、あっという間に読み終えてしまいます。
笑える話というのは、なんといっても、増崎先生が、かなり深刻な話でも、笑いながらしているということですね。ぼくが一番笑ったのは、ここですね。
最相「すみません、基本的な質問で恐縮ですが、おっぱいっていうのは、赤ちゃんが生まれてから出るものですよね?」
先生「うん。」
最相「なぜですか?なぜ妊娠中は出ないんですか?」
先生「いらんでしょ。」
ちなみに、最相さんは出産の経験がないので、この質問になるのですが、先生の答えが笑えるでしょ。モチロン、この後メカニズム説明がきちんとあるわけで、身近に経験のない読者にもよくわかるはずです。
胎児医療や、不妊治療の実態について、かなり深刻な話もあります。水中出産の危険性や、胎児にとってのアルコールやタバコの危険性についての厳しい口調のの注意もあります。しかし、その節々に、産婦人科の医師としての仕事に対する誠実さはもちろんですが、、何よりも「赤ちゃん」ひいては「人間」に対する愛情があふれている、おしゃべりなんです。それを聞き出した最相さんも立派ですね。
増崎先生はあとがきで三木成夫の「胎児の世界」(中公新書)に触れてこう書いています。
三木先生は「あとがき」に「母胎の世界は見てはならぬものであり、永遠の神秘のかなたにそっとしまっておこう」と書いています。四十年間を胎児の研究者として過ごしてきたわたしにも、同じ思いがあります。子宮の中は、宇宙や深海のように、いつまでも神秘の世界であってほしいのです。
三木成夫の「胎児の世界」は、40年前の本ですが、名著中の名著だと思います。現代胎児医療の最前線で活躍した増崎英明さんが、ここで、もう一度この言葉をくりかえしたことに、やはり胸をうたれるものがありました。
皆さんも、是非、おなかの中の「赤ちゃん」の「すごいはなし」を楽しんでください。
文中の問題の答え
問1(ウ)問2(イ)問3(エ)問4(イ)問5 目を開けてオカーサンをじっと見る。問6 オカーサンの心臓の音が聞こえるから。
追記2019・12・01
三木成夫「内臓のはたらきと子供の心」は、増崎さんのこの本と似ています。へ―って、感動する。ぼくの「案内」は適当ですが、「本」は素晴らしい。書名をクリックしてみてください。
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