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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2020.05.08
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​佐藤正午「鳩の撃退法(上・下)小学館文庫​

 

​​​ 今年も冬の・芥川賞・直木賞の発表がありました。。芥川賞が古川 真人「背高泡立草」、直木賞が川越 宗一「熱源」でしたね。芥川賞は、今読んでいるところですが、直木賞は人気らしくて図書館で借りられません。
 直木賞といえば一昨年の秋に受賞したのが佐藤正午「月の満ち欠け」(岩波書店)でした。
「岩波書店の本が直木賞ですか!?」
 ぼくは、内容はともかく、そこに、つまり「あの岩波書店が」に、驚いたのですが、受賞直後に続けて出たのが「鳩の撃退法 (上・下)」(小学館文庫)でした。糸井重里「こんなの書けたらうれしいだろうなぁ。」というキャッチコピーを腰巻にして10万部売れたそうです。
 まあ、ぼくも糸井のコピーにのせられて、amazonで安く買おうとしたらいつまでたっても値が下がりません。しようがないから新刊を買ってしまったというわけで、感想は?となりますね。
​​​
​ 糸井重里という人を、ぼくは結構信用しているのですが、彼は、何をそんなに褒めているのかというのが、読後のぼくの最初の感想でした。文庫本の下巻の最後に彼が「むだ話」と称して感想を書いています。​

 読み進めていくにしたがって、わたしにとって「鳩の撃退法」の「感じいい」は、「かっこいい」になっていった。この作者は、「書くことが面白くてしょうがないのだ」というふうに読めてしまうのだ。
 羽生結弦は、思うようなスケーティングができたとに晴れ晴れとした笑顔で両手を大きく広げる。その背景に血のにじむような練習があったにしても、そこのところよりも笑顔のイメージに、人びとは注目して記憶する。私たちが、魅せられるように文章を追いかけている時間は、羽生選手のスケートの軌跡を追っているときと同じものなのだと、わたしは思っている。
 それは、ストーリーや構成といった採点しやすい要素よりも、ひとつひとつのことばを選び、文章の中に読者を引き込んでいく「かっこよさ」のほうが大事だということに他ならない。複雑に絡んだ登場人物たちの関係や行動にどれだけ整合性があっても、ストーリーにどれほど必然性や意外性が仕組まれていていたとしても、文章がかっこよくなければ、ただの「伝えるための道具」にすぎない」。佐藤正午「鳩の撃退法」が、わたしの憧れである理由は、とにかくすべてのことばの並びが、「感じがよくてかっこいいから」である。


 上手いこと言いますね。
​まあ、絶賛といっていい「むだ話」なわけです。内容にまったく踏み込まないところが「広告」屋さんの手口ですかね?
 じゃあ、あなたはどうなの?という訳ですが、読み終わってみて糸井重里がいいたいことの、半分は納得しました。
 
ぼくは「毎月本を2冊読んで感想をおしゃべりする会」という集まりに参加していて、この年のこの月の課題がこの本でした。
 ところが集まった皆さんがおおむね首をかしげていらっしゃるんですね。それが一番面白かったのですが、皆さんの疑問の理由は簡単です。
 この小説は、最後まで読んでも「鳩の撃退法」という題名の意味が謎で、それが解けないのです。「鳩」が意味する謎は、半分ほど読めばわかります。でも「鳩の撃退法」の意味が解らない。何故でしょうね。
​​​​​ この小説は「探偵が書き手である」、ないしは「小説家が探偵役で渦中に巻き込まれた事件を書いている小説」であるという、今どき、ありがちといえばありがちな設定なのです。
 作中の小説家が現在進行中の事件を小説として書いています。小説として描写されているドラマは必ずしも現実の事件の「そのまんまの描写」ではありません。だって今、書かれつつある小説なのですから。
 作家佐藤正午が書く「鳩の撃退法」という小説の中に登場人物である「小説家」が書く「作中小説」である「鳩の撃退法」があるという仕組みです。
 「作中小説は」登場人物が遭遇する事件をもとに書かれているのですが、その上で、作家佐藤正午によってつくられた話であるという意味で二重にフィクション化されてしまうわけです。
 そう読んでいくと「作中小説」の「鳩」が何を意味しているのかということと、佐藤が書いた小説で「鳩」が何を意味しているのかということの間に、ずれが生まれてしまいますいます。その結果、読者は作中小説を最後まで読んで「鳩」がどう撃退されたのさっぱりわからないし、物語は終わったのに謎は解けないことになります。
 ここで注意してほしいのは、糸井の話の中の例で出てきた羽生君はこの場合佐藤正午という作家であることです。
 で、全部を作っている佐藤正午「晴れ晴れとした笑顔で両手を大きく広げ」ている理由はなんなんだ、これが「おしゃべりの会の皆さん」の困惑の理由だったと思います。
​​​​​
 糸井はむだ話の最後にこう書いています。​
 そして、ちょっと想像するのだ。作者本人の考える面白さとは「なんにも言ってなくても、ずっとおもしろく書き続けられて、ずっとおもしろく読めちゃうもの」なのではないかなぁと。​
​ ​作家は小説から謎を撃退したかったのでしょうね。きっと、書いていて楽しくてしかたなかったにちがいありません。しかし、だからでしょうか、小説は腰砕けのミステリーになってしまいました。ミステリー・ファンが困惑するのもよくわかります。だってこの小説はストリーの謎を解くミステリーじゃないんです、きっと。
「じゃあ、何なんだ?」
 まあ、そこが問題なんですよね。というわけで、ぼくの感想は、糸井重里に半分だけ賛成かな。まあ、お読みになってください。あんまりおもしろいとも思えないかもしれませんが。(S)

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最終更新日  2020.12.08 13:35:59
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