|
カテゴリ:読書案内「社会・歴史・哲学・思想」
藤原正彦「国家の品格」(新潮新書)
まず最初にお断りしておきますが、ぼくは原則としてこのブログで案内する本について悪口は書かないことにしています。つまらないと思っている本を紹介しても、しようがないですからね。 この記事はその原則を破った例外記事です。今から15年ほど前にとても流行った本ですが、当時の高校生に「読めばいいけれど、流行りに騙されたらあきまへんで。」という気楽な気分で書いた記事をそのまま載せています。 15年たった今、世相はこの著者が乱暴に吐き散らしていた御託を「筋の通った意見」であるかのように祭り上げてしまいました。 事実に対して、ひたすら情緒的で、品格があるとはとても言えない文章を記したに過ぎない一冊の本が200万部を超える読者を獲得し、「品格」とかいう流行語まで作り出した本です。 ぼくには読み直したりする気は毛頭ありませんが、「呪い」にまみれた「御託」が市民権を得るに至る「歴史」に関心をお持ちの方にお勧めします。 なお記事は2006年、ブームが始まったころの「今」を想定してお読みください。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 街の本屋さんに立ち寄ると同じ本が山積みされています。流行り始めると、拍車をかけて積み上げられて行きますね。最近山になっているのが「国家の品格」(新潮新書)という本です。 イギリスから帰国後、私の中で論理の地位が大きく低下し、情緒とか形がますます大きくなりました。ココでいう情緒とは、喜怒哀楽のようなものではなく、懐かしさとかものの哀れといった、教育によって培われるものです。形とは、武士道精神から来る行動基準です。ともに日本人を特徴づけるもので、国柄ともいうべきものでした。 これが出発点にある主張です。例えばこの文章のにでてくる「情緒」という概念の説明ひとつにしてもかなり個人的な思い込みの定義ですよね。 で、その「情緒」を前提に、現代の社会を憂いた言葉がほぼ二百頁にわたって綴られているのがこの本なのです。 「アメリカの真似をして理屈が通っているからという正当性だけで、グローバリズムと強いもん勝ちのお金儲けに走るのは国を滅ぼす。」 おそらくそういうことが言いたいのだという雰囲気はあるのですが、読めども読めども、結局、なにが言いたいのか、ぼくにはわかりませんでした。 なんていうか、「みどりの黒髪は日本人で、茶髪はダメだ。日本人の品格がない。」みたいな個人的な思い入れを絶対化し、たとえ、その主張が多くの人の支持をうけるであろうからといって、本にして売るようなことは恥だとするような感覚こそが武士道精神ではあるまいかと思うのですが、そこのところの自分の振る舞いは見えない程度の「品格」らしいのです。 「こんな腰巻をつけて売らんかなと、品格も恥も忘れる本屋も本屋だ!」 と、まぁぼくは日本人であるコトに自信を取り戻すどころか、すっかり嫌気がさしてしまったという結末でした。 数学者の文章がこんなふうにお馬鹿なものばかりではないことは言い添える必要がありそうですね。「ひとりで渡ればあぶなくない」(ちくま文庫)、「エエカゲンが面白い」(ちくま文庫)の森毅なんていう数学の先生は、実にエエカゲンそうにものを言っているのですが、きちんと世界を踏まえてかかれています。内容は、ユーモアたっぷりなうえに、シンプルで明快です。 藤原正彦さんが大好きな岡潔だって、「春宵十話」(毎日新聞社)なんかで、保守的な主張はしていますが、こんなぶざまな文章は書いていません。数学に情緒の必要を説いたのは岡潔なのですが、なるほどとわかることを天才的なひらめきの文章で書いていたと思いますよ。どうせ情緒にかぶれるなら、なかなか手に入りにくい本だけれど、ぼくとしては、そっちがオススメですね。やれやれ・・・。(S)2006・05・26 追記2020・02・25 ボタン押してね! ボタン押してね! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2020.12.11 08:52:02
コメント(0) | コメントを書く
[読書案内「社会・歴史・哲学・思想」] カテゴリの最新記事
|