|
カテゴリ:読書案内「現代の作家」
大島真寿美「ピエタ」(ポプラ社)
大島真寿美という作家の「ピエタ」(ポプラ社)という作品が、八月のはじめころから借りっぱなしになっていたのですが、ようやく読み終えました。 読み終えたのはいいのですが、何故、この本を図書館から借りだしてきて、読んだのかがわかりません。本当にボケ始めたのかと不安になりながら著者の来歴を調べていて、思い出しました。 昨年の冬、2019年1月発表の第161回直木賞受賞作「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び」の作家の作品だったのです。2020年の夏の直木賞が発表されて、その作品が、何となく気になって図書館を検索すると貸し出し中だったので、同じ作家の「ピエタ」を予約したというわけです。 「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び」は、評判になった「宝島」と「熱源」という、まあ、それぞれ「アツイ」お話しなのですが、その谷間で受賞しているところに、ちょっと興味がありましたが、読んでいないので何とも言えません。 さて読み終えた小説「ピエタ」についてですね。 まず、ピエタという言葉ですが、ミケランジェロの彫刻で有名ですが、磔刑のキリストが十字架から降ろされた時に、母マリアが彼を抱き受けた様子を描いた絵画や彫刻の一般的な呼び名です。 ぼくは若いころに京都の美術館でミケランジェロの「ピエタ」と「ダビデ」を見た記憶があります。レプリカだったのか、本物だったのか定かではありませんが、「ダビデ」についてはバカでかかったという記憶しかありませんが、「ピエタ」の悲しく美しい印象は、例えば、本書の題名を見て「あ、あれか」という感じで残っています。 作品の「ピエタ」は、17世紀、ヴェネチアに実在した(今もあるのかどうかは知らない)ピエタ慈善院(Ospedale della Pietà)の名前をとってつけたようです。孤児や捨て子を育て、教育するキリスト教の宗教施設ですね。 この作品には「四季」というヴァイオリン協奏曲で、まあ、誰でも知っているアントニオ・ヴィヴァルディという作曲家が登場します。 彼が17世紀の初頭、この慈善院の音楽院で子供たちに音楽を教えていたというのは歴史的事実で、小説は彼の「調和の霊感」L'estro Armonicoという合奏曲の、いわば誕生秘話を語った物語でした。 慈善院に捨てられ、そこで育った女性エミーリアを語り手とした一人称小説です。 物語は捨て子のエミーリアが、のちに音楽院の生んだ天才ヴァイオリニストと歴史に名を残したアンナ・マリーアと慈善院の隣り合ったベッドで、孤児同士として初めて出会うところから始まります。 二人はヴィヴァルディ先生の秘蔵っ子として成長しますが、物語は先生の死を契機にして展開し始めます。先生が残していった「謎」を、先生が愛し、先生を愛した少女たちが解く「物語」といえば、当たらずとも遠からずだと思います。 登場人物はアントニオ・ヴィヴァルディ、彼の家族、天才ヴァイオリニスト、アンナ・マリーア、貴族の娘ヴェロニカ、先生の秘密の愛人で、当時コルティジャーナと呼ばれていた高級娼婦クラウディアといった面々です。 調べたわけでありませんから、当てずっぽうですが、語り手のエミーリアとヴェロニカ以外の登場人物は実在の人々だったのではないかというのがぼくの見立てです。 作家がヴィヴァルディと、当時のベネチアについて、かなり丁寧に調べ上げて書いた「時代小説」のようでした。 ぼくの好きな作家にベネチア、いや、イタリアを舞台に「時代小説」を書いて世に出て、今や、大家となった塩野七生がいます。この大島真寿美という人もイタリアなのかと思いましたが、豈はからんや、直木賞受賞作は、時代は同じ18世紀ですが、「江戸」を舞台にした作品らしいですから、そういうわけではなさそうです。 ともあれ、「時代小説」の新しい書き手が世に出たようです。この作品の「ムード」で時代と都市を書いているニュアンス、ページ数の割に同じことの繰り返しを感じさせる冗長さには、少々引っ掛かりましたが、舞台が「江戸」に変わるとどうなるのでしょう。とりあえず、直木賞作品を読んでみないとしようがなさそうです。 大きなお世話ですが、ヴィヴァルディ先生が少女たちに残していった謎の答えは、すべての秘密を知っているゴンドラの漕手、老ロドヴィーゴが歌う「ゴンドラの歌」の、こんな一節にありました。 よりよく生きよ、むすめたち。 最後に、この「ことば」にたどり着いたところに、この作品の人気の秘密があると思いました。上の写真の表紙に座って描かれている二人の「むすめたち」が、作品の中の誰と誰なのか、気になり始めた方には読んでいただかなければしようがないですね。 ボタン押してね! ボタン押してね! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2020.10.02 22:53:23
コメント(0) | コメントを書く
[読書案内「現代の作家」] カテゴリの最新記事
|