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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2020.11.05
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「100days100bookcovers no32」(32日目)
​ヴィクトール・E・フランクル『夜と霧 新版』(みすず書房)​
​​​​​ 資本主義、経済学から文学へと​DEGUTIさん​が1冊で収まらず5冊もの書籍を紹介した後、SIMAKUMAさんは1冊ですべての領域を網羅する​「狐が選んだ入門書」(山村修著、ちくま新書)​を選びました。​
​​​ 「言葉の居ずまい」、「古典文芸への道しるべ」、「歴史への着地」、「思想史の組み立て」、「美術のインパルス」という興味深い5章立てで構成されたこの本は、本棚に置きたい1冊ですね。
 ​山村修さん​の大学図書館司書というお勤めや、勤務の傍ら「狐の書評」という匿名書評を連載されていたことなど、書物だけでなく著者にも興味が湧きました。まるで大学で教鞭を執りながらあちこち徘徊し、精力的にブログで発信されるゴジラ老人さんのようです。​​​

​​​
​​ さて、私自身がさまざまな評論に主体的にかかわり始めたのはそんなに昔のことではありません。仕事の必要性からかじった本や入門書は少しありますが、自分が生きている「今」「日本」という国を時間軸でとらえる必要があると考え​​、まず歴史について、そして「日本」を客観的に捉えるためにアイヌや朝鮮、中国、台湾などのアジアから世界へと関心が広がりました。​​​​
​ 専門的な知識や研究ではなく、あくまでも私の理解ができる範囲でご縁のあるところからスタートしました。そのうえでようやく経済や政治、メディアにリンクしてきたところです。SIMAKUMAさんに間口を広くしてもらったところで、ご縁のあった次の1冊を選びました。​
​​ ​ヴィクトール・E・フランクル『夜と霧 新版』(池田香代子訳 みすず書房)​​
​​​​​​​​​​​ 実はDEGUTIさんの選んだ山本七平『「空気」の研究』は、今お風呂タイムに読んでいる『別冊100分で名著 メディアと私たち』にも収められています。(他に『世論』(リップマン)、『イスラム報道』(サイード)、『1984年』(オーウェル)また、日曜夜のお楽しみのNHK『美の壺』の時間帯に放映された『ズームバック×オチアイ』でもオススメで紹介されたんです。​​​​​​
​​ 立て続けに山本七平の『「空気」の研究』が重なって気になっていたところ、もう1冊ビビビっと来たのが『夜と霧』です。​​
​ 先週日曜日の『ズームバック×オチアイ』のテーマは「教育の半歩先」。休校、分散登校、リモート授業と、コロナ禍で問い直された教育。ほんの少し前に英語民間テスト活用や記述式の共通テスト見送りが決定したところ、まだ教育は迷走が続いています。​
 大学入試の新システム​「JAPAN e-Portfolio」​も 運営許可を取り消すようです。大手企業であるBenesseの企業利益に振り回されるような経済主導の教育はまっぴらです。
​​ そもそもどのような​​
​​「学び」​​
​ ​が必要なのでしょうか。そんな考察の中で、「豊かさ」についての示唆を与える書として紹介されたわけです。​​
​​​​​​
​​​​​ 『夜と霧』は日本だけでなく世界でも大変有名ですが、このたびは新訳の​池田香代子さん​の本を挙げます。​「心理学者、強制収容所を体験する」​とあるように、精神医学をまなぶ​フランクル​は、第二次世界大戦中、ナチスにより強制収容所に送られた体験を著しました。
​​ 表紙のフランクルの被収容者「番号」​「11910」​は、持ち物や経歴といったその人個人の属性はもちろん、かけがえのない「名前」も、人間の尊厳も奪われ、労働者というモノとして扱われた象徴と言えます。そして、裏表紙には作中の次の箇所が紹介されています。​​
​​ わたしたちは、おそらくこれまでのどの時代の人間も知らなかった「人間」を知った。
 では、この人間とはなにものか。
 人間とは、人間とはなにかをつねに決定する存在だ。
 人間とは、ガス室を発明した存在だ。
 しかし同時に、ガス室に入っても毅然として祈りのことばを口にする存在でもあるのだ。​
​​ 本当に、想像を絶する収容所生活です。シベリア抑留者の方のお話も直接取材しましたし、本も読みました。昨年の南京フィールドワークのあと、多くの戦争関連(特に日中戦争)の記録や本、講演や映画、証言に触れてきました。いつも戦争の中では個人の人間性は抹殺されます。労働に適さない被収容者は移送されてガス室送りか火葬場へ、そんな選別の連続の中、筆者は生還するのですが…。
​​
​​​​​​​​ 被収容者心の反応は、施設に収容される段階収容所生活そのものの段階、収容所からの出所または解放の段階3つの段階に分けて記録されています。その中の収容所生活の段階は、今の日本の状況と重なるようで、そこにもぞっとしました。​​​​​​​​
 もちろん絶望的な収容所の生活と今の日本の状況は異なるのですが、まあ日本については話がそれるので​『夜と霧』​における人々の変化に戻ります。
​ 飢餓と重労働、暴力による懲罰や仲間の死という生活が見慣れた光景になり、嫌悪や恐怖、同情や憤りという感動が消滅し、無関心になること。精神的に追い詰められた状態の中で、精神生活全般が幼稚なレベルに落ち込むということ。風前の灯火の自分の命を長らえさせることのみを意識し、非情になること。(これらのいわゆる「極限状況」の中で人間はいかに生きるか…というのが多くの文学作品の中でも主要なテーマになっているのですが。)
 そんな悲惨な極限状況の中で、人間の尊厳ともいえる以下の本質も明らかにします。
 すべてに無関心となる中で、政治へと宗教への関心は例外だったということ。
 精神的な生活を営んでいた感受性の強い人たちは、愛や詩や思想の真実によって至福を得、内面的に深まったこと。
 夕焼けの茜色に照り映える山並みなどの自然の美しさに感動し、うっとりすること。ささやかな収容所の中での芸術やユーモアに心が震え、喜びをかんじること。
 孤独の中で思索にふけりたいという渇望を失わないこと。

​​ 心理学者​フランクル​は、収容所生活の中でも「精神の自由」はありうると、苦しむことも生きることの一部であり、苦悩と死があってこそ、人間という存在ははじめて完全なものになると記録しました。​
​ ともかく、苦悩を客観的にとらえ、描写する(言語化)中で、超然と見なすことができる境地に至ると述べています。日々私たちに向けられた問いに、行動、適切な態度によって応えていくことが生きることの意味だと。​​

 たやすいことではありません。努力してそんな域に近づくことができるものではないと思うのですが、思うに人間性の高みや生きる意味とは、苦悩をどのように受け止め、自分自身がどんな態度でどう行動するかと葛藤するなかで到達できる境地なのでしょう。
​​ そのような高みは崇高すぎて畏れ多いので、せめて私としては自然の美しさに感動したり本を読んでうっとりしたりする喜びを感じるひとときを大事にしたいものです。
​ お金や名誉、偏差値のように数値で表現できないものこそが「豊かさ」だと思うからです。​
 教育の話に戻りますが、新型コロナ対策も日本の教育も瀕死状態です。必要なのは模範解答を選択することではなく、社会の矛盾や不条理に向き合い、無関心から脱して対話し思考するというための時間なのですが、教師も生徒もそんな余裕がますます失われているようで…。
​ ステイホームの期間中は、「豊かさ」について思いをめぐらせた人も少なくなかったと思ったのですが、どうなんでしょうか。​
​​
​ あちらこちらに話が飛び、とりとめのない紹介になってしまいました。ではSODEOKAさん、よろしくお願いします。(N・YAMAMOTO・2020・07・25)​​

追記2024・02・02
​​ ​100days100bookcoversChallengeの投稿記事を ​​​100days 100bookcovers Challenge備忘録 ​(1日目~10日目)​​ (11日目~20日目) ​​​(21日目~30日目)​ ​​​(31日目~40日目)​ ​(41日目~50日目)というかたちまとめ始めました。日付にリンク先を貼りましたのでクリックしていただくと​備忘録が開きます。​​​​​​​​​​​​​​​​​


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最終更新日  2024.02.12 21:12:52
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