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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2020.07.08
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​​​​ ​​​岡井隆・馬場あき子・永田和宏・穂村弘「新・百人一首」(文春新書)


 どうしてこの本を読もうと思ったのか、よくわからないのですが、新コロちゃん騒ぎの間に図書館に予約していました。「新・百人一首」という書名の企画は、多分これまでにもあります。​​

 ぼくが知っているものでは丸谷才一「新・新百人一首(上・下)」(新潮文庫)ですが、丸谷の企図も、それ以外の試みも古典和歌が対象でした。
 本書の新しさは、明治から現代までの歌人100人です。近現代の、特に、比率として戦後の歌人の短歌を多く選んでいるところが特徴です。
 ​歌を選んでいるメンバーも、御存命の歌人としては、最もメジャーな方たちで、文句はありません。
 選歌の基準について馬場あき子さん「カルタにして取れる歌」とおっしゃっていて、教養としての現代短歌というのでしょうか、楽しく読めるアンソロジーになっているのかもしれません。

 しかし、近現代、特に現代短歌を「カルタ会」の場で読み上げるのは、なんだか自己矛盾を感じさせるのですが誤解でしょうか。少々「かったるい 」、まあ、平和なうたが多いような気がしました。
 興味をお持ちの方は、どんな百人のどんな歌が選ばれているのか、手に取ってお読みいただくのがよろしいのではないでしょうか。

 「というわけで」、というわけでもありませんが、我が家の同居人チッチキ夫人と二人でこの本の中に引用されている歌から十首づつ選んでみました。二人の十人一首というわけで、二十人一首ですね。
 生まれの早い順に並べてみるとこうなりました。
江戸

正岡子規1867年―1902年 34歳)
 瓶にさす 藤の花ぶさ みじかければ たたみの上に とどかざりけり                     「竹乃里歌」 クマ​
​ ​やはり近代短歌といえばこの人を外すわけにはいきません。ただ一人の「江戸」生まれでした。年齢は歌人が亡くなった時の御年です。下段のカッコは所収歌集、「クマ」は選んだ人です。

明治

斎藤茂吉1882年―1953年 70歳)
 のど赤き 玄鳥ふたつ 屋梁にゐて 足乳根の母は 死にたまふなり 
                        「赤光」 クマ
土岐善麿1885年―1980年 94歳)
 あなたは勝つものとおもってゐましたかと老いたる妻のさびしげにいふ                       「夏草」 
北原白秋1885年―1942年 57歳)
 君かえす 朝の舗石 さくさくと 雪よ林檎の 香のごとくふれ 
                         「桐の花」 チ・クマ
石川啄木(1886年 26歳)
 やはらかに柳あをめる
 北上の岸辺目に見ゆ
 泣けとごとくに  
                        「一握の砂」 チ・クマ
土屋文明1890年―1990年 100歳)
 にんじんは 明日蒔けばよし 帰らむよ 東一華の花も 閉ざしぬ                       「山下水」
釈迢空(折口信夫)1887年―1953年 66歳)
​ 葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道 を行きし人あり 
                        「海やまのあひだ」クマ
​​​ ​斎藤茂吉石川啄木よりも年上だったことに驚きました。​白秋​​啄木​のこの歌は満票(二人の、ですが)でした。
 この辺りの歌は仕事でなんども出会っています。何度も読むということは、好きになるということとつながっているのでしょうか。​
​​大正

山崎方代
1914年―1985年 71歳)
 こんなにも 湯呑茶碗は あたたかく しどろもどろに 吾はおるなり                        「右左口」チ・クマ
清水房雄1915年―2017年 101歳)
 三人の子三人それぞれにかなしくて飯終るまで吾は見てゐる  
                               「一去集」
森岡貞香1916年―2009年 93歳)
 けれども、と言ひさしてわがいくばくか空間のごときを得たりき 
                               「百乳文」
塚本邦雄1920年―2005年 84歳)
 日本脱出したし 皇帝ペンギンもペンギン飼育係も
                          「日本人霊歌」チ・クマ
中条ふみ子1922年―1954年 31歳)
 出奔せし夫が住むといふ四国目とづれば不思議に美しき島よ 
                              「乳房喪失」
前登志夫1926年―2008年 82歳)
 この父が 鬼にかへらむ 峠まで 落暉の坂を 背負はれてゆけ 
                               「霊異記」
​​ ​山崎方代という​​人は「ほうだい」と読むそうですが、男性歌人です。「口語」というのでしょうか、ことばが「やわらかい」のが印象的です。
 塚本邦雄の歌に初めて出会った時の驚きは今も忘れませんが、これを国語の授業で扱うのは至難の業でしたね。
​​​​​​昭和(戦前)

尾崎左永子1927年 93歳 存命)
 とどろきて 風過ぎしかば 一呼吸 おきてさくらの ゆるやかに散る 
                             「星座空間」
寺山修司1935年―1983年 47歳)
 海を知らぬ 少女の前に 麦藁帽の われは両手を ひろげていたり 
                      「空には本」チ・クマ
 
岸上大作1939年―1960年 21歳)
​ 装甲車 踏みつけて超す 足裏の 清しき論理に 息をつめている 
                        「意思表示」クマ
​​
​​​​​ ​寺山修司の「レトリック」と、岸上大作の「清冽」が、二十歳の頃の「短歌」との出会いの記憶です。特に岸上「意思表示」は単行本を買ったように思います。それにしても、21歳の「青年」だったのですね。
 ぼくは「遅れてきた青年」でしたが、そういう時代だったのでしょうか。
​​​​​昭和(戦後)

 ​
花山多佳子1948年 72歳 存命)
 プリクラの シールになって 落ちてゐる むすめを見たり 風吹く畳に 
                                「空合」
島田修三1950年 69歳 存命)
 ボケ岡と 呼ばるる少年 壁に向き ボールを投げをり ほとんど捕れず 
                             「晴朗悲歌集」
永井陽子1951年―2000年 49歳)
 ひまはりの アンダルシアは とほけれど とほけれどアンダルシアのひまはり                 
                       「モーツァルトの電話帳」クマ​​
水原紫苑(1959年 61歳 存命)
 われらかつて 魚なりし頃 かたらひし 藻の蔭に似る ゆうぐれ来たる 
                             「びあんか」クマ
穂村弘1962年 58歳 存命)
 サバンナの 象のうんこよ 聞いてくれ だるいせつない こわいさみしい 
                         「シンジケート」チ・クマ​​​
​​​ ​同時代の歌人ですね。人気の俵万智さん加藤治郎さんが入っていませんが、「新・百人一首」には入っています。チッチキ夫人花山多佳子さん島田修二の歌を選んでいるのに、何となく納得しました。​​​
​ 水原紫苑さんは、最近のぼくのひいきですが、還暦を越えていらっしゃるのに驚きました。
 並べ終わって気づきました。二十一首ありますね。はははは。というわけで、「二十一人一首」、お楽しみください。

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最終更新日  2020.12.01 09:28:35
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