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カテゴリ:映画 香港・中国・台湾の監督
フー・ボー 胡波「象は静かに座っている」元町映画館
上に貼ったチラシをご覧ください。 正面で遠くを見ている少年が、ウェイ・ブー。彼は今日、恐喝されている友達カイをかばって、事故とはいえ、人を一人殺しました。 横顔が写っている、少し近くを見ている少女がファン・リン。彼女は通っている高校の教員の「不倫」相手であることがネットで拡散し、怒鳴り込んできたその教員の妻と不倫相手の教員を金属バットで殴り倒しました。彼女はウェイ・ブーの同級生です。 帽子をかぶって、うつむいているように見える姿が写っている男がワン・ジン。彼は娘夫婦から老人ホームへ行くことを要請され、挙句、アパートから出ていくことを命じられている老人です。が、今日、彼は長年飼い続けてきた愛犬を、散歩の途中、金持ちの飼い犬にかみ殺されました。彼はウェイ・ブーの隣人です。 チラシの裏面に、ウェイ・ブーに話しかけてる男がいます。彼がこの町のチンピラ達を仕切っている青年ユー・チャン。 彼は昨晩、友人の妻だか、恋人だかと寝ました。妻の情事を知った友人は、今朝、ユー・チャンの目前でマンションの窓から飛び降りて死にました。 同じ、今日のことですが、ユー・チャンの弟が死にました。弟を殺した少年ウェイ・ブーを、漸くさがしだし、今、石家荘の駅裏の丘の上で「落とし前」をつけようとしているのが、この写真のシーンです。 「どこに行こうとしてた?」 ウェイ・ブーが庇った「嘘つき少年カイ」がピストルを持ってあらわれ、すべてを告白し、ユー・チャンを撃ちます。撃たれたユー・チャンが言います。 「おまえらはゴミだ」 カイはそう答えると銃口を自分に向けます。 銃声が夕暮れの空に響きます。 ようやく石家荘の鉄道駅に、ウェイ・ブー、ファン・リン、ワン・ジンの三人と、ワン・ジンの連れてきた孫の少女が揃います。ゴミだめのような「この世界」から掃き捨てられた三人です。集まった三人が求めているのはいったい何でしょう。 ウェイ・ブーが満州里の動物園の象の話をします。満州里は中国の北の果ての町です。そこの動物園の檻の中に座っている象に逢いたいとウェイ・ブーはいいます。 彼らは何を求め、どこに行こうとしているのでしょう。それにしても、今、ここから「出発」することのほかに、どんな「生き方」があるというのでしょうか。 しかし、ここまで来て、乗ろうとしていた列車は運休でした。そこから先の道行きのあてはありませんが、瀋陽に向かう夜行バスに乗るしか満州里に向かう方法はありません。 諦めて、その場を去ろうとする老人ワン・ジンに向かってウェイ・ブーが声をかけます。 「どこへ行く?」 そう答えると、孫の手を引いて駅から出ていこうとする老人ワン・ジンを追った少年が一言叫びます。 「行こう!」「『希望』はどこにあるのか?」 「『希望』はここにではない、地の果てでじっと座っている!」 「だからワン・ジン、あんたもあきらめるな!ぼくと一緒に行こう!」 ウェイ・ブーのそんな叫びが聞こえてくるようでした。スクリーンを見ている老人の涙が止まりません。 三人と小さな少女を乗せたバスが高速道路を走ります。まだ明けない闇の空にアフリカ象の雄叫びが響きわたりました。 パゥオー! ぼくのなかで2019年ベスト1の映画が決定した瞬間でした。 監督 フー・ボー 胡波 追記2020・01・01 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.09.04 00:24:47
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