「100days100bookcovers no30-4」(30日目その4)
上田岳弘『ニムロッド』(講談社)5、5冊目が上田岳弘の小説『ニムロッド』(講談社)です。
KOBAYASIさんは、現実世界に周辺=地理的フロンティアが亡くなった今、資本主義は終わるという趣旨の文を引用されていましたね。
ところが、もうすでに、人間の想像力と欲望は地球外フロンティアにも仮想世界にも手を伸ばしているのではないでしょうか。
宇宙も仮想世界も無限大。人間がどこまで欲望の翼を広げるかというところにきているのかな。現実世界でも、コロナで世界の実態経済は参っているはずなのに、日経平均とかの株価は実体経済と乖離しているらしい。こんな時も人々の欲望は経済システムのエネルギーになっているのでしょうか。
この本を今回選んだのは、主人公が「ビットコインを掘る」仕事をしているからです。
「資本主義におけるシステムサポートそのものだからだよ。ビットコインを掘る作業は。」
と上司に言われ、
「他者が欲しがるからより欲しくなる。自然な欲望」
のシステムサポートをしているのです。
あとは二人の人物が登場します。一人は外資系の証券会社で高収入を得ている主人公の恋人。もう一人は、現在は名古屋にいるので、主人公(東京にいる)とはもっぱらメールで繋がっている「ニムロッド」と自称する元同僚の男性。
前半はニムロッドがWikipediaそのままの「駄目な飛行機コレクション」を主人公にメールしてきて、
「だめな飛行機があったからこそ、駄目じゃない飛行機が今あるんだね。」
「ところで今の僕たちは駄目な人間なんだろうか?いつか駄目じゃなくなるんだろうか?人間全体としてだめじゃなくなったとしたら、それまでの人間たちが駄目だったということになるんだろうか?でも駄目じゃない、完全な人間ってなんだろう?」
とか言って、いくつも哀しいほど馬鹿げた飛行機を紹介していきます。
恋人は以前妊娠中に胎児の染色体異常のために中絶し離婚しています。彼女は駄目な胎児を生まないことを選び、まだ細胞段階の胎児を殺しました。それは、駄目じゃない胎児を望む欲望があったからではなかったかと私は考えました。
しかし、彼女は子どもを殺したら、もはや駄目じゃない子どもを望む欲望もなくなってしまっていました。
人間は駄目じゃなくて、欲望もなくなったらどうなるんだろう。
それは、ニムロッドが後半に書くSF小説に表現されているようです。
この小説内小説が「ニムロッド」という旧約聖書の中の人物名と大きく関わっていて、その神話の意味するところこそ人間の未来を指し示しているように感じました。 大変遅くなってすみません。思いつくまま書き散らかしてしまいました。次がSIMAKUMAさんだとつい甘えて勝手しましたが、よろしくお願いいたします。
E・DEGUTI・2020・07・14
(これにて、DEGUTIさんによる「100日100カバー30日目」は終了です。長いので分割して掲載しました。前後に関心をお持ちの方は「その1」・「その2」・「その3」をクリックしてください。)
追記2024・02・02
100days100bookcoversChallengeの投稿記事を 100days 100bookcovers Challenge備忘録 (1日目~10日目) (11日目~20日目) (21日目~30日目) (31日目~40日目) (41日目~50日目)というかたちまとめ始めました。日付にリンク先を貼りましたのでクリックしていただくと備忘録が開きます。
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