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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2020.07.22
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 オリバー・チャン「淪落の人」元町映画館​​

七月になって天気が悪い日が続いています。六月には元気に映画館徘徊を再開したのですが、ピタリと外出がとまり、ひたすら家の中でごろごろしていました。
 今日は出かけようと目覚めるのですが、午前中の雨模様に気分がそがれてしまう毎日が続いています。
​ まあ、そういう暮らしなのですが、昨晩、元町映画館のスケジュールを調べていて、予告編で見ることに決めていたこの映画が最終日なのに気付きました。「淪落の人」です。​
 昨年、チャン・ジーウン監督「乱世備忘 僕らの雨傘運動」というドキュメンタリーをこの映画館の二階の小部屋で見て以来「香港」が気にかかっています。
 つい先日も、この運動の指導者が「香港」を、やむなく離れたというニュースを見て落ち着かない気持ちになったところです。
​​​​ チラシによれば、この映画の主演アンソーニー・ウォンは、この運動の支持を表明し中国映画界からパージされている人のようです。そのアンソニー・ウォンがノー・ギャラで参加した映画らしいのです。
 これは、やっぱり、見ないわけにはいかないなとは思ったのですが、朝起きてみると開映時刻に間に合うかどうかとか、クヨクヨし始めて中々席が立てません。​​​​
「行くの?行かないの?」
 チッチキ夫人から、叱咤の一声をいただいて、ようやく立ち上がりました。というわけで、なんとか元町映画館にたどり着きました。受付で、なじみのオネーさんとオニーさんに「お久しぶりです!」と声をかけてもらって、ちょっとホッとして席に着きました。​
 偶然の事故で半身不随になり、妻や家族からも、雇っていた家政婦からも捨てられた、もう、老人というべき年齢の男性のもとに、新しい家政婦がやってきます。
 フィリピンから「理不尽」なDV男との離婚資金と家族の生活費を稼ぐために「香港」に出稼ぎにやって来た、やせっぽちの若い女性です。
 老人男性は電動車椅子に乗らない限り、寝返りを打つこともできません。ベッドから車椅子に移ることも、一人ではできません。この役で、役者にできる演技はベッドに寝ているか、ベッドから落ちて動けないまま天井を見つめて夜を明かすか、車椅子に乗れば乗ったで、同じ姿勢で操作するか以外にはありません。
 ホアキン・フェニクスが同じような役柄を元気に演じていた「ドント・ウォーリー」という映画を思い出しましたが、この映画ではアンソニー・ウォンでした。​
 ありきたりな言い方ですが、素晴らしい「眼の演技」でした。自らの人生の、絶望的な「不如意」に対して、我が儘な「伏し目」、不機嫌な「三白眼」で対処するしか方法を持たなかった老人が「目の輝き」をかえていく映画でした。
​​​ チラシでも、予告編でも取り上げられているシーンがあります。充電が切れて止まってしまった車椅子を家政婦エヴリン(クリセル・コンサンジ)が押して坂を上るのですが、「加油!スーパーウーマン!」リョン・チョンウィン(アンソーニー・ウォン)が笑顔で叫ぶこのシーンにこそ、この映画の「よろこび」が輝いていました。やはりこういうシーンがぼくは好きです。
​​​
​​​ 映画が2018年に大阪のアジアン映画祭に出品された時につけられた邦題は「みじめな人」だったそうです。原題を見れば「淪落人」、英訳はStill Humanとなっています。​​​
​​ ​​「貧困」、「出稼ぎ労働者」、「身体障害」、「DV」、「老人」、「女性」、「棄民」、重層的な「みじめさ」にさらされ、共通の「言葉」も持たない二人の人間が「家政婦」と「雇い主」という関係で出会います。
 「見下す人」と「見上げる人」を作り出している二人を取り巻く社会は「みじめな」二人が「人間」として出会うことに無関心です。
 そんな「出会い」の二人をどうすれば「出会う」ことができるのか。見終えてみれば、監督のオリバー・チャンが何を語るためにこの映画を撮ったのは明らかだと感じました。
​​​
​​ 「人間である」ことの崖っぷちに生きることを強いられている「みじめな人」Still Human=それでも人間」であり続ける「希望」の可能性はどこにあるのでしょうか。
 映画は厳しい目つきの雇い主が手抜きの掃除をする家政婦を見つめることから動き始めます。しかし、重度の身体障害者である雇い主こそが、住み込みで介護するフィリピン人の家政婦に「すべてを見られる」ことから逃れることはできません。
 見る・見られるの相互性が、普段は見ることができない「恥辱」や「哀しみ」をさらけ出してしまいます。
 しかし、互いが、絶望を深く知るからこそ、相手の「哀しみ」を「見る」ことが、自らの「孤独」の殻を破り始めるのです。そして、そこから「未来」が生まれます。
 無口で無表情な家政婦とギョロギョロと相手を探り続ける老人の二人を映し続ける意図はそこにあると思いました。
​​
 細腕のDV被害者の女性が半身麻痺の老人の重い車椅子を押し、老人が世界に向かって「よろこび」にみちた叫びをあげます。​​​​​
​​​「加油!スーパーウーマン!」
 深い絶望にさらされた弱者の連帯にこそ「未来」は宿っています。「香港」の若い女性映画監督が、「自由」を叫び、その結果、仕事を奪われた俳優を主役に据えて、素朴な話法で「香港」の、そして人間「希望」を語っている映画だと思いました。
 「淪落の人」の手助けによって、若い家政婦が「夢」への旅立ちを果たす結末はありがちですが、別れる二人の表情が、ともに「哀しい」ところに、いたく共感しました。​​
 引っ込み思案を叱咤してやって来た甲斐がありました。拍手!
 監督 オリバー・チャン

 製作 フルーツ・チャン
 脚本 オリバー・チャン
 撮影 デレク・シウ
 美術 コニー・ラウ
 衣装 マン・リンチュン コーラ・ン
 編集 オリバー・チャン  ウィルソン・ホー
 キャスト
  アンソニー・ウォン (リョン・チョンウィン:下半身麻痺の主人公)
  クリセル・コンサンジ(エヴリン・サントス:家政婦)
  サム・リー (ファイ:友人)
  セシリア・イップ(リョン・ジンイン:妹 )
  ヒミー・ウォン リョン・チュンイン:息子) ​

2018年・112分・香港
 原題「淪落人」「Still Human」
 20200717元町映画館no49


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最終更新日  2024.01.28 22:22:16
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