是枝裕和「真実」パルシネマ「女優」カトリーヌ・ドヌーブをカンヌのパルムドール監督是枝裕和が撮った映画だそうで、話題になったころから興味津々だったのです。ところが、コロナ騒ぎのせいだったかどうかわからないのですが、いつ封切られたのか気付かないまま終わっていました。それをパルシネマがやるというの見ないわけにはいきません。
「カトリーヌ・ドヌーブの最新作、監督、是枝裕和やけど、見に行く?」
「是枝って万引き家族の人?」
「うん、海街の人。」
「私、やっぱり大きくなったドヌーブって見たくないわ。」
「そんなこと言うたら、アンタも大きくなったやん。」
「それはええねん。あきらめてるから。カトリーヌ・ドヌーブはアカンねん。是枝いう人も、もうひとつやねん。理屈っぽいいうか・・・。」
というわけで、一人でやって来たパルシネマでした。
女優カトリーヌ・ドヌーブが「女優」をやっていました。役に名前がついていますが、カトリーヌ・ドヌーブはカトリーヌ・ドヌーブであって、それ以外ではありません。ただの錯覚ですが、ドキュメンタリーかと思わせる映画でした。
是枝監督が何故カロリーヌ・ドヌーブを、今、撮ったのか?
まあ、そういう疑問に微妙に答えているような、答えていないような映画でしたが、多分「女優」という存在そのものが撮りたかったのだろうというのが、ぼくの結論でし10た。
「万引き家族」の樹木希林や坂本さくらの映像の動きの中に輝いているように見えた、「女優」の姿を映し出すことが、この映画ではメイン・テーマなのだろうなと思いました。
わけのわからないことを言っていますが、じゃあ「女優」ってなんなのですかということになります。
多分、是枝監督が描きたかったのは「スクリーン」の上に堂々と姿を現す、演技や生身の生活、過去の映像とは切り離されている「存在」としての「女優」そのものだったのではないでしょうか。
やたらと吸い続けるシガレット、ダルさを漂わせるセリフ回し、隠しきれない太ってしまった身体と老い、実生活そのものを臆面もなくさらけ出しているように見えながら、それでもなおかつ、スクリーン上で「女優」として存在することは可能なのか、そんな問いに監督は挑んでいるようなのですが、カトリーヌ・ドヌーブ自身は、そんな問いはどこ吹く風とばかりに「女優」であったというのがこの映画だったと思いました。
監督が、おそらく、対照化のために配置したのが、得意の子役です。孫娘シャルロットを演じるクレモンティーヌ・グルニエです。
「万引き家族」でもそうでしたが、この映画でも「子役」はとてもいい味で存在していました。父親役のイーサン・ホーㇰとの絡みも記憶に残る細部とでもいうべきシーンを作り出していました。
しかし、監督のそうした工夫が、なんだか、かえって映画を小さく見せてしまうほどに、カトリーヌ・ドヌーブの存在感は圧倒的でした。クレモンティーヌ・グルニエという少女がおばあちゃんのようになるには、何年かかるのでしょうね。
映画と現実、演技と俳優、それぞれのズレの中に「真実」をさぐるという映画の「論旨」を、「小賢しい」とあざ笑うかのように、一人の女優の「映像」が吹き飛ばしてしまった、そんな印象の映画でした。
いやはや、「大きくなった」カトリーヌ・ドヌーブ、76歳、大したものです。まあ、監督はやっぱり、少々理屈っぽかったのも時事ですね(笑)。
監督 是枝裕和
脚本 是枝裕和
製作 ミュリエル・メルラン 福間美由紀 マチルド・インセルティ
撮影 エリック・ゴーティエ
美術 リトン・デュピール=クレモン
衣装 パスカリーヌ・シャバンヌ
編集 是枝裕和
音楽 アレクセイ・アイギ
キャスト
カトリーヌ・ドヌーブ(女優:ファビエンヌ・ダンジュヴィル)
ジュリエット・ビノシュ(娘・脚本家:リュミール)
イーサン・ホーク(娘の夫・俳優:ハンク・クーパー)
リュディビーヌ・サニエ(アンナ・ルロワ)
クレモンティーヌ・グルニエ(孫娘:シャルロット)
マノン・クラベル(マノン・ルノワール)
アラン・リボル(リュック)
2019年・108分・フランス・日本合作 原題「La verite」
2020・07・24 パルシネマno29
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